「橋下徹リツイートスラップ訴訟」控訴審判決、コロナ禍により延期が決定!! 弁護団の楠晋一弁護士が控訴審判決についての見通し!「特別寄稿『リツイートに対する不当な名誉毀損訴訟と闘う』『橋下徹リツイートスラップ訴訟』の概要および第一審判決の問題点と控訴審の見通し」を寄せていただく! 2020.5.21

記事公開日:2020.5.21 テキスト
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 大阪高等裁判所で、5月28日午後1時15分から行われる予定でした「橋下徹リツイートスラップ訴訟」控訴審判決の言い渡しですが、コロナ禍により延期となってしまいました。弁護団は、同期日に行われるよう上申書を提出しましたが、裁判所の決定は、残念ながら覆りませんでした。

 他方、弁護団の楠晋一弁護士から、IWJにご寄稿いただきましたので紹介します。青年法律家協会の機関紙『青年法律家』に寄稿されたものの加筆版で「橋下徹リツイートスラップ訴訟」の経緯が、始まりから現在の控訴審の見通しまで解説されています。

 今回の控訴審で、弁護団は、毛利透京大教授(憲法)と石橋秀起立命館大教授(不法行為法)のお二人の著名な専門家に意見書の執筆を依頼し、快諾いただき、できあがった意見書を裁判所に提出しました。意見の内容との要約した文章も記載されています。法令解釈に関わる高度な議論が展開されています。ぜひご一読ください。

———————-以下ご寄稿文———————————–

リツイートに対する不当な名誉毀損訴訟と闘う~「橋下徹リツイートスラップ訴訟」の概要および第一審判決の問題点と控訴審の見通し

 弁護団 弁護士 楠晋一

1 事件の背景

 2017年10月に行われた衆議院選挙で日本維新の会(以下「維新」という)が後退し、(維新所属当時)の丸山穂高衆院議員が松井一郎維新代表に衆議院選挙の総括と代表選挙を求めた。これに維新元代表で元大阪府知事の橋下徹氏(原告)がツイッターで「ボケ」という言葉を連発しながら、特に丸山議員の松井代表への言葉遣いを激しく批判した。

 橋下氏による公開パワハラの様相を呈する中、同月28日、一市民が「橋下氏、丸山議員の党代表「茶化し」2度目・・・松井代表『20歳も年下に我慢している』」というスポーツ紙記事のリンクとともに「橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか!恥を知れ!」とツイート(元ツイート)した。

 橋下府知事時代に大阪府参事の自殺事件が起き(この件は2011年にフライデーが「大阪府幹部職員が爆弾証言『私の同僚は橋下徹府知事に追い込まれて自殺した!』」という記事にし、現在も「現代ビジネス」のサイトで閲読することが可能。)、元ツイート主もこの記事を念頭にツイートした。

 この元ツイートをインターネットメディアIWJ代表の岩上安身氏(被告)が、同月29日に何のコメントも付さずにリツイート(「単純リツイート」)した。岩上氏は、リツイート後15分程度で、さらに取材を深めて検証記事を発表しようと考え、リツイートを削除した。

 ところが橋下氏は事前の削除要求や抗議もなく、いきなり2017年12月15日に岩上氏に対して損害賠償請求訴訟を起こした。なお、橋下氏は訴訟で名誉回復措置は要求していない。

2 不当な1審判決

 2019年9月12日大阪地方裁判所(裁判長末永雅之裁判官)は判決で、前後のツイートの内容等からリツイート主の意図が理解できるような特段の事情の認められない限り,単純リツイートは元ツイートの内容に賛同するリツイート主の表現行為であるとして、リツイート主に元ツイート主と同等の法的責任を負わせる立場を示した。

 そして、名誉毀損の成否は一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準として判断するところ、ツイッターの閲読者は自ら新聞や週刊誌を購入・閲読する読者に比して受動的な立場で情報に接する、そのため、閲読者が先行報道やリンク先の記事やリツイートに先立つ原告のツイート(公開パワハラ)を認識していることを前提に当該リツイートを解釈すべきでないとした。

 当該リツイートは「大阪府知事であった原告が,大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき,当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」事実(「事実A」)を摘示したものと理解すべきであり、これは原告の社会的評価を低下させる表現である。

 そして、この内容は真実ではないし、被告が「原告が生意気な口をきいた※(当該幹部職員)が自殺した」(※()部分筆者)と信じていたとも認められないから違法性も阻却されないとして、岩上氏に損害賠償を命じた。

3 控訴審では2通の意見書を武器に逆転勝訴を狙う

 控訴審で岩上氏と弁護団は、毛利透京大教授(憲法)と石橋秀起立命館大教授(不法行為法)の意見書を提出し、逆転勝訴を狙っている。

(1) 毛利透教授意見書要旨(要約の文責は執筆者)

 ツイッター利用者の一般的理解では、単純リツイートはリツイートする者にとってその情報が注目に値するという程度の意味にすぎず、リツイートは元ツイートの内容に賛同する意思を示す行為と理解する1審判決はツイッター利用者とって驚愕すべきものである。

 また、1審判決は所沢ダイオキシン報道名誉毀損事件(最高裁平成15年10月16日判決)も念頭に置きながら、ツイッター利用者をテレビの報道番組の視聴者と同じく受動的な立場で報道に接する者と位置付けた。

 しかし、ツイッターの閲読者は、特定の人物を積極的にフォローする者であり、タイムライン上のツイートがフォローする本人によるものか、リツイートかを区別して読んでいる。1審判決のように、原則としてリツイートした者はその内容について賛同していると理解することは、ツイッターの基本的仕組みに反するし、当然一般の利用者の理解にも反している。

 リツイートに対する名誉毀損の成立を認めると、リツイートした者の中から自分の気に入らない者だけを被告にして訴えるという原告の選択による恣意的法的制裁に裁判所が加担することになる。それはリツイートという表現行為に対して明らかに過度に広範な制約を課すものであり、表現活動への強い萎縮効果を招く。

 アメリカ合衆国では、ツイッター上に限らず、インターネット上の表現行為で被害を受けた者は、元の表現者を被告として訴訟をすべきであり、引用者はその内容について免責されるという法理が判例法上確立している。

 インターネットはグローバルなメディアであり、ツイッターの仕組みの理解においてアメリカの理解が有する重みは格別である。グローバルなメディアの使用から生じる法的責任問題において、日本が特殊な立場をとることを意味する1審判決が、長期にわたって維持可能な立場であるとは思えない。

 また、単純リツイートはリツイート主が元ツイートの情報に関心があることを示すにすぎず、内容への支持を伴うものではない。そのため、リツイート主は表現内容の真実性などについて満足な主張立証活動が期待できない(真実性の主張立証を行うのに最も適した主体は元ツイート主である)。1審判決の立場では、被害者が元ツイート主ではなくリツイート主を提訴することで、本当は真実であり国民にとって有益な情報提供も主張立証活動が不十分なために不法行為と評価されてしまう危険が高まる。

 短文の投稿で成り立つツイッターは他の情報源と結びついて成立する表現媒体である。投稿者もそのことを前提に投稿する。閲読者の関心を引くが背景が分からないツイートに出会った閲読者は、ツイートの元になった情報に自らアクセスするのが一般的である。

 本件で想定すべき一般的閲読者は、大阪府職員の自殺についての先行報道を知っている者、もしくは先行報道をチェックしようとする者であり、先行報道を知らない者ではない。1審判決の立場では、ツイッター上の多くの表現が根拠事実を十分摘示しておらず名誉毀損とされるであろう。

 名誉毀損の元ツイートを単純リツイートしてもリツイート主への名誉毀損の成立は否定すべきであり1審判決は破棄されるべきである。

(2) 石橋秀起教授意見書要旨(要約の文責は執筆者)

 単純リツイートが行われた場合、リツイートを行った者が元ツイートの内容に関心を寄せていることに間違いはないが、その関心がどのような質のもの(例えば賛成、批判、備忘)であるかは、一概に言えない。単純リツイートに、元ツイートの内容に対する賛同の意思があるという経験則は、成立しない。また、元ツイートに賛同したからといって、リツイート主が元ツイート主に同化するわけではないから、賛同と名誉毀損の成否は関係ない。

 1審判決はツイッターを文理解釈し岩上氏が「事実A」(「大阪府知事であった原告が,大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき,当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」事実)を摘示したと認定する。

 しかし、単純リツイートした岩上氏が摘示した事実は「事実A」ではなく、「元ツイート主が事実Aを摘示したという事実」(「事実B」)であるという入れ子構造を踏まえる必要がある。事実Bの摘示に伴い事実Aが開示されることで、橋下氏の社会的評価が低下するかどうかは以下の2つの事実が検討されねばならない。

 第1に、我々は、何らの根拠も示されず、その真偽を確認するための手がかりが全く存在せずに提示された事実を真実であるとは考えない。そのため、名誉毀損事実が示されたからといって直ちに社会的評価が低下するわけではなく、根拠が示されて初めて示された内容を信じ社会的評価が低下する危険にさらされるのである。

 本件では、事実Aの真偽を確認するための手がかりが当該投稿に存在しなければならない。ところが、1審判決も認めるように、一般的な閲読者が先行報道の内容を認識していることを前提とすることは相当ではないのであり、事実Aの真偽を確認する手がかりは全くない。

 元ツイート主は一般市民の1人に過ぎず、情報源として特別に高い信頼性を獲得している者とは言いがたいから、元ツイート主が何らの根拠も示さずに摘示した事実Aを一般の閲読者が真実であると判断することはない。

 第2に、引用・紹介行為による名誉毀損においては、引用・紹介元に情報源として一定の信頼性が備わっていることが社会的評価の低下する前提となる。そのため、本件でも事実Aを摘示した情報源(元ツイート主)に信頼性がなければならない。

 しかし、一市民に過ぎない元ツイート主にはそれがない。そのため、事実Bの摘示に伴い事実Aが開示されても一般的閲読者は半信半疑であり、これをそのままの形で受け取ることはない。

 以上の2点を踏まえると、岩上氏が事実Bを摘示し、その結果として、事実Aが開示されたとしても、橋下氏の社会的評価が事実Aの内容通りに低下したと考えることはできない。

 以上により、岩上氏は、名誉毀損による不法行為責任を負わない。

 ところで1審判決は、一般市民によるたった1件のツイートから名誉毀損的事実を導き出している。しかし、事実Aについてその内容どおりに橋下氏の社会的評価を低下させるかどうかについて、1審判決はほとんど具体的検討を行うことなく低下させるとの結論を導いており、SNS上での一般市民による表現の自由の確保の観点から疑問を禁じ得ない。

 また、一審判決は、リツイートに関して「元ツイートの内容に賛同しない旨のコメントを付加してさえいれば、名誉毀損による不法行為責任を負わなくてよい」との誤ったメッセージを社会に対して発信するおそれがある。仮に、ある者が、元ツイートの内容に賛同しない旨のコメントを付加してリツイートしたとしても、そのリツイートが人の社会的評価の低下の危険につき過失ある行為と判断される場合には、不法行為責任(民法709条)が成立する。

 1審判決には、理論的な観点と、社会に対する影響の観点のそれぞれにおいて、看過しがたい問題点がある。控訴審においては、一般市民の表現の自由と名誉権の保護について、均衡のとれた判断がなされることを期待したい。

——————————–以上です。—————————

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