橋下徹氏のスラップ訴訟!「請求原因は世界一ちっぽけでギネスものだが言論の自由への侵害はきわめて大きい」IWJ岩上安身が「日本にも反スラップ法が必要」と外国特派員協会で訴え! 2018.2.2

記事公開日:2018.2.3取材地: テキスト動画
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(文:花山格章)

 「ワン・リツイートというちっぽけな請求原因で、これほど社会的にも、国際的にも大きな影響をもたらす裁判はない。これはスラップ訴訟とソーシャルメディアの問題が交差した重要なケースだ」

 昨年10月、ツイッターのタイムラインで目についたツイートをリツイートした岩上安身は、1ヵ月以上経過した12月に突然、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏から名誉毀損で訴えられた。岩上安身はこの訴訟について、海外メディア向けに会見を行い、上記のように語った。

 2018年2月2日(金)15時より東京都千代田区の日本外国特派員協会にて、IWJ代表でジャーナリストの岩上安身が「リツイート行為に対する名誉毀損損害賠償請求事件」についての記者会見を行った。会見には、弁護士の梓澤和幸氏、坂仁根(さか・ひとね)氏が同席した。1月22日の司法記者クラブ、自由報道協会に続いて、この件では三度目の記者会見となる。

▲日本外国特派員協会での記者会見の様子

 岩上安身は、「コミュニケーションの自由に関わる問題。すべての市民が意見を表明したり、問題を提起したりする自由を阻害するものだ」と指摘。その上で、コミュニケーション行為を一切省いた今回の橋下氏の提訴に対し、遺憾の意を表明した。

 ツイッターというソーシャルメディアの中では、緊急的なものや予防的措置など、さまざまな問題提起のためにリツイートが行われる自由がある。また、リツイートは必ずしも元ツイートへの同意を意味していない。

 「ツイートにもリツイートにも、たくさんの可能性がある。ツイート内容に不満がある人や別の情報を持っている人は(ネット上で)話し合いができるし、訂正もすぐに可能。この相互作用がとても重要だ」と岩上安身は語り、その言論空間を恫喝的な訴訟によって萎縮させることはあってはならない、と述べた。

 坂弁護士は、「この訴訟は岩上氏を経済的、肉体的に疲弊させるスラップ訴訟だと考えている。大阪で裁判を起こされた(大阪へ出向かなくてはいけない)が、当事者間の公平を保つため、東京への移送を申し立てた」と説明した。

 岩上安身は、「日本には、反スラップ法を制定する機運はほとんどない。スラップ問題を広くみんなで考える必要がある。公共性を持った問題として、こちらから再提起していく」と表明した。

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■ハイライト

■全編動画

  • 会見者 岩上安身(IWJ代表、ジャーナリスト)/梓澤和幸氏(弁護士)/坂仁根氏(弁護士)
  • タイトル 日本外国特派員協会主催 IWJ代表・ジャーナリスト岩上安身による「リツイート行為に対する名誉毀損損害賠償請求事件」についての記者会見
  • 日時 2018年2月2日(金)15:00〜16:00
  • 場所 日本外国特派員協会(東京都千代田区
  • 主催 日本外国特派員協会(詳細、英語)

「この訴訟は、岩上氏を経済的、肉体的に疲弊させるスラップ訴訟だ!」

 会見の冒頭、坂弁護士から事実関係の説明があった。

 「今回、岩上氏はリツイートで訴えを起こされた。そのオリジナルのツイートがなされたのが、10月28日。内容は『橋下氏が大阪府職員を自殺に追い込んだ、という事実』というもの。元ツイートが投稿された後の10月29日頃、岩上氏がこれをリツイートした。そのリツイートに、岩上氏のコメントはなんら添付されていない。

 そして12月15日、橋下氏が岩上氏を大阪簡易裁判所に提訴した。内容は名誉毀損による損害賠償請求。賠償額は名誉毀損が100万円、弁護士費用が10万円。大阪で裁判を起こされたため、岩上氏は大阪の裁判所に出頭する義務が生じる。

 私たちは、この訴訟は岩上氏を経済的、肉体的に疲弊させるスラップ訴訟だと考えている。そこで、2018年1月19日、当事者間の公平を保つため、東京に移送することを裁判所に申し立てた(*)」

▲坂仁根 弁護士

 梓澤弁護士も、「橋下氏は明らかにパブリック・フィギュア(著名人、公的な人物)。このような形の裁判、すなわち被告にとって遠隔地の裁判を、元政治家あるいは公人が起こすことが模倣されれば、公人を批判する市民の表現の自由を萎縮させることになりかねない」と懸念を表明した。

*この会見の3日後(2018年2月5日付け)、大阪簡裁は「移送申し立て却下」を決定。岩上安身は、「原告の橋下徹氏の思惑は第1段階では、その目論見通りとなった」とツイートした。

大阪簡裁より送られてきた東京への移送申立て却下決定書及び大阪地裁への移送決定書

ワン・リツイートというちっぽけな請求原因で、これほど国際的に影響をもたらす裁判はない

 梓澤弁護士は、これはツイッターにおける表現の自由の問題だとし、「市民が手に入れたソーシャルメディア。そこに投じられた表現の自由の大切さを考えるべき。この訴訟ではリツイートが名誉毀損として取り上げられたが、ツイッターというメディアは、元ツイートを市民がリツイートすることでひとつの公共空間を形成する。その点で、この裁判は特に重要だ」と語る。

▲梓澤和幸 弁護士

 岩上安身は、「SNSのカルチャーは世界に広がっている。日本人がツイートすれば全世界に広がるし、逆もまた、しかり。日本の中のドメスティックな話題ではない」と述べ、すでに削除済みでコメントもつけていないワン・リツイートに対して、その場での抗議もなく、ある日突然、訴状が届く異様さを強調。「ワン・リツイートというちっぽけな請求原因で、これほど社会的、国際的に影響をもたらす裁判はない」と断じた。

 その上で、「日本には反スラップ法がない。スラップ(*)という法概念すら整備されていない状況だ」と指摘し、「この裁判は、スラップ訴訟とソーシャルメディアの自由の問題が交差した重要なケースである。コミュニケーションの自由に関わることであり、すべての市民が意見を表明し、問題を提起する自由を阻害するものだ」と述べた。

*スラップ訴訟
社会的強者が弱者に対して恫喝、威圧を加える目的で、また、相手を経済的、肉体的、精神的に疲弊させる目的で訴訟を起こすこと。アメリカのカリフォルニア州などでは受付の段階で審査し、スラップ訴訟をストップする制度が整備されている。

SNSでの相互作用によるコミュニケーション行為を一切省いた、橋下氏の提訴

 岩上安身は、これが「リツイートに対する訴訟」であることもポイントとして挙げ、このように続けた。

 「昨夜も橋下氏は、私を批判する内容のツイートをしていた。私は早速それをコメントをつけず、そのままリツイートした。もちろん100%同意していない。皆さんに考えてもらうためにリツイートした。こうしたこと(同意なきリツイート)も、当然起こりうることだから。

 ネット空間すべてで、私たちは過ちを犯すこともありうるし、不完全な情報を手にすることもありうる。たとえば、東日本大震災の時(福島第一原発の状況を懸念して)『放射能の雲が間近に迫ってくる』とツイートするとバッシングされた。のちにそれは事実だとわかったのだが、こうした予防的なツイートが叩かれたことを思い出してほしい」

▲岩上安身

 緊急時や、さまざまな問題提起のためにツイートやリツイートの自由があり、そこにたくさんの可能性がある。SNS上では話し合いも訂正もすぐにできるのだから、異論があったり別の情報を持っている人は、まず、その場でコミュニケーションをとればいい、ということだ。

 岩上安身は、「この相互作用がとても重要。今回の、コミュニケーション行為を一切省いた提訴という橋下氏のやり方を、非常に遺憾に思う」と力を込めた。

訴状が突然送り付けられ、開けてみたら削除済みリツイートの件。「こんな馬鹿げた話があるのかと驚いた」

 質疑に移り、新月通信社のマイケル・ペン氏が、「過去に、リツイートで訴えられた裁判の前例はあるのか。また、今回は岩上氏以外にもリツイートした人たちがいるはずだが、なぜ、岩上氏だけが訴えられたのか」と訊いた。

▲新月通信社 マイケル・ペン氏

 坂弁護士は、「リツイートが名誉毀損にあたる、とされた東京地裁の判例はある。ただし、それは最高裁の(確定)判例ではない」と説明。梓澤弁護士は、岩上安身が対象となったことについて、「市民にとって、今のマスメディアが不満な状況でしかない中、岩上氏が率いるIWJは、市民の支持を得て輝きを放っている。その岩上氏を、わざわざピックアップして裁判を起こした」と分析した。

 ペン氏から、訴状を受け取った時の心境を尋ねられた岩上安身は、次のように語った。

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 「私は、ジャーナリストとして(名誉毀損で訴えられる)法的リスクを負っている。過去にも同様の裁判を戦ったことがあるが、まず、はじめに相手から抗議が来る。それから話し合いがあり、どうにもならなくなって内容証明が送られてくる。そして、こちらが相手の要求に応じないとなれば、訴状が送られてくる。これが通常の手続きだ。それを橋下氏は、訴状をいきなり送り付けてきた。開けてみたら削除済みリツイートの件。こんな馬鹿げた話があるのかと驚いた」

▲岩上安身

 以前、月刊誌『新潮45』に「大阪府知事は『病気』である」という記事を寄稿した精神科医の野田正彰氏は、橋下氏から訴えられたが、最高裁で勝訴が確定している。岩上安身は、「野田氏に話を聞いたが、やはり、いきなり訴状が届いたとのこと。こういうやり方は、橋下氏の常套手段なのかもしれない」と話した。

言論の自由に「脅迫の自由」は含まれない。脅迫で言論の自由が萎縮してはならない!

 坂弁護士は、今回の橋下氏が起こした訴訟はツイッターを使った言論空間を萎縮させるものだ、と指摘する。これに関連して岩上安身は、この訴訟を明らかにした後に自分の周辺で起きたエピソードを紹介した。

 「私のもとには、『この一件以来、リツイートひとつするのにも、とても神経質になった』という声が寄せられている。また、弊社(IWJ)に2月1日未明、無言電話が何十回もかかってきた。何度目かに私が出たが、名前を名乗らず暴言を吐かれた。『提訴されて、ざまぁみろ』『こんな会社潰れてしまえ』と。明らかに橋下氏のスラップ訴訟に刺激を受けた人物による脅迫の電話だった。この事実を記録として残すために、私はこのようにツイートした。

 『橋下徹氏による、スラップ訴訟に刺激された何者かによる脅迫電話であろう。こうした行為は、許されることではない。言論の自由が、脅迫や威嚇、嫌がらせによって、萎縮されることがあってはならない。当たり前だが、言論の自由の中に暴言や脅迫の自由など、含まれてはいない。』

 これに対して橋下氏は2月1日の朝、『僕は訴えたことは一切公表しなかった。岩上氏が自ら大々的に記者会見を開いて、当然僕はそれに反論した。自分が記者会見を開いて大騒ぎしたことが原因だとは全く考えないようだ』とツイートしている」

 皆さんは彼のツイートを読んでどのように考えるか、と問いかけた岩上安身は、「(橋下氏は)黙って訴状を送り付けたことを肯定し、私が記者会見を開き反論したことを、それが脅迫の遠因かもしれないと責任転嫁している」と批判した。

日本に「反スラップ法」を制定する機運がないからこそ、これをきっかけにしたい

 フランス10の及川健二氏は、「かつて、消費者金融の武富士がジャーナリストの寺澤有氏を名誉毀損で訴え、億単位の賠償を請求した。その時の武富士側の弁護士は、現在の大阪市長、吉村洋文氏(大阪維新の会)だ」と話し、維新の関係者はスラップ訴訟を利用して言論を封じ込めてきたのではないか、という見方を示した。

▲フランス10 及川健二氏

 これに対して岩上安身は、「維新がスラップ訴訟を起こす傾向にあるのか、詳しいデータは持っていない。しかし、橋下氏は自分に批判的な言論を食い止めるため、訴訟を多数起こしている。

 何より注目すべきは、同じタイミングで、新潟県の米山隆一知事に対して、松井一郎大阪府知事がスラップと思われる訴訟を起こしていること。松井知事側の代理人は橋下綜合法律事務所の松隈貴史弁護士だ。この2つの訴訟は別々のようで、ひとつの連動したスラップ訴訟かと感じるところはある」と述べた。

 なお岩上安身は米山知事へ2月16日にインタビューを行い、松井知事の訴訟に関してもくわしくうかがう予定である。配信予定などについては続報をお待ちいただきたい。

 今後の対応に関しては、「日本では、反スラップ法を制定する機運はほとんどない。スラップ問題については、烏賀陽弘道氏(*)しかきちんと研究した人がいない。これを広くみんなで考える必要がある」と訴えた。

*オリコン・烏賀陽裁判

2006年、オリコンの発表する音楽チャートがジャニーズ事務所のタレントに甘いのではないか、という疑問を提示した月刊誌『サイゾー』の記事で、編集部の電話取材にコメントしたジャーナリストの烏賀陽弘道氏だけを対象に、オリコンが名誉毀損で5000万円の賠償を求めた裁判。オリコン社長は「烏賀陽氏が別の雑誌に書いた過去の記事も含めて謝罪すれば提訴を取り下げる」と発言、典型的なスラップ訴訟の事例となった。2009年、オリコンは請求を放棄している。

 その上で岩上安身は、「維新とはどんな政党で、橋下氏はどういう人かも、改めて観察し直す必要がある。さらに、ネットにおける言論の自由、ツイートとリツイートは同一かといった問題も考えなければいけない」と語り、このように締めくくった。

 「私はつまずかされて、いらぬ消耗をする羽目になり、そして多くの人に心配をかけ、励ましをいただいている。励ましには感謝している。しかし、ただ転んで、そのままということではない。この件を公共性を持った問題として、こちらから再提起していきたい」

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