【IWJブックレビュー】杉田聡著『天は人の下に人を造る―「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)

 「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」――。日本人であればほとんど例外なく、福沢諭吉をこの一句に結びつけて理解しているのではないでしょうか。

 しかし、『天は人の下に人を造る―「福沢諭吉神話」を超えて』の著者・杉田聡氏は、同書の中で、これは福沢諭吉の思想の表現ではないと強調しています。

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福沢は国民間に見られる不平等を単に是認するばかりか、固有の論理をもってその固定化をはかり、むしろ事実上「天は人の下に人を造る、人の上に人を造る」と主張したと判断できる。(同書より引用)

 
 福沢は、万人にとっての学問・教育の機会の重要性を説いたように思われましたが、すぐに貧民の教育には背を向け、差別教育を主張し、子どもや国民の「教育を受ける権利」を認めることはありませんでした。

また、外交政策に関しては、朝鮮の独立・中国の近代化を願うという建前のもとに、朝鮮の主権侵害・保護国化を図り、中国への侵略とその分割を正当化しました。

平等の思想を唱え、広く賛同を得ようとしたかに見えましたが、資本家・不在地主を擁護する立場から労働者や小作人の保護に反対し、貧民は海外へ移住させてしまえとまで主張しました。伝統的な性別役割を当然視し、そこから女性を解放することを否定し、むしろ女性差別を強めました、等々。

 これらが福沢諭吉の実像である、と著者は主張しています。

 なぜ今、福沢諭吉に注目すべきなのか。それは、2013年2月28日に行なわれた安倍総理の施政方針演説の冒頭で、彼の言葉が引用されたことに端を発しています。

強い日本。それを創るのは、他の誰でもありません。私たち自身です。”一身独立して一国独立する”(略)一身の独立を唱えた福沢諭吉も、自立した個人を基礎としつつ、国民も、国家も、苦楽を共にすべきだと述べています。「共助」や「公助」の精神は、単に可哀想な人を救うことではありません。懸命に生きる人同士が、苦楽を共にする仲間だからこそ、何かあれば助け合う。そのような精神であると考えます。

 
 現総理が利用しようとしている福沢諭吉の精神とは、一体どのようなものなのでしょうか。典型的な「福沢神話」に惑わされることなく、その真の姿に迫ろうとするとき、同書が欠くことのできない著作になることは間違いありません。

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