【特別寄稿】下流の都市部のために上流部の水害を容認する!? 「歴代自民党政権の人災」の本質を直視しない橋下徹氏がうそぶく「シビアな治水(河川)行政」――ダム最優先・堤防強化二の次の河川政策が招いた堤防決壊続出の台風19号被害 2019.10.26

記事公開日:2019.10.26取材地: テキスト
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(取材・文:フリージャーナリスト横田一)

 台風19号上陸の翌10月13日放送の「Mr.サンデー」で、維新創設者の橋下徹・元大阪市長から暴言が飛び出した。

 長野市の「千曲川穂保地区」の堤防決壊現場の映像が流れた直後、橋下氏は「治水行政はかなりシビアな判断をやっている」「『都市化されている下流地域に被害が出ないように上流部であえて氾濫させる』という考え方がある」と述べ、下流域のために上流部での被害を容認するという主旨の差別的発言をしたのだ。

▲橋下徹氏(横田一氏提供)

 続いて、「河川の災害に詳しい、災害のスペシャリスト」(テロップ)という布村明彦・中央大学研究開発機構教授(元国交省近畿地方整備局長)が専門家としての見解を求められて「あそこ(堤防決壊地区の下流の狭窄部分)を開くと、(下流の)新潟の方まで水害、洪水が行くということがある」と解説。すると、我が意を得たと言わんばかりに橋下氏が「下流部の方が都市化が進んでいるので、そちらの方が経済的被害が大規模になる」と補足した。

 正直言って唖然とした。「西日本豪雨による堤防決壊で51名の死者を出した真備町の悲劇を忘れてしまったのか」と呆れると同時に、「政権補完勢力を続けてきた維新の創設者らしい発言」だとも感じさせられた。「ダム最優先・堤防強化二の次」の河川政策を続けた安倍政権の職務怠慢に目が向かないような役割を橋下氏が買って出たように見えたからだ。

 千曲川の堤防決壊映像を見て私の脳裏に即座に蘇ったのは、治水行政に詳しい嘉田由紀子・前滋賀県知事が西日本豪雨災害直後に発した指摘だ。去年7月15日のIWJ配信記事「『西日本豪雨災害は歴代自民党政権の人災だ』! 河川政策の専門家で日本初の流域治水条例をつくった嘉田由紀子・前滋賀県知事インタビュー」で、「人災」と批判した理由をこう語っていたのだ。

「水没した真備地区は、ハザードマップ(被害予測地図)で2メートルから5メートルの浸水が予想された危険区域でした。真備地区では高梁川(たかはしがわ)の支流の小田川などで堤防が決壊していますが、この地区の堤防補強が最優先課題だったのです。滋賀県知事になる頃から『矢板(注1)やコンクリートで周りを囲むアーマーレビー工法で鎧型堤防(注2)にして補強すべき』と国に提案して来ましたが、歴代の自民党政権は『鎧型堤防は当てにならない。堤防補強よりもダム建設だ』と言って来た。この優先順位による河川政策が今回の豪雨災害でも大きな被害をもたらした」。

 歴代自民党政権の「ダム最優先」の河川政策を安倍政権も継承し、浸水危険区域での堤防強化を後回しにしてきた結果、西日本豪雨災害で真備町の堤防が決壊、死者51名の大きな被害を招いたというわけだ。

(注1)矢板:
 根切り工事で、掘削によってできる土壁が崩れないように押える為の土留め板。木製・鉄筋コンクリート製・鋼製がある。土木工事の際に用いる鉄板。
(注2) アーマーレビー工法で鎧型堤防:
 アーマーレビーとは鎧(よろい)をかぶった堤防を意味し、洪水が越えても破堤しにくい構造に強化した堤防のこと。堤防のり面をコンクリート・ブロックなどで覆う補強。

 しかし安倍政権は西日本豪雨災害の教訓を活かすことなく、再び同じ失敗を繰り返した。迅速かつ安価な強化工法まで提案をした嘉田氏ら河川災害のスペシャリストの指摘に耳を傾けず、全国の危険性の高い(ハイリスクな)堤防を早急に強化することを怠ったのだ。

 「国民の生命財産を守る」が口癖の安倍首相だが、実際には1年3ヶ月の猶予を最大限活用して各地で緊急堤防強化工事を進めることなく、長野県を含む7県71河川で135ヶ所の堤防が決壊した今回の台風19号襲来を迎えてしまったのだ。安倍政権の職務怠慢が招いた「人災」であることは、西日本豪雨災害の教訓と並べ合わせると、一目瞭然である。

西日本豪雨災害と同じ光景が広がっていた千曲川の穂保地区

 死者82人行方不明71人の被害を出した台風19号襲来から3日後の10月15日、千曲川の堤防が決壊した長野市穂保地区を訪ねると、西日本豪雨災害で堤防が決壊した真備町と同じ光景が広がっていた。一階部分の壁が抜け去った二階建て家屋が何軒も立ち並び、庭にはガレキに埋もれた車や農機具も横たわり、周囲は泥でまみれていた。堤防決壊で津波のような濁流が一気に押し寄せた激しさを物語っていた。

▲長野市穂保地区で(横田一氏提供)

 堤防脇の住宅も半壊状態。ようやく晴間が見える天候に回復したためか、長靴をはいた女性が家の周囲を見て回っていた。「ご自宅ですか?」と声をかけると、無言のまま小さく頷いた。そして何度も何度も自宅の周りを歩きながら、損壊具合を確認していた。

 被災者にとっては、受け入れがたい現実に違いない。堤防が決壊した千曲川穂保地区が非常に危険(ハイリスク)であることは明白だったからだ。『ダムが国を滅ぼす』の著者で、現地視察をしたこともある今本博健京大名誉教授(河川工学・防災工学)は、次のように指摘した。

 「(穂保地区の)下流の河道が狭まっていますので、せき上げにより水位が上昇して越水し、破堤に至った可能性が大です。堤防補強が完了していたようですが、補強のやり方がまずかったのでしょう。堤防の高さについての検討にも問題があったのではないでしょうか」

▲今本博健・京都大学名誉教授(横田一氏撮影)

 堤防決壊の実態が浮き彫りになる。それは「下流の河道(川幅)が狭まる危険個所であったのに、堤防強化が不十分で決壊に至った」というものだ。まさに「人災」と言っても過言ではないだろう。医療事故に例えれば、重病患者が、病院経営優先のヤブ医者から即効性のある安価な治療薬を処方されず、「大手術を受けるしかない」と言われて順番待ちをしている間に亡くなったようなものだ。

 こんな人命軽視のヤブ医者と二重写しになる安倍政権の責任追及が避けられない事態の中で、橋下氏はテレビ番組で「シビアな河川行政論」をぶち上げていたのである。橋下氏の発言に対してネット住民や一部のメディアが注目、疑問や驚きや批判の声がわきあがった。10月17日の日刊ゲンダイは「橋下徹元大阪市長の発言が物議 身近に潜む“差別治水”の闇」という見出しで次のように報じた。

 「(冒頭で紹介した)橋下氏の『氾濫』発言は視聴者にかなりの衝撃を与えたようだ。実際、ネット上には<大阪府民の為に奈良県民は死んでもいいって事?><そんな方法しかないの??><日本の闇>などの疑問や驚きの声が続出」

 橋下氏自身がどこまで意図したのか否かにかかわらず、堤防強化を早急に行わなかった安倍政権の職務怠慢から世間の関心を一定程度逸らす働きをしたことは確実だろう。維新創設者として橋下氏がこれまで安倍政権を補完してきた過去の言動と重なり合うように見えるではないか。

 先の今本氏は、千曲川堤防調査委員会の大塚悟委員長の発言に、こう反論した(IWJ10月18日配信記事「千曲川の堤防決壊場所は危険が指摘されていた!リスクが高い場所を優先的に堤防強化するべきだったのではないか!? 千曲川堤防調査委員会による現地調査後の記者会見」に大塚氏の発言紹介)。

 「鋼矢板補強についての質問に対し、委員長は『周辺地盤と馴染んでいないと効果を発揮しない』と答えていますが、国交省の言い訳をなぞっただけです。地震などによって、鋼矢板と既設堤防との間に空隙ができることを指しているようですが、たとえ空隙ができても鋼矢板は破堤を防ぎます」

 そして今本氏は「委員長は河川工学者ではなく地盤工学者のような発言です。今回の調査委員会も、現地を見るだけで、自らは調査をせず、国交省の調査をもとに、国交省の見解を結論とすると思われます」と続けた。先の記者会見での大塚氏の発言を見ても分かるように、堤防決壊の原因調査はしても、事前に堤防強化がされなかった不作為(河川政策の優先順位逆転)にメスを入れる姿勢は皆無だった。歴代自民党政権下で国交省が続けてきた「ダム最優先・堤防強化二の次」の河川行政を問題視、転換を求めようとする意欲は伝わってこなかったのだ。

▲現地調査後記者会見に答える大塚悟・千曲川堤防調査委員会委員長(横田一氏提供)

 今本氏は現役時代の災害調査で、被害者から「原因究明もいいが、二度と同じことが起こらないようにする研究もすべきだ」と言われたことがあるという。

 「それ以後はこのことを心がけています」(今本氏)。

 しかし去年の西日本豪雨災害の教訓を安倍政権が活かさなかったのと同様、目の前で起きた堤防決壊の原因調査だけで堤防調査委員会が事足りるのであれば、今本氏が肝に命じた再発防止にはつながらない。堤防強化を早急に行わなかった職務怠慢の責任追及をした上で、再発防止のために河川行政の優先順位を変更し、ダム建設を凍結してでも全国の堤防緊急点検と堤防の強化工事をすることが不可欠なのだ。

▲長野市穂保地区で(横田一氏提供)

 「Mr.サンデー」での橋下氏の問題発言は他にもあった。千曲川の堤防決壊と同じような情報開示不足の事例として、「緊急放流もそうですよ。ダムを決壊させないために緊急放流をさせて、下流を氾濫させることもあると」と述べてもいたのだ。

 この発言にも唖然とさせられた。ここでも、西日本豪雨災害の教訓を活かさなかった安倍政権の職務怠慢に触れていなかったからだ。堤防強化が実施されていなかったのと同様、ダム緊急放流でも改善すべき問題点がそのままになっていたのだ。

 西日本豪雨災害で愛媛県西予市の野村ダムでは、緊急放流で下流が氾濫して5名の住民が亡くなった。この被害が避けられなかったのかをダム操作の面から検証したのが、先の今本氏である。

 そして去年12月に愛媛県大洲市と松山市で開かれた西日本豪雨災害の検証集会で、人災濃厚と結論づける独自試算を次のように発表したのだ(1月9日のIWJ配信記事「西日本豪雨による甚大な被害は安倍晋三政権の『ダム緊急放流殺人』!? 河川工学が専門の今本博健・京都大学名誉教授が人災濃厚と結論づける独自試算を発表!」で詳しく紹介)。

 「(愛媛県西予(せいよ)市の野村ダムが)中小洪水対応の現在のダム操作ではなく大規模洪水対応の旧操作であれば、異常放流をしなくて済み、野村ダム下流での人的被害(死者5名)は避けられた」

 そして今本氏は、緊急放流による被害の再発防止策も提案していた。

 「今回の西日本豪雨で、ダムが緊急放流をしたことで下流域が浸水、多数の死者を出しました。国交省は『ルール通りに操作をした』と説明していますが、早急に全国各地のダムを一斉点検し、ルールを変える必要があります。

 多くのダムは200年に1回の洪水を想定して設計されていますが、それ以下の『想定内』の雨量でも、満杯になりそうな場合、緊急放流をするルールになっています。

 しかし越水(ダム湖の水を溢れさせる)で対応をすれば、緊急放流をするとしても、放流量は現在の緊急放流よりゆるやかになります。もし越水で壊れる恐れのある危険なダムは、想定外の豪雨では緊急放流しても越水に至る場合はありますから、現時点で撤去すべきです。

 その一方、越水に耐えうるダムは『緊急放流はしない』というルールに変えることで、今回のような被害を避けられます」(今本氏)。

 しかし安倍政権は緊急放流で死者が出てから1年以上も経つのに、全国各地のダムの一斉点検を行わず、今本氏提唱の「越水型」緊急放流へのルール変更にも着手していないのだ。しかも、超大型の台風19号襲来が予測されたのに、あらかじめダムを空にしておく事前放流の指示が発せられることもなかった。

 危険個所の堤防強化を怠ったことと同様、これも西日本豪雨災害の教訓を活かしていない安倍政権の職務怠慢事例といえる。それなのに、橋下氏はダム緊急放流についても情報開示不足事例と紹介するだけだった。

 政権批判を回避しながら物事を語るのが橋下氏の弁論術のようにも見えるが、問題の本質にメスを入れないようでは「ダム最優先・堤防強化二の次」の河川政策を転換、気候変動時代に対応可能な安価で迅速な水害防止策を打ち立てることは困難だろう。臨時国会で、安倍政権の職務怠慢がどこまで追及されるのかが注目される。

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