「『大戦は自分たちの世代には関係ない』と言っておきながら、靖国神社に出向くのは矛盾」 ~第7回 国際地政学研究所ワークショップ 2013.6.21

記事公開日:2013.6.21取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「大戦を行った世代からプラスの財産を相続するなら、マイナスの財産も相続するのが筋」──。

 2013年6月21日(金)、東京都千代田区のアルカディア市ヶ谷で「第7回 国際地政学研究所(IGIJ)ワークショップ」が開かれ、柳澤協二氏(IGIJ理事長)は「日中の歴史問題」を巡り、こう強調。最近の永田町に目立つナショナリズムを煽る発言には、「プラスの財産だけを相続したいという、いいとこ取りの本音がにじむ」とも指摘した。

  • 「趣旨説明・戦争法規(戦時国際法)」柳澤協二氏(IGIJ理事長)
  • 「戦争と報道」太田昌克氏(共同通信編集委員)
  • 「ドイツの場合―リヒャルト・カール・フォン・ヴァイツゼッカーの示唆―」庄司潤一郎氏(防衛研究所戦史研究センター長)

 シンクタンクである国際地政学研究所が開催しているワークショップは、「地政学」の観点から、毎回異なるテーマについて議論を重ねるもの。第7回は柳澤協二氏、太田昌克氏(共同通信編集委員)、庄司潤一郎氏(防衛研究所戦史研究センター長)の3人が、それぞれ「趣旨説明・戦争法規(戦時国際法)」「戦争と報道」「ドイツの場合―リヒャルト・カール・フォン・ヴァイツゼッカーの示唆―」のテーマでスピーチを披露した。

 トップバッターの柳澤氏は、「侵略の定義が学術的にも確立されていない」(安倍晋三首相)、「その当時は、慰安婦は必要悪であった」(橋下徹大阪市長)、「親の代が行った戦争で、私たちは知らない」(高市早苗自民党政調会長)──に言及し、「この種の発言は、紳士淑女は決して口にしないのが通り相場だった気がするが、この3人の政治家は、いとも簡単に言ってのけている」との懸念を表明した。

 柳澤氏は「中国に行くと、未だに『自分の親父は日本人に殺された』と話す人がけっこういるし、日本人の中にも『自分の祖父が、中国で戦争に従軍した』という人は大勢いる。そういう形で記憶が残っている限り、日中の歴史問題は、現代の問題として扱われるべき」と語り、「大戦は自分たちの世代には関係ない、と言っておきながら、靖国神社に参拝に出向こうとする政治家がいる。明らかに矛盾だ」と疑問を呈した。

 従軍慰安婦の問題に関しては、「敵国の戦闘員に対する非人道的扱いの問題ではないため、国際法の扱いにはならない」との見方を示した。橋下市長による「当時は必要悪だった」との発言には、「当時は違法ではなかったにせよ、その健全性となると話は別」と述べた。また、西村眞吾衆議院議員による「売春婦が、うようよいる」との発言にも触れ、「(彼女らには)生活費を得るために、仕方なく今の仕事を選んでいるフシがあるのではないのか」と語った。慰安婦を巡る発言には「社会的強制性」が無視されたものが少なくない、との趣旨だ。

 2番手の太田氏は、まず、オバマ米大統領が19日にベルリンで行った外交演説を取り上げた。「核兵器削減について話すという情報を得ていたので、注目していた。約40分間のスピーチのうち、核に関する部分はほんのわずかだった。しかし、その内容は歴史に残ると思う」と述べ、次のように説明した。「『正義に根ざした平和を実現するには、核兵器なき世界を目指すべき』というメッセージが含まれていた。オバマ大統領は、安全保障政策ではかなりの現実主義者でありながら、一方では、高邁な理念も持っている」。

 話題が尖閣諸島を巡る領有権問題に移ると、「1970年代初頭、ニクソン米政権は、日本との繊維交渉の難渋に悩んでいた」と話し、ニクソン政権内部には、「尖閣返還拒否」をテコにした対日圧力をかける案が浮上していたことを紹介した。「尖閣と繊維がからまる事態が存在する。それを示す文章の断片に10年前に米国で出会い、1回記事にしたが、その時は反応が鈍かった。だが、昨年末に調査を再開したら、もっといい資料が見つかった」。太田氏は「尖閣諸島の日本返還については、台湾政府からの反発もあった。米国の繊維交渉の問題は、台湾との間にも存在していたためだ」とし、「ニクソン政権は結局、施政権は日本に返すが、『施政権の返還は、台湾の領有権の主張を損ねるものではない』との声明を出した。今に通じる源流が、1971年の沖縄返還協定調印の頃に、すでに存在していたのだ」と強調した。

 「これが国際政治の冷徹な一面だ。たとえ相手が同盟国であっても、内政的な利益が優先されるケースが多々ある」とした太田氏は、「こういう過去の事実が報じられることで、日本の外交が有利になる面がある。尖閣問題では、われわれはより強い姿勢で米国に迫ることが可能だ。『米国が領有権問題をあいまいにしてしまったがために、われわれは今、こういう事態にある』との主張が成り立つからだ」と力を込めた。

 「この30年間、われわれが、ヴァイツゼッカー元ドイツ連邦共和国大統領をどう見てきたかに、日本人の思考の特徴が反映されている」。3番手の庄司氏はこう切り出した。そして、1985年5月に行われたヴァイツゼッカー氏の演説が、「反戦・非戦」の象徴にされたことに言及。「当時の日本人のヴァイツゼッカー観と、実像にはギャップがあった」とし、「それが如実に表れたのは、1999年のこと」と指摘した。「ドイツはコソボ紛争で空爆に参加している。当時、『アエラ』(朝日新聞出版)は『日本左翼の袋小路』というタイトルで特集を組んだ」。

 「ヴァイツゼッカー氏の演説には『侵略』という言葉は登場しない。過去の反省の対象は、あくまでもホロコーストで、第二次世界大戦には、ことに責任を感じる必要はない、としている」。謝罪と賠償についても、「『心に刻む』という言葉はあるが、『詫びる』とはひと言も口にしていない。謝罪すると『賠償』につながるからだ」とし、「ヴァイツゼッカー氏の演説は、対アジアで日本の植民地支配を認めて詫びた、1995年の村山談話とは趣が異なる」と力説した。「日本はノーモア・ウォーズだが、ドイツはノーモア・アウシュヴィッツだ」。

 庄司氏はこんなことも述べた。「ドイツの政治家は、公式の場では国益重視の建前に徹する。また、その正否は別として、ドイツのメディアもそのことを心得ている。だから、ドイツの政治家が感情的になって、失言を口にする例は極めて少ない。私は2001年にベルリンで、ヴァイツゼッカー氏にインタビューしているが、きつい質問や本音を探る質問に対し、彼は腕時計を見て『時間がない』と訴えてきた」。

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