【特別寄稿】アフリカは本当に「希望の大陸」なのか? ―「資源の呪い」に振り回される現地の市民 ~米川正子 立教大学特任准教授・元UNHCR職員【IWJウィークリー第8号より】 2013.6.26

記事公開日:2013.6.26 テキスト
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 1週間に起こった出来事の中から、IWJが取材したニュースをまとめて紹介する「IWJウィークリー」。ここでは、6月26日に発行した【IWJウィークリー第8号】に掲載させていただいた、元UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員の米川正子氏(立教大学特任准教授)の特別寄稿を掲載します。

┏━━【特別寄稿】━━━━━━━━━━━━
◆◇アフリカは本当に「希望の大陸」なのか?◆◇
~「資源の呪い」に振り回される現地の市民~
米川正子 立教大学特任准教授・元UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員

 6月上旬に日本政府が主催したアフリカ開発会議(TICAD)では、アフリカの「資源・経済・希望の大陸」や「世界最大の市場」というイメージが強調されました。また安倍総理は、政府開発援助(ODA)約1・4兆円を含む最大3・2兆円の官民支援を今後5年で実施すると表明しました。確かに企業にとってアフリカは魅力的ですが、果たして現地の一般市民にとってもそうでしょうか。

 筆者は、虐殺後のルワンダ、世界最悪の紛争地・コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部とアフリカ最長の紛争地・南スーダンをはじめとする国々における難民や国内避難民(以下、避難民)の保護と支援等、アフリカと20年間関わりました。その活動を通じて痛感することは、植民地時代から続く「アフリカの奪い合い(scramble for Africa)」が今後激化することです。

 石油、レアメタル、水や土地等を含む天然資源の確保のために、アフリカにおける中国やアメリカ等の大国のプレゼンスが強化されています。それに伴って現地で紛争や暴力が増し、強制的に移動させられる住民の数も増加しています。

 紛争による避難民が世界で一番多い地域はサブサハラ・アフリカですが、その中で、最多数を抱えているのがコンゴです。

 コンゴ東部は1996年から現在まで紛争が続き、その間600万人の市民が亡くなり、それは、第2次世界大戦後の世界において、一地域の犠牲者数として最大規模です。その上、性的暴力が氾濫しているため、現地は「女性・少女にとって世界最悪の地」や「レイプの中心地」とも呼ばれています。

 避難民のほとんどが10年以上にわたって数回逃亡し、政府、軍人や武装グループに対して常に恐怖心と不信感を持ちながら、生活を送っています。私が現地で勤務している際、避難民に「援助物資より、安全(security)が欲しい!」と言われたことがある程、現地の市民にとって安全の問題は深刻です。

 避難民を無くすためには、当然、紛争を止めたり、予防する必要があります。現在のコンゴ紛争はもともと、1994年に隣国のルワンダで起きた虐殺が飛び火して始まりました。

 しかし、パソコンや携帯電話に欠かせないレアメタルであるコルタンが、1996年頃にコンゴ東部で発見されて以降、紛争の原因は、民族対立やガバナンスの問題より、レアメタルの搾取の要素が強くなりました。その紛争経済の恩恵を受けているのが、国内と周辺国らの政治家、反政府勢力・反乱軍・民兵のリーダー、ビジネスマンと武器商人です。この事実は2001年以降、国連の報告書で何度も指摘されていますが、国際社会は特に措置はとっていません。

 さらに悪いことに、紛争の再発を防ぐはずの国連平和維持活動(PKO)が、資源と武器の取引に関与しているため、コンゴの紛争に加担しています。

 またPKO下で攻撃的な戦闘部隊の初派遣、そしてPKOによる無人機の初使用が今年3月に国連安保理で決定され、コンゴの資源を狙う南アフリカ軍らが介入することで、ますます「資源の呪い」が悪化し、現地の被害者がもっと増えることが予想されます。

 このような混乱した紛争状態の長期化によって、国連を含む紛争当事者は既得権益が守れるため、紛争の結果として人道危機が起きているというより、紛争状態と人道危機の長期化そのものが紛争の目的であるのです。

 上記では紛争による強制移動について触れましたが、開発事業や土地収奪による強制移動が近年アフリカ各地で浮き彫りになり、日本政府や企業もそれに関与しています。

 例えば、TICADの目玉であった、モザンビークで現在進められている巨大な農業開発のODA事業。「貧困削減と小規模農家支援」が本事業の目的とされていますが、実は日本の食料安全保障に貢献するため、日本等のアグリビジネスが現地の農民から土地を収奪し、大豆や胡麻などの生産輸出を展開することになっています。

 モザンビークの農民組織は、祖先の土地を守るため、日本政府に本事業の即時停止を要求していますが、まだ日本政府からの返事はありません。

 本稿では、コンゴとモザンビークという限られた事例しか取り上げていませんが、資源が豊富な地域の住民にとって、アフリカは「未来がない大陸」となっています。

 我々市民は、大国、多国籍企業や国際機関の利権や強欲を中心とした浮かれ言葉を鵜呑みにするのではなく、アフリカ諸国の市民の関心事や人権状況に耳を傾け、「資源の呪い」の問題解決に向けて、真剣に議論し行動をとる必要があります。


[1] 詳細は、モザンビーク開発を考える市民の会の公式ブログ「TICAD V:モザンビークの人々から安倍首相に手渡された驚くべき公開書簡」(2013年6月2日) を参照。

【著書】
世界最悪の紛争「コンゴ」(創成社新書)

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「【特別寄稿】アフリカは本当に「希望の大陸」なのか? ―「資源の呪い」に振り回される現地の市民 ~米川正子 立教大学特任准教授・元UNHCR職員【IWJウィークリー第8号より】」への1件のフィードバック

  1. うみぼたる より:

    私はアフリカ各国の区別がつかず、アフリカを一つの国として認識してしまう。そのくらい遠い国。
    そのアフリカのコンゴにおいて、
    > さらに悪いことに、紛争の再発を防ぐはずの国連平和維持活動(PKO)が、資源と武器の取引に関与しているため、コンゴの紛争に加担しています。
    >このような混乱した紛争状態の長期化によって、国連を含む紛争当事者は既得権益が守れるため、紛争の結果として人道危機が起きているというより、紛争状態と人道危機の長期化そのものが紛争の目的であるのです。

    紛争を止めるのではなく、紛争が目的になっている。
    日本政府による侵略とジェノサイドの歴史を見れば、日本が戦争する国になるということは、
    日本政府による犠牲者が増えるということ。人類にとって脅威すぎる。私の故郷がこんな国だったとはなんてことなの!

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