【岩上安身のファイト&スポーツ】ルールは!? ウェイトはどうなる!? 50戦無敗のボクシング界レジェンドに同じく無敗の神童キックボクサー那須川天心が挑む!フロイド・メイウェザー・Jr RIZIN参戦発表記者会見 2018.11.5

記事公開日:2018.11.9取材地: テキスト動画
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(取材・文:岩渕政史 記事構成:岩上安身)

 まさかの展開とは、このことを言うのだろう。

 2018年11月5日12時、僕は六本木ヒルズ51階の豪奢なフロアにいた。ボクシング5階級制覇の元世界チャンピオン、50戦50勝無敗のレジェンド、フロイド・メイウェザー・Jr選手復帰戦の記者会見を取材するためだ。僕は、日頃は会員管理班でオフィスワークをしているのだが、過去にプロボクシングで9戦の試合経験があり(今は引退)、その経歴を買われて、取材担当に配置されたのだ。前日は睡眠不足で、眠い目をこすりながら興行主催者であるRIZINの流す記者会見のプロモーションビデオを見ていた。会場のスクリーンに流れた那須川天心選手の姿を見たときに、それがただのプロモーションではなく、正にメイウェザー選手復帰戦の相手であることを理解するのにそう時間はかからなかった。身体中の血が一気に逆流し、目が覚めた瞬間だった。

 フロイド・メイウェザー・Jrは50戦50勝無敗で引退した「生けるレジェンド」だ。あのロッキー・マルシアノの49勝無敗を上回る。ボクシングだけでなく、世界のすべてのスポーツ選手の中でメイウェザーより稼いだ人間はいない。自ら「マネー」と称する。ファイトスポーツの本場、アメリカでは知らない人がいないほどの超有名人であるが、日本ではあまり馴染みがないかもしれないフロイド・メイウェザー選手について、皆さまにあらためてご紹介したい。

 前述した通りボクシングプロ戦績50戦50勝無敗、5階級制覇の元世界王者である。ちなみに比べるのもおこがましいが、僕のプロ戦績は4勝4敗1引き分け。50戦して50回勝つというのがいかに超人的なことか、分かってもらえるだろうか。

 稼ぐお金も桁違いにすごい。2017年に行われたコナー・マクレガーとの試合では、1試合で約300億円を稼いだと言われている。世界スポーツ選手長者番付第1位にランクインしている。ちなみに、2位のサッカー選手リオネル・メッシ選手が約122億円、日本人では36位の錦織圭選手の約38億円が日本人の最高位である。私生活での破天荒ぶりや、ボクシング引退後の去就についても常に注目されてきたメイウェザーであるが、今回、満を持しての復帰戦の舞台にここ日本が選ばれたのである。

▲フロイド・メイウェザー・Jr選手(RIZIN提供)

 一方の那須川天心選手は、15歳でキックボクシング選手としてプロデビューして、24戦24勝いまだ無敗、立ち技格闘技の最高峰と言われるムエタイの強豪チャンピオンも複数撃破してきた、「日本キック史上最高傑作」と称される「神童」である。まだ20歳になったばかり。IWJでは、以前からその動向に注目し、たびたび記事にしてきたので下記に参考にされたい。

▲那須川天心選手(RIZIN提供)

 さて、今回の試合に関し、ここで一つの疑問に突き当たる。メイウェザー選手はボクシングの選手であるのに対して、那須川天心選手はキックボクシングの選手であるが、一体どのようにして戦うのか、ルールはどうなるのかということだ。実は、この記者会見では、ルールはこれから決めるとして、明らかにされなかった。関係者が一番気になるポイントだ。

 ボクサーがキックボクサーとキックありでのルールで闘ったら、キックにまるで対応できないため、全く試合にならないだろう。これは僕自身、痛いほどよくわかる。僕はプロボクサーとして現役引退するタイミングとIWJで仕事をし始めたタイミングが重なり、IWJキックボクシング部のメンバーとなったが、プロボクサーであってもローキックなどにはまったく対応できない。ボクシング界の頂点に立ったメイウェザーとて同じことだ。那須川の蹴りをすべてブロックできるとは、到底思えない。

 ボクサーがキックボクサーとしてプロのリングにあがるためには、足技に関してのガードを含めた壮絶な練習が必要になる。果たしてメイウェザーにその覚悟はあるのだろうか。

 僕はその点を疑問に思い、記者会見の質疑応答でメイウェザー選手にキックの練習をしているのか質問を敢行してみた。その回答は、キックを練習しているとも言わず、チームまたはRIZINがしっかり調整してくれるとして、明言を避け、練習については一言も触れなかったのである。はぐらかしたとも言えるかもしれない。その回答からは、キックの攻防に関して壮絶な練習をしているという気概は読み取れなかった。

■RIZIN.14 記者会見|PRESS CONFERENCE

※該当の質問は53:38くらいから

  • 参加者:フロイド・メイウェザー・Jr選手、ブレント・ジョンソン氏(ONE ENTERTAINMENT)、那須川天心選手、榊原信行氏(RIZIN実行委員長)、v氏(RIZIN統括本部長)
  • 日時 2018年11月5日(月)12:00~13:15
  • 場所 六本木ヒルズクラブ(東京都港区)
  • 主催 RIZIN FIGHTING FEDERATION

 僕はボクシング引退後、前述のような経緯で、岩上さんとのご縁もあり、キックボクシングを始めた。この経験から言わせてもらうと、ボクシングとキックボクシングとは、似て非なる、全く別物の競技ということだ。ボクシングをやっていると、よく聞かれるのが、痛くないのかということである。僕はそこまで痛くないと答える。実はボクシングは見た目ほど痛いスポーツではないのだ。確かに殴られるので痛いように見えるが、試合もしくはスパーリング中はアドレナリンが放出されているので、痛いと感じている暇はないのである。それよりも、攻め立てられてのスタミナ切れのほうがよほど苦しい。

 対して、キックボクシングはスネや腿を素足でガンガン蹴り合うので、とにかく「痛い」のである。アドレナリンくらいでは許容できない痛さがあるのである。キックボクシングを始めたての頃は、サンドバックを蹴るだけでも痛い。これが痛みを感じなくなるまでは、数年はかかるだろうと思われる。果たしてメイウェザー選手がこの痛みを乗り越えてまでキックボクサーに本格転向する気概があるのか、記者会見で感じた限りではそうは思えなかった。

 もちろん、急いでつけ加えておくと、ボクシングが危険なスポーツではない、という意味ではない。パンチを頭部に受けるボクシングは、脳を揺らし続ける。これは、ダメージが積み重なっていけば、ローキックで足が腫れた、などというレベルとは比べものにならない重い障害が残ることもある。

 以上のことから鑑みると、これから協議して詰めるとしているルールは、メイウェザー陣営からはキック関連技をほぼ封印した、ボクシングに限りなく近いルールを要求してくることは火を見るより明らかである。そして今回、メイウェザー側がとてつもないビッグネームという立場を生かして、交渉を優位に進められる立場にあるため、結局はメイウェザー側の意向通りのボクシングに限りなく近いルールで決着を見る可能性が高いと見ている。

 ボクシングルールに近いルールとなった場合に、那須川天心選手は、メイウェザー選手との年齢差を考慮したとしても圧倒的に不利となる。ボクサーはパンチだけを練習すればよいのに対して、キックボクサーはキック、パンチ、膝や肘、果ては首相撲まで、まんべんなく練習せねばならない。そのためにパンチにかけられる練習時間も分散し、ボクサーと比べれば相対的にパンチの精度が落ちる。これは仕方のないことであるが、問題はそれだけではない。

 これは岩上さんの意見であるが、ボクシングにはボクシングのルールを最大限に利用したボクシング専用のディフェンス技術があり、メイウェザーはまさに、このボクシング専用ディフェンス技術にかけては世界一のマスターであり、同時に相手のディフェンス技術のほんのわずかな隙に、針を穴を通すような有効なカウンターを打ち込む精密機械のような技術をあわせもつ。

 他方、キックボクサーである那須川選手はボクシングのディフェンスに完全には順応してはいない。メイウェザーの目からすれば「穴だらけ」である。例えば、ボクシングでのお互い密着した接近戦でのディフェンス技術は、ボクシングルールのもとで洗練されたもので、ボクシングの練習と試合を積み重ねないと身につくものではない。多少、短期間に特訓して、付け焼き刃的に身につけたとしても、無意識にディフェンスができるレベルまで落とし込むことはどうしても難しい。なぜならば、密着した際はキックボクサーであれば肘や膝を叩き込む、首相撲などに持ち込むなどの選択肢があるから、ボクシングのようなディフェンスは想定していないし、練習もしないからである。ここがキックボクサーがボクサーとボクシングルールで試合をする場合の最大の不利な点であると岩上さんは指摘する。自分もその点は100パーセント同意するところである。

 更に那須川選手に不利になる点がもうひとつある。体重の問題だ。現時点で体格の差が歴然として存在する。メイウェザー選手は普段70kgオーバーであるのに対して、那須川選手は60kgそこそこ、メイウェザー選手がどの程度の減量に応じるのかもこれからの決定事項であるが、十分に減量したとしても少なくとも5kg以上の差がでるだろう。これはボクシングの階級差でいうと約2もしくは3階級の差が生じる。

 キックボクサーは蹴りも打つために全身に筋肉がつくが、ボクサーは純粋にパンチのための筋肉のみである。そのため体重差がパンチ力に直結し、体重差による影響が甚だ大きい。そのためにボクシングの階級は非常に細かく別れているのである。キックボクシングの階級分けはボクシングほどには細かくないのはこのような理由からである。ただでさえ体格差の不利に加えて、ボクシングルールとなった場合にさらに不利になる所以だ。

 那須川選手は会見後のぶら下がり取材で今回の試合に向けての意気込みを語った。

 「ここで断ったら、一生闘うことはない、やるしかないな、と。一番すごい世界進出だ。ルールはこの際何でもいい」

 この意気やよし!である。この那須川選手の言葉こそまさに、事なかれ主義がこれでもかと蔓延している今の日本において、今一番欠けているチャレンジ精神の最たるものではなかろうか。無謀でもいい、とにかくチャンスがあれば何でも掴む。その姿勢を持つ彼だからこそ、今までもロッタン選手やスアキム選手などのムエタイの強豪チャンピオン、アメリカの総合格闘技UFCチャンピオンの堀口恭司選手とのキックの試合を呼び寄せ、チャンスを掴み撃破してきた。そしてこの姿勢こそが今回のメイウェザー戦を引き寄せたのだ。

 那須川選手はボクシングルールでも試合を受けるかと問われたとき、当然、どのようなルールでも受けると言い切った。

 大みそか当日、おそらくは彼に限りなく不利なルールとなるだろう。メイウェザーがアウトボクシングに徹して、那須川の攻撃を汗もかかずにかわし続けるだけの展開も予想され、「茶番だ!」「スパーリングか!」といった非難がわき起こる可能性も否定できない。しかしながらそれでも、日本の若き挑戦者に心からのエールを送りたい。格闘技に絶対はない。リングに上がってしまえば、2人だけ。何が起こるかはわからない。彼ならいかに不利な状況と言えど奇跡を起こしてくれるのではないかと期待してしまう。これからどのようなルールになるかも含めて目が離せない世紀の一戦、年末は熱い夜になりそうだ。

▲フロイド・メイウェザー・Jr選手と那須川天心選手(RIZIN提供)

※2018年11月9日加筆

 RIZINの記者会見からわずか3日後の11月7日、フロイド・メイウェザー・Jr選手は写真投稿サイト・インスタグラムの自身のアカウントへの長文投稿で、大みそかに予定されていた那須川天心選手との試合をキャンセルすると発表した。

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