大晦日のビックマッチのルールは、圧倒的にメイウェザー選手が有利!不利なルールをゴリ押しされた那須川天心選手には心理的な罠までが!? 他方で前哨戦では文句なしの圧勝!~11.17 RISE キックボクシング・那須川天心対内藤大樹戦観戦レポート 2018.12.30

記事公開日:2018.12.31 テキスト
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(取材・文:岩渕政史 記事構成:岩上安身)

 キックボクシング界の「神童」と呼ばれる那須川天心選手が、ボクシングの元5階級制覇王者の米国のフロイド・メイウェザー・Jr選手と、12月31日大晦日に対戦する。

 那須川天心選手は、その一戦に先駆けて、渡米してメイウェザーのジムで記者会見および公開練習を行った。

 その後、2週間のボクシングトレーニングを米国ラスベガスで敢行し、帰国して試合に向けて調整してきた。

 賛否はいろいろにあれども、今後、二度とこのような試合は組まれないだろう、という意味において、空前にして絶後のイベントであることは間違いなく、賛否両論を含めて、国内外から大きな注目が集まっている。

▲フロイド・メイウェザー・Jr選手と那須川天心選手(RIZIN提供)

 ビックマッチを控える那須川選手が、11月17日にキックボクシングの試合を行った。相手は前シュートボクシング日本チャンピオンの内藤大樹選手だ。

▲内藤大樹選手(RIZINホームページより)

 IWJスタッフ(会員管理担当)であり、IWJキックボクシング部員でもあり、元プロボクサーのサルサ岩渕こと岩渕政史が、那須川選手対内藤選手の試合を観戦取材した。ビッグマッチの前哨戦にあたるこの対戦で、那須川選手はどのような試合運びを見せたのか。ぜひ、岩渕の観戦レポートをご覧いただきたい。

 なお、岩渕は、11月5日に行われたメイウェザー選手の大晦日の試合(RIZIN.14)に関する記者会見を取材し記事を作成したので、こちらもあわせてご覧いただきたい。

因縁の対決! 内藤選手は1ラウンドKO負けの雪辱を果たせるのか!?

 那須川選手と内藤選手には過去に因縁があった。今から3年前の2015年8月に一度対戦をしており、内藤選手は、彗星の如く現れた当時まだ16歳の那須川天心選手に3度のダウンを奪われ、1ラウンドKO負けを喫した。

 果たして今回はその雪辱を果たせるかどうか。内藤選手は那須川選手との再戦を目標にして、ひたすらこの3年間、修練を積み重ねてきた。その3年間の思いをぶつけて、一矢報いることができるのか。

 一方の那須川選手は試合前、「もう二度と試合をしたくないと思わせるよう、叩き潰す」とコメント。大晦日のメイウェザー選手とのビックマッチを控え、万が一にも負けることは許されないのはもちろんのこと、内容自体も問われる試合となり、それはそれで大きなプレッシャーになったはずである。

 しかし、リングに入場してきた2人を見比べてみると、那須川選手の身体ががっちりとたくましく見え、階級は同じはずなのに、1~2階級ほど上の選手ではないかと錯覚するくらい大きく見えた。これでは、フィジカル的に内藤選手は相手にならないのではないか。そんな印象を見るものに与えたのは、実際の体格差よりも、気力と自信のみなぎり方の差だったのではないか。

段違いのパワーで内藤選手を圧倒する那須川選手! しかし、簡単には倒れない内藤選手!

 試合開始のゴングが鳴り、両者グローブをあわせてから試合が始まった。

 まずはお互い、軽いローキックやジャブの応酬で様子を見るのかと思いきや、那須川選手は、いきなりフィジカルにものを言わせた猛攻を開始。段違いのパワーで相手を圧倒しはじめた。重いパンチと膝蹴りでロープ際に内藤選手を追い詰める那須川天心選手。

 この時、那須川選手は相手をラッシュで追い詰めながらも冷静に内藤選手の癖を見抜いていた。内藤選手はロープに詰められたとき、一瞬、脱力して、背中をロープにあずけ、その反動を利用して前に戻るという動きをみせていたのである。

 内藤選手のこの癖を試合中に見極めた那須川選手は、ロープに向けて内藤選手をプッシュし、内藤選手がつい、今までの癖でロープの反動を使って無防備に前へ戻ってきたところに、狙いすましたカウンターの左ストレートを顔面にヒットさせた。ガードが甘くなっていた内藤選手は、たまらずに膝から崩れ落ちた。

 もはやこれで勝負は決したと思われたが、何とか10カウント以内に立ち上がってきた内藤選手。しかしながら、再び天心選手の圧倒的な左右のパンチと膝のラッシュを浴び、またもや左ストレートが顔面に炸裂、2度目のダウンを喫した。

那須川選手の左ストレートが次々と決まるのはなぜ!? 那須川選手の巧みなポジショニングを解説!

 那須川選手の左ストレートが面白いように当たったのはなぜか。フィジカルの強さもさることながら、ポジショニングに注目すべきだろう。

 那須川選手は右足が前になるサウスポースタイル。内藤選手は左足が前になるオーソドックスのスタイルだが、那須川選手は終始、踏み込んだ時に自分の前足が相手の前足の外側になるよう、ポジショニングを徹底していた。

 サウスポーとオーソドックスの戦いでは、前足をどちらか外側におくことができるか、そのポジショニングが鍵となる。相手の内側に自分が入ってしまうと、相手の利き腕であるストレートを正面からもらってしまうリスクが高くなる。それゆえ、相手の前足の外側へと、ポジションを取り、自分の正中線は外側に外して被弾しないようにして自分の利き腕のストレートを相手に打ち込むことができる者が優位に立つ。

 那須川選手は終始、セオリー通りに相手の前足の外側へとポジション取りをしており、基本に忠実な動きで全くつけいる隙を与えなかった。2度目のダウンを取ったときには、右足で相手の逃げ道を塞いだ上でラッシュを加えるという恐るべきテクニックでダウンを奪った。

 もはや、3年間の意地だけが最後に内藤選手を立ち上がらせたのではないかと思う。2度目のダウンを取ったあと再び立ち上がった内藤選手には、なす術は何もなかった。再び那須川選手の怒涛の雨あられのパンチを受け、たまらずレフェリーが那須川選手を止めに入り、劇的な試合の幕切れとなった。

 内藤選手の3年間のリベンジは、1R 1分59秒で幕を閉じた。格闘技に絶対はない、とはよく言われるセリフだが、この試合に限っては格闘技にも絶対はある、と思い知らされた。

 試合後、内藤選手は那須川選手に「3年間ありがとう」と伝え、その言葉を聞いた那須川選手は、マイクを握りながら涙をこらえることができなかった。鬼神のごとき強さと、相手の言葉に涙する少年のような純情さのギャップに満員のファンはとまどいながら惜しみのない拍手を送った。

大晦日のビッグマッチのルールは圧倒的にメイウェザー選手が有利! 那須川選手の純情さがあだになりはしないか!? 老獪すぎるメイウェザー選手に一矢報いることはできるのか!?

 さて、圧倒的な試合内容でビッグマッチの前哨戦を制した那須川選手。大晦日のメイウェザー戦に向けて、否が応でも期待が高まる。

 メイウェザー選手は11月5日の記者会見後、一転して自身のインスタグラムの投稿で試合出場を拒否し、一時は試合開催自体が危ぶまれていた。しかし、紆余曲折を経て、キックなしのボクシングルールで3分3ラウンドのエキシビションマッチ(公式記録としない公開試合)として開催することが決定した。

▲フロイド・メイウェザー・Jr選手(RIZIN提供)

 今ふり返ればメイウェザーのインスタでの「ちゃぶ台返し」は、まだ未確定だったルール交渉において、自分にとって圧倒的に有利で都合のいいルールをゴリ押しするための「芝居」であった可能性がある。

 イベント不成立となるとRIZINの評判はがた落ちである。大晦日の視聴率を気にするフジテレビ側も大あわてであったろう。

 ルール面ではひたすら妥協してメイウェザー側にとりすがるようにして開催第一に交渉を進めたに違いない。

 RIZINの榊原信行実行委員長は「何もこちらの条件は聞き入れてもらえなかった。メイウェザー様様だ」と述べたが、この時点でメイウェザー陣営の計略にはまっていた、というべきだろう。ルール交渉の時点で「勝負」は始まっていたのだ。

 メイウェザー選手はラスベガスの記者会見において、全くやる気のない素振りをみせ、必要以上に「これはエキシビジョンマッチ、試合ではない」「ワクワクしない」「楽して金を儲ける」などとイベントを盛り下げる不自然な発言に終始した。

 このメイウェザーの言葉を真に受けて、ネットなどでは「所詮はエキシビジョンマッチ」「茶番だろ」「メイは9分間逃げて、よけて、お茶をにごして金を儲けるだけ」といった冷ややかな反応が急増した。

 しかし、よく考えてみる必要がある。

 稀代の勝負師であると同時に稀有なビジネスマンであるメイウェザーが、なぜ自分の出場する興業の価値を盛り下げる必要があるのか?メイウェザーの「これは試合ではない」といったアナウンスによって、検討されていた全米中継はキャンセルになってしまった。興業収入や放映権料による収入のうち、一定のパーセンテージがメイウェザーに入るという情報も流れていた。それが事実であるとすれば、メイウェザーは、自分のよく回る口で自分の収入を減らしたことになる。何の考えもなく、あのメイウェザーがそんな馬鹿気たことをするだろうか?何しろ彼は「ザ・マネー」なのだ。金への執着心は半端ではない。この試合の「価値」を自らおとしめ、その結果、自分の懐に入る「マネー」を犠牲にしてでもそんな発言を続ける「理由」があったはずだ。

 こうした人を苛立たせる一連の発言は、那須川陣営を挑発するとともに、同陣営だけでなく、世間を丸ごと油断させようとする罠なのではないだろうか?

 もう一度、おさらいしておこう。

 両者には22歳を超える年の差とキャリアの差がある。片やアマで84勝6敗(8敗とも)、プロで50戦50勝無敗のレコードを持つボクシング界のレジェンド。片や4か月前までティーンエイジャーで、ボクシングの試合経験はアマ・プロ通して1度もなし。これだけで同じリングに上がることなど、本来ありえない組み合わせである。

 さらに厳格な階級制を敷くボクシングでは、絶対的な縛りである階級と体重。違う階級の選手同士が戦う場合、ボクシングでは、キャッチウェイト(契約体重)契約で、両者体重をそろえる。ところが今回の契約ルールは、「体重147ポンド(66.7・Kg)以下」というものだ。これは上限がメイウェザーの階級であるウェルター級で、それ以下でもいいというもので、キャッチウェイトとは到底呼べない契約である。ボクシングでは絶対にありえない試合なのだ。

 両者の体重差はもともと約10Kg、4階級ほどの差がある。メイウェザーはそれを下げる努力を一切しなくていい、という一方的にメイウェザーに有利な契約なのである。

 しかも、グローブは8オンスという軽さ。本来、ウェルター級以上は10オンス以上が規定である。8オンスのグローブでウェルター級のパンチが顎を擦りでもしたら、ノーダメージではすまない。

 ここでもメイウェザー側は容赦なく、自分に有利なルールをゴリ押しした。体重差がこれほどあるならば、グローブの重さでハンデをつけるのが「常識」であろうが、一切拒否。そしてルールでは判定での勝利はつかないが、「KO決着」は残されている。この点に同意したのは、メイウェザー側が天心をKOする「権利」を行使する意志があるからに他ならない。

 つまり表面的には「遊び半分」であることをアピールして、油断を誘いつつも、展開次第でチャンスがあれば本気でKOすることを狙ってくるだろう。大晦日は、表向きはエキシビジョンの体裁を取っているが、本人同士はガチガチの真剣勝負となるはずだ。

 世間はメイウェザーが傑出した「ディフェンスマスター」であることばかり強調するが、忘れてならないのは、メイウェザーが天才的な「カウンターパンチャー」であることだ。

 メイウェザーは天心をひたすら挑発し、天心がムキになってKO狙いのビッグパンチを振るうのを待っている。そこに小さく、強いカウンターをあわせ、一発でも効いたならば、その隙を逃さず、連打で一気にマットを決めるべくたたみかけるだろう。

 メイウェザーは勝利への貪欲な執着心を忘れた男ではない。カナリアは危険な歌を忘れてはいないか。大晦日は「茶番」扱いされながら、実のところ一瞬たりとも見逃せない戦いになるだろう。拳ひとつで世界を変えると公言している那須川選手は、メイウェザーにKOされることなく無傷でリングを降りられたら、異常なまでのハンディを与えられ、狡猾な罠まで張りめぐらされながらもサバイバルを遂げた史上最強の「グリーンボーイ」として、世界に名を轟かせるだろう。

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