岩上安身「すべては体重差。もともとルール設定が無茶苦茶すぎ」
IWJのチケットプレゼントに当選し、会場で観戦したIWJサポート会員のTさんは、「もっと競り合うと思っていたのに」と、残念そうに感想を漏らした。
元プロボクサーでIWJキックボクシング部、会員管理を担当するサルサ岩渕こと、岩渕政史スタッフは、「やはり階級差(4階級)は超えられなかった」と語った。

▲那須川2回目のダウンの瞬間。
岩上安身は、「すべては体重差。もともとルール設定が無茶苦茶すぎた。メイウェザーのパンチは大げさでなく、かすっただけで倒れるパンチ。ボクシングにおいて10Kgの差は圧倒的。いくら天心といえども、くつがえせなかった」と解説した。
また、「多くの人はキックボクシング − キック = ボクシングだと思っている。RIZINの幹部らもそう考えて楽観していたのではないか」と指摘し、「実は全然別物」と続けた。
「特にディフェンス技術がまったく違う。皆、オフェンスに目がいってしまい、キックボクシングとボクシングのパンチテクニックがそう違わないように見えてしまうのだけれど、防御技術は、ボクシングの場合、ボクシングに特化した技術が発達していて、それを身につけていなかったら勝てない。
2度目のダウンをとったメイウェザーの右のボディからテンプルへのダブル。天心の左肘のガードを下げさせて、頭の上部を打ちぬいた。フィニッシュブローの左フックカウンターは天心の耳の後ろの急所にピンポイントでヒット。これも天心はカバーできていなかった。
天心はボクシングのディフェンス技術を身につけきれていなかった。無理のない話ですが」
一方、プレス用のインタビュールームで試合を見ていた中村尚貴記者は、試合が決まった瞬間、記者たちが一斉に悲鳴をあげるのを聞いていた。そんなどよめきの中、30代前半ぐらいの若い記者が「日本がアメリカに戦争で負けた時って、こんな感じだったのだろうな」とつぶやいたのが印象的だった、と語った。
那須川「もう怖いものはない」
試合終了直後、しばらく立ち上がれず、悔し涙を見せた那須川の心身へのダメージが心配される。

▲試合後、悔し涙を見せる那須川天心
イベント終了後にインタビュールームで記者会見にのぞんだ那須川は、「悔しかった。本気でいけると思ってたんで」と語った。
また、ダウンを取られたときのことを「立とうとしてもなかなか立てなくて、グワングワンして」と述べ、記者から「(格闘技漫画の)『バキ』とかで、グニャ〜となる感じに近いですか?」と聞かれると、「あ、そうか。そんな感じだったと思います」と答えた。
また、「まっすぐ立とうとしてるんですけど、セコンドの方を見たら、斜めになってる。気持ちは立とうとしてるんですけど、動かないって感じだった」と語った。
体へのダメージと回復の見込みを聞かれた那須川は、「今までダメージを受けたことがないので」と、笑いながら「すぐ抜けるんじゃないか」とも答えた。
さらに、「今まで自分が、これ(相手へのダメージ)、やってたんだと思って。あらためて、『(攻撃が)効く』って怖いな」と語り、記者たちを笑わせた。

▲試合後のインタビューでは時折笑顔も見せた那須川天心
それでもメイウェザーとの対戦という、今回の経験について那須川は「日本で誰も体験したことがない、自分しかメイウェザー選手を知らない」、「もう怖いものはないと思います、これ以上」と述べ、「この経験を生かして、次のステージに向かっていこうかなと思います」と前向きに決意を表明した。
那須川天心 試合後インタビュー
記者「まずは、メイウェザー戦、振り返っていかがでしたか?」
那須川天心「色々初めてのことが多くて、すごくいい経験になりました」
記者「最後、涙されていましたけど、そのあたりの心境をうかがってもよろしいでしょうか」
那須川「うん、まぁ、悔しかったですよね。本気で行けると思ってたんで。あんなにも悔しいことは、ないです」
記者「実際に対峙したメイウェザー選手というのは、いかがでしたか?」
那須川「最初すごい、こう、ナメてると言うか、笑ってたんですけど、自分がストレート一発入ったんですよね。当てたら、すごいプレッシャーかけてきて、で、正面のストレート打ってきて、それはこう、ガードしたんですけど、で、そっちに気を取られていると次にフック、でこの辺(こめかみ)打たれちゃって、そこでちょっとスリップ気味だったんですけど、立とうとしても中々立てなくて。そうですね、グワングワンした感じですね」
記者「試合後にメイウェザー選手、かなり天心選手を讃えて、『戦績には関係ないから君はチャンピオンのままだ』ということをおっしゃってましたが、そういう意味でどうですか」
那須川「そうですね。まあ、エキシビジョンマッチなんで、そうっすね、負けとはならないですけど、まぁ、心には一生残る。
その気持ちを忘れずに、これからも頑張っていきたいと思いますし、自分がね、メイウェザー選手、3分間こう、よけてよけてよけて、3ラウンドよけてよけてよけてくるのかな、と思ってたんで、本気で倒しに来てくれた。
自分はどんなにピンチになっても、倒されても、絶対に下がらないで前に出ると。勇気を持って前に出ようと思って戦ってたので、戦うつもりで最初からいたので、そこは、出来たかなと思います」
記者「試合内容はそのような形になってしまったんですけど、RIZINのこういった大晦日のビッグイベントで、しかもメイウェザーを相手にこういったことをやったということに関しての、感想をうかがえますか」
那須川「まあ、ちょっと、今日は、悔しいですけど、また次も、頑張れる気がしますし、もう怖いものはないと思います、これ以上。それはすごい、思いますね、うん」
記者「今後の目標などがあれば、うかがえますか」
那須川「今は、こういういい経験を、今回、日本人、誰も体感したことない、自分しかメイウェザー選手を知らないという、そういう経験ができたっていうのは、すごいありがたいですね。
この経験を生かして、次のステージというか、次に向かっていこうかな。頑張りたいと思います。
それとまぁ、そうですね。皆さんの応援が力になってるんで。すごい試合前にメイウェザー選手にムカついてたりしたんですけど、上がってみたら、すごいいい人というか、そうですね、はい」
記者「いつもやってるキックボクシングとの違いというのは、どこに一番感じましたか?」
那須川「ボクシングだから、というわけじゃなかったんですけど、プレッシャーがすごかったですね、ものすごく。
最初はナメた感じで来たんですけど、自分がちょっと打とうとするだけで、全部フェイントしてきますし、余裕っぽくしてて、全然そういう感じじゃなかったし。やっぱり一流だな、とは思いましたね」
記者「体格差、体重差というのは感じましたか?」
那須川「メチャクチャ感じましたね。向かい合ってみて初めて分かりましたね。会見の時とか、そんなに感じなかったんですけど。やっぱ、すごかったですね。もうちょっと出来ると思ったんですけどね」
記者「今までもらったパンチと、メイウェザーのパンチというのは、違いましたか?」
那須川「全然違いますね。これ以上、こんな強いパンチ、ないと思うんで。もう怖いもの、ないと思います」
記者「今日の経験を踏まえて、あらためて今後、ジャンルも含めてですけど、どの試合を中心にやっていきたい、というのは、ありますか?」
那須川「そうですね、まぁ、ジャンルというか、とりあえず次は、今のところは3月ですかね。3月10日にトーナメントが決まってるんで、そこに向けて、しっかり調整していきたいというのがあります。
この経験は、ほんと、何よりも大きいものだと思うんで。今日のことは絶対に忘れないです」

▲試合後、インタビュールームで質問に答える那須川天心
記者「お疲れ様でした。ここまで本当に、世界中で話題になるようなカードを、今日最後に勤めたわけですけど、改めて振り返ってみていかがでしたか?この、決まってからのことは」
那須川「そうですね、すごい長かったようで短かかったなと思うんですけど。初めてアメリカに行って、沢山の人に応援してもらいましたし、色んな人が協力してくれたんですけど、結果はいい方向には向かなかったですけど。
でもみんなに勇気だったり、挑戦するっていうことを見せることは出来たのかなと、少しは思うので、もっと強くなりたいと思います」
記者「メイウェザーのような、すごいストライカーと実際に手を合わせてみて、今後トレーニングで変えようと思ったことはあるでしょうか?あと、この試合から得た、最大の収穫はなんでしたか」
那須川「トレーニングはこれからも変えずに、このスタイルでやっていこうと思います。
収穫はメイウェザー選手の技を盗めたかな、と思います。やられたことは絶対忘れないんで、それを全部吸収して、やられたことを他の選手にやってやろうかなと思います」
記者「そのテクニックは、具体的にこれ、というものはありますか?」
那須川「具体的には、フェイントの仕方だったり、ポジショニングだったり、ジャブの打ち方だったり、パンチの打ち方だったり、そういうものですかね。
真似っていうか、盗もうと思いましたね。でも、ボクシングの技術だけで、普段の態度は真似したくないですけどね」
一同(笑)
記者「先ほど言っていた左ストレートですけど、その手応えと、あと、これが当たった時に『これが罠だ』とは思いましたか?」
那須川「いや、罠だというか、渾身のパンチだったんで。それからですよね、顔色変わりましたし、圧力が倍以上に感じたっすね。
『当たった!』って思ったんですけど、そっからはちょっと、怖さがものすごく増して。ちょっと、顔色を変えることは出来たのかな、と思います」
記者「手応えはあったんですか?」
那須川「手応えは、そうですね、倒れるほどじゃなかったですけど、『届いた』っていうのはありましたね」
記者「いつもだと、もっとステップを踏むと思うんですが、今日は動かなかったですよね」
那須川「どうなんですかね、動いてたつもりなんですけどね。動けなかったんじゃないですかね。
いや、もう、本当に試合前から、来るのか来ないのかわからないし、バンテージも、ねぇ、巻き直しましたよ。『遅れてんのにふざけんな』って感じじゃじゃないですか(笑)。そういうのも、作戦なのかなって、思いましたね。
まぁ、だからといって、結果が変わったことはないですけど」
記者「戦ってて、自分が研究されてるな、という感覚はありましたか?」
那須川「ありましたね」
記者「どういう部分で?」
那須川「自分は動くタイプの選手なので、それをこう、動こうとすると潰してきたりとか、プレッシャーのかけ方だったりとか。
普段はこう、下がるじゃないですか。でも、前に前に出してきてましたし。体格差を生かしてきたのかな、と感じましたね」
記者「メイウェザー選手は、体が大きいだけ強いってわけじゃないと思うんですけど、これからもっと体の大きい相手と戦う時、あると思うんですけど、大きい選手と戦って勝つために、何が足りないと思いますか」
那須川「今回の試合は、メイウェザー選手だからやった試合なので、そういう試合はほぼ無いと思います」
記者「お疲れ様です。かなりダメージを受けるダウンの仕方をしたと思うんですけど、あの、立ち上がり、フラフラしたりとか。ご自身の中で、今日のダメージって、今後、抜けるのにどれくらい掛かりそうかな、とか、現時点で自分の中でどれくらいの感じでダメージ受けてるなとか。さっきから首を気にしたりされてますけど、どうですか?」
那須川「そうですね、今までダメージを受けたことがないので、分からないですね」
一同(笑)
那須川「どうですかね、すぐ抜けるのかも分からないですし。どうなんですかね。すぐ抜けるんじゃないですかね」
一同(笑)
記者「明日とか明後日になってみないと、ちょっと自分でもわかんないっていう感じですか?」
那須川「そうですね、わかんないです。だから、本当に、ダウン取られて、『こんななんだ』って。今まで自分がこれやってたんだなって」
一同(笑)
那須川「改めて、だから、『効いた』って怖いな、『効く』って怖いなと思いました。まっすぐ、こう、セコンドの方見たんですけど、こう(ななめに)なってきて。
立とうとしたんですけど、足が言うこと聞かなかったですし、気持ちは立とうとしてるんですけど、『なんか動かない』みたいな感じだったんで、ちょっとビックリしましたね」
記者「よく、(格闘技マンガの)バキとかで、ぐにゃっとなるじゃないですか。あの感じに近いんですか?」
那須川「それでしたね。あっ、そっか」
一同(笑)
那須川「そんな感じだったと思います。本当、ぐにゃっというか。(手を歪めて)こうなってたんです」
(了)