【IWJブックレビュー】日露開戦の裏にあった真の目的とは 金文子著『日露戦争と大韓帝国-日露開戦の「定説」をくつがえす』(高文研)

 株式会社高文研の、真鍋かおる様から『日露戦争と大韓帝国』をご恵贈いただきました。

 本書は『朝鮮王妃殺害と日本人』の著者金文子による第二作です。本書は近年公開された『極秘明治三十七八年海戦史』、『日露戦役参加者史談会記録』などの史料を活用するとともに、日露戦争を韓国(大韓帝国)からの視点が取り入れられることで、これまでの日露開戦の定説を『くつがえす』ものとなっています。従来の日露交渉のもつれから防衛的に開戦せざるを得なかったという捉え方から、日本が仕掛けた戦争であることを貴重な史料を読み解くことによって明らかにしています。

金文子 著
『日露戦争と大韓帝国-日露開戦の「定説」をくつがえす』
高文研、2014.10

 日露戦争における両国のやりとりおよび戦地となった韓国の関わりが描かれます。韓国における完全な権益確保を目的とする日本は、ロシアから思うような譲歩を得られず、焦りをみせます。そしてついに開戦を決意します。一方ロシアは、日露両国が友好であることは両国の利益にかなうと考え、日本の要求を呑むとの回答を送ります。しかし、「韓国を配下に治めてもロシアとの戦いは避けられない」「勝てるのは今だけだ」といった声に押され、ロシアの動きを認識しながらも日本の首脳は回答書の到着を待たずして開戦に合意し、ロシアに対して最後通牒を行います。こうして日本はロシアに戦争を仕掛けたのです。

 その頃の韓国はというと、1903年8月の時点で日露両国に韓国の戦時中立の保障を求めると同時に、日露開戦になれば日本が韓国の中立を侵犯するであろうことを前提にロシアとの同盟関係を希望しています。このときのロシアの対応は明らかではありませんが、日本は日露開戦の場合に「韓国の独立」を尊重すると標榜しつつ、その真の目的は「韓国経営」を進めるための密約を進めています。結局、密約は頓挫しますが、1904年2月8日、仁川に不法上陸した日本軍は韓国の戦時中立に止めを刺します。その後、日韓議定書が強要されたのです。
 
 日露戦争は韓国の権益を確実なものにしたい日本による韓国侵略戦争です。この戦争期に韓国は外交権が剥奪されましたが、日本の不法行為を国際仲裁裁判所提訴するために、万国平和会議への加入を求め、国際世論を喚起して国家主権を守護しようと外交努力を続けました。こうした努力は、過小評価されている大韓帝国の外交政策を見直し、継承されるべき歴史であると考えられます。

 日露戦争という歴史に戦地になりながらも第三者的な位置にある韓国の視点を入れることで、従来語られてこなかったことが明らかになっています。特に日露開戦に重点を置いて検証している本書では、やむを得ず戦争に突入したという説に対して、避けられる戦争を韓国支配のために日本が仕掛けたと説明しています。こうした考えにはいろいろな意見があると思いますが、帝国主義時代に日本が覇権を広げようとしたことも事実です。戦争の歴史を新たな視点で検証しなおしていくことは、平和な未来を築いてくために重要な作業となります。そうした意味で本書はこれまでの歴史感を見直すことができる1冊です。

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