日刊ベリタ編集長で農業ジャーナリストの大野和興さんご本人から『食大乱の時代”貧しさ”の連鎖の中の食』をご恵贈いただきました。
本書は、農業ジャーナリスト大野和興氏と日本農業新聞記者を経てフリージャーナリストの西沢江美子氏が『農』と『食』に何が起こっているのかを明らかにしていきます。
農家が農業を続けられなくなっています。コメに市場原理が取り入れられ、米価は下がる一方で生産費が上回る、酪農においても飼料高、原油高が農家を苦しめます。借金をして国が推奨する大規模経営を始めた農家は、この状況で借金が返せなくなっています。こうした状況に、農業の主役は、大資本に移り変わろうとしています。日本は戦後「農地を所有できるのは耕すものだけ」という耕作者主義を進めてきましたが、その枠組みが崩れ、新たな地主小作関係が生まれようとしています。今の日本は経済界しか見えていないかのようです。
世界中で農民の営農とくらしが崩れています。そうした中の食糧サミットで出てくる対策は、中長期的に途上国農業の生産性の向上とインフラ整備、WTOで自由貿易の枠を広げ、市場を拡大していくことです。しかし、過去の同様な対策のせいで農業が荒廃していったのです。大量の農薬・化学肥料で土壌は悪化、画一的な生産のために限定した種子しか使わせない、混作ができないため不作の場合のセーフティネットがないなどです。
『安いことはいいことだ』と大量生産、大量消費を続けた結果、農は廃れ、非正規雇用はあふれ、貧困が拡大しています。その問題に立ち向かうためには、暮らしをつくりなおすしかないと本書は提案しています。『健康で文化的な最低限度の生活』を確保するため労働力を安売りしない戦いがあり、地元産の原料、昔ながらの機械、製法で豆腐をつくり続けるおばあちゃんが本物の『食』を守っています。貧困の連鎖を断ち切り、食を取り戻すには生きる権利を求めて戦うしかないのです。
本書で語られる状況を農家の努力が足りないと切り捨てていいのでしょうか。強者の論理で市場経済を拡大させ、すべてを飲み込むことを肯定していいのでしょうか。それらを他人事だと目を背けていたら自らもあっという間に飲み込まれてしまいます。グローバリゼーションが巻き起こしてる世界の混乱、貧困化に少しでも関心を持つために読んでいただきたい一冊です。
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