【献本御礼】津田大介・日比嘉高著『「ポスト真実」の時代――「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか』(祥伝社)

 名古屋大学男女共同参画センター教授である榊原千鶴様から『「ポスト真実」の時代――「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか』をご恵贈いただきました。また、ご献本にあわせて榊原様からはブックレビューもお寄せいただきましたので、下記にご紹介します。

津田大介・日比嘉高(著)
「ポスト真実」の時代――「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界をどう生き抜くか
祥伝社 2017/7/2

 2016年、オックスフォード英語辞書は、「今年の言葉」に「ポスト真実 post-truth」を選んだ。発表時の解説では、すでにこの言葉は10年ほど前から存在しているものの、イギリスにおけるEU離脱の国民投票やアメリカ大統領選挙により、2016年に使用頻度が急上昇したとして、「客観的な事実よりも、むしろ感情や個人的信条へのアピールの方がより影響力があるような状況」を意味するとした。

 たしかにそれは、2016年の政治状況を象徴する言葉と言えよう。だが日比は、「ポスト真実」が特定の政治的党派や政治家の分析に役立つだけでなく、政治手法に力を与えている現代的条件を明らかにし、「メディア環境」「事実軽視」「感情重視」「社会的分断」等が複合的に絡み合う現代社会へのアプローチを可能する概念であるとする。

 そして、このポスト真実に向き合う際に重要なのは、強固な信条に凝り固まっているわけではない「普通の人々」、すなわち公共の政治空間のマジョリティである人々に、「事実に基づいた思考、事実に基づいた社会の運用」の大切さ、「そのための根拠となる事実を示し続ける」ことであると説く。

 事実の軽視は反科学・反専門家の風潮を呼び起こす。そうしたポスト真実の時代に生きるからこそ、リテラシーを高める教育者の役割はより重要であると言う一方で日比は、これからやって来るかもしれない本当の危機を次のように表現する。

 嘘がまかり通り続けていくときに進行するのは、嘘を受容する側の感度の摩滅である。嘘に対する怒り、事実が隠蔽されることへの恐怖、虚偽を押し通した者たちへの忿懣を、次第に失っていくこと。そんなのはいつものことだ、昔から繰り返されてきたことだ、今はそういう時代なのだ、その嘘もその隠蔽も大したことではないのではないか、という冷笑や無関心やあきらめが社会全体を覆いつくしたとき、本当の危機がやってくる。

 やってくる怪物を止めるものがいなくなるのではない。そのときには私たち自身が、その怪物の一部になっているのである。(本書115頁)

 こうした危機に抗するために必要なのは、異なった〈文脈〉におかれている情報や人を、より適切に組みあせて活用し、協働していく能力、「読解力」であり、個人として出会い、相手を理解しようとすることで育つ繋がりの大切さだとする。

 本書は、日比の論考(第1章~第3章)と津田によるコラムおよび論考(第4章)、日比と津田と対論(第6章)からなる。海外だけでなく、共謀罪、安保法制といった日本の政治状況を見据えたタイムリーさに留まらず、始まってしまった「ポスト真実」の時代を分析し、生き延びていくための方途を示す点で、まさにいま、手にすべき一書と言えよう。

名古屋大学男女共同参画センター教授
榊原千鶴

 「冷笑や無関心やあきらめが社会全体を覆いつくしたとき、本当の危機がやってくる」との緊張感溢れる忠告に背筋が伸びます。

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(※)役職名は掲載当時のものです。

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