【特別寄稿】安倍総理4選と日米安保の「強化」を培う新型肺炎~ウイルス禍と中国包囲網再構築 2020.3.18

記事公開日:2020.3.18 テキスト
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(フリージャーナリスト 加治康男)

序- 錯綜する思惑

 中国・武漢発とされる新型コロナウイルス感染症が新型肺炎と呼ばれ、世界中の人々を震撼させている。

 日本は3月に入ると、一部では心理的な恐慌状態に陥った。スーパーの棚からトイレットペーパーが瞬く間に消えた1973年の第一次石油ショック、1989年昭和天皇死去に至る延べ5か月にわたる自粛に次ぐ自粛の異様な畏縮(いしゅく)騒ぎの光景が2つ、現在の状況に折り重なって見える。同調圧力に弱く、やすやすと総動員されてしまう危うさから抜けきれない日本人の欠点が今、突かれているのではないか。

 今回の新型ウイルスを巡る騒動は、グローバル化が進展して事態が錯綜し、全体像をとらえるのが難しい。ウイルス禍拡大防止に名を借り、首相がコロナ対策には何の役にも立たない「非常事態宣言」ができる新型インフルエンザ対策特別措置法改正案を持ち出し、これに共産党とれいわをのぞく野党のほとんどが乗って13日に可決した。

▲安倍晋三内閣総理大臣(2020年2月17日、衆議院予算委員会インターネット中継より)

 これは、自民党憲法改正案の「緊急事態条項」の実験台としたい安倍政権の思惑が透けて見えるし、中国共産党による一党支配体制潰しに本腰を入れた米国が軍事アセットとしての日米同盟をこの機にどう活かすか、治療薬やワクチン開発にしのぎを削る多国籍製薬企業と世界保健機関(WHO)の癒着疑惑など、複数のテーマが複雑に絡む。

 政権延命の突破口を見いだそうともがいてきた安倍政権は、特措法がすんなり通過したことで、安堵したに違いない。その先にあるのは2021年9月の安倍首相の自民党総裁連続4選だ。

 ロシアを訪問した自民党の世耕弘成参院幹事長は、3月6日付掲載のイズベスチヤ紙のインタビュー記事で、トランプ米大統領やロシアのプーチン大統領と良好な関係を築いている安倍晋三首相に対し「世界は辞めることを許さない」と発言。首相側近議員が新型ウイルス禍のただ中、さっそく「総裁連続4選に期待」とのアドバルーンを揚げた。

 安倍に4選まで許し、日本において超長期政権化を築かせようとする者は一体何者なのか?

 中国を徹底して封じ込めようとする米国の戦略を実現するにあたり、日本をこのまま長期間にわたり、ぶれることなく隷属させ続けようとするワシントンの強固な意思のあらわれと見るべきだ。米国へのさらなる従属、それが安倍政権の「使命」であり、レーゾンデートルでもあるからだ。

 新型コロナウイルス禍を巡って起きている、可視化されにくい一連の動きを探ってみる。

記事目次

非常事態の創出

 デジャヴ。既視感、場合によっては既知感とも訳されるフランス語だ。

 日本で起きている新型コロナウイルスを巡る上記パニック現象は、安倍政権の下で「かつて体験したように感じる」社会現象でもある。

 森友・加計スキャンダル追及と、政権交代を目指す保守新党・希望の党を立ち上げた小池百合子東京都知事が巻き起こした旋風に揺れに揺れた、2017年秋を思い出す。

 安倍内閣は北朝鮮の核実験・ミサイル発射により、有権者の間に蔓延した恐怖感を逆手に取り、空襲警報並みのJアラートで人々の不安を極限にまで煽り立てた。そして、大仰な「国難」という言葉を乱発しつつ、「国難突破解散」に踏み切り、総選挙で「圧勝」した。デジャヴの正体はこれである。

 安倍政権は2月27日、全国の公立小中高校、特別支援学校に3月2日から臨時休校するよう要請し、ほとんどの学校がほぼ一斉に春休みを前倒しにして休校に踏み切った。それは巨大な波紋を巻き起こし、人々を呑みこんでいる。

 在宅勤務が奨励され、街角は閑散としている。商業施設、ホテル、航空会社などは顧客激減で悲鳴を上げている。コロナウイルス対策は、中小零細企業の大量倒産、労働者の手取り収入の大幅減、低迷する景気への決定的打撃となるのは必至である。

 さらにプロ野球オープン戦は無観客試合を実施、選抜高校野球は史上初の中止、大相撲春場所も無観客開催となる前代未聞の事態に至った。各種のスポーツ大会、イベントや集会の軒並み中止が洪水のように報じられている。

 3月3日に私が訪ねた、普段は東京からの客でにぎわう関東地方北端の温泉街は、ゴーストタウンと化していた。行楽地にはとにかく人影がない。

 2つの原爆投下と徹底的な空襲により、ほぼすべての都市が焼け野原にされた75年前の第二次大戦敗戦。それに続く少なくとも数年間、日本の戦前戦中世代は飢え、寒さ、虚脱と絶望にさらされた。格差拡大が叫ばれながらも、アジア、アフリカの途上国と比較すれば、モノが溢れ、かつてない利便さと快適さを享受している現代の日本人は今、戦後最悪ともいえる不安と恐怖感にさらされている。操作され、生み出された緊張感の覆う日本社会において、安倍首相は国会で特措法を通過させ、非常事態宣言をいつでも発令できる準備を整えた。

日本型集団主義と緊急事態条項

 戦前来、日本人が未だ克服出来ない個性亡き集団主義や瞬く間に総動員されてしまう気質が改めてむき出しになる中、この日本の「戦後民主主義」の脆弱さにつけ込んでいるのが、党改憲案4項目の中でも緊急事態条項に執着する政権与党・自民党である。

 安倍政権は韓国、イタリア、イランと比べて日本の感染者数の少なさを主張する。それは政府が感染拡大を抑止するために最優先されるべき検査体制の充実、とりわけ感染確認のためのPCR検査を怠っているためであろう。

 感染症対策の基本である、「検査による早期発見」をおざなりにして、感染者数を見た目だけ少なく見えるように抑える。安倍政権らしい、姑息なやり方である。その一方で、特措法改正によって、国会の事前承認なしの非常事態宣言を手中にすることには熱心だった。

 世界の世論を形成する米国の有力週刊誌、とりわけニューズウィーク誌はコロナ危機を特集し続けている。複数の緊急特集号は売り切れ、3月2日発行の同誌カバーストリーは「HHS Secretary Azar Warns Coronavirus Risk Could ‘Change Quickly,’ Says ‘Prepare for the Worst, Hope for the Best’.(アザール米保健福祉省長官、コロナウイルスのリスクは「急速に変化し得る」と警告、「最悪の事態に備え、最善を期して欲しい」と呼び掛ける)」だ。

 安倍政権とつながる同誌は、政権の非常事態宣言を容認し、総裁4選を後押ししているようだ。安倍氏の母方の祖父、岸信介元首相がA級戦犯として収監されていた巣鴨プリズンから釈放後間もなく、当時のニューズウィーク誌東京支局長に「英語のレッスン」名目で接近され、同誌外信部長の知己を得て米政財界はじめCIAと深く結びついて以来の「腐れ縁」であろう。

 米諜報機関からの潤沢な資金援助で1955年の保守合同がなされ、2年後に岸内閣が誕生した。2019年末、同誌の元米諜報機関員と称するコラムニストは「優に合格点」と評価し、「もしかして歴代最高の首相?」と安倍氏を持ち上げて、連続4選の布石を打っていた。

 ただし、安倍政権と米国の権力とは常に緊張関係にある。ここでは詳述を避けるが、戦前回帰を志向する、現人神天皇カルトの皇国史観と復古主義が少しでも具体的に芽生えれば安倍グループは直ちにお払い箱となる。ウイルス禍の機に乗じた緊急事態宣言の乱用はもってのほか。「『1947年平和憲法の条文には一切手を付けるな』との沙汰」に従う限り、ウイルス禍に限定した非常事態の宣言は黙認される。これを一番自覚しているのが安倍晋三氏自身であろう。第一次安倍政権は教育基本法への教育勅語の趣旨一部復活、旧日本軍の従軍慰安婦への組織的関与の否定などで憐れな末路を辿った。

「コロナ漬け」で憤怒を薄める

 製薬企業との根深い癒着体質を糾弾された世界保健機関(WHO)は、2月末に感染拡大リスクについて世界全体の評価を「非常に高い」に引き上げた。これに呼応して、日本では政府お墨付きの専門家たちが「潜伏期間中ですら他人に感染し、両肺に急激な異変を起こす前例のない特異なウイルス」、「拡大防止の成否はこれから1~2週間が瀬戸際」との見解を打ち出し、メディアは「東京オリンピックの延期、中止も」と報道し始めた。ところが「瀬戸際の時期」が3月9日に到来すると安倍首相は「今が正念場」と言葉をすり替えて先送りにした。

 こんな中、「武漢封鎖」という荒技によって一定の「封じ込め」にひとまず「成功」したらしい中国を除き、新型ウイルス感染は世界各地で拡大を加速させている。日本だけでなく世界各国が他国民の入国制限や他国に滞在した自国民の隔離、渡航制限、さらには国境封鎖などに動き、そうした自由な人の行き交いの遮断に拍車がかかっている。

 一方、北京は「中国は発生源ではない。我々も被害者だ」と西側からの非難に激しく反発する。中国外務省の中からは非公式ながら「ウイルスは米国から持ち込まれた」と‟反撃”に転じるツィートが発せられた。日本ではそれを「無責任」、「言い逃れ」と受け取り、かえって中国人への憎悪と忌避を促す風潮が醸成されている。

 桜を見る会、IR(統合型リゾート)、政権擁護のための露骨な検事総長昇格狙いの東京高検検事長の定年延長など一連の疑惑、汚職、不正への憤怒は「コロナ漬け」を一カ月も続ければ有権者の脳裏から薄らいでゆくのではないか。

 日本の有力ポータルサイトの「首相が全国の小中高校に臨時休校を呼び掛け、どう思う?」との質問には、調査最終日となった3月9日現在、延べ22万超の回答が寄せられ、「安倍政権のコロナ対策を支持」は54.4%で、不支持43.2%を11.2ポイント上回る結果が出た。支持率は4日前の53.4%から増加し、不支持との差も10ポイント以上広げた。

 さらに3月上旬から半ばにかけての主要メディアによる世論調査では直近の安倍内閣の支持率はほとんどが微増との結果が出た。ところが共同通信社の調査結果は「安倍内閣の支持率は49.7%で、2月の前回調査から8.7ポイント上昇。不支持率は38.1%」だった。安倍氏と側近たちは破顔一笑、小躍りしたに違いない。「株価急落、金看板に黄信号 安倍政権『発足以来の危機』」などの報道を蹴散らした格好だ。

 しぶとい、本当にしぶとい安倍政権は、マスメディアへの直接的操作や、政権に批判的な報道をするメディアへの攻撃を通じて世論を操作し、その結果、3月8日のNHKの日曜討論は、ついに野党議員を一人も出さないという一党独裁広報番組と化した。厚生労働省のツイッターはテレビ朝日の「モーニングショー」を名指しで批判、その批判が実は間違いを含んでいて炎上するという失態を演じているが、動揺する気配も見せていない。

 「一斉休校」が、果たしてコロナウイルスの感染拡大に歯止めをかける有効な手段だったのか、弊害の方が大きかったのではないか。その点について、ネットやSNSでは鋭い批判が数々見られるが、それでもマスのレベルで見たときは、総理の思いつきに過ぎない「大胆な決断」が、「やってる感」を醸し出し、一定の支持を得てしまっているのが現実だ。粗い政治手法が、細やかで思慮に満ちた意見を蹴散らすのに、またしても成功してしまっている。

政権は果たして崩壊の瀬戸際か

 今、通常国会中の解散の可能性が静かに浮かび上がってきている。

 4月に予定されていた中国の習近平国家主席の国賓来日は、予想通り「延期」という名の「中止」で落着した。日本政府は卑屈にワシントンに媚びながら、新型肺炎の蔓延を機に、有権者の不安、恐怖を政治的に利用し、「断固として国民を守る決意と姿勢」をアピールしようとしている。

 消費税増税による「リーマン級」の景気の失速、GDPのマイナス成長に加え、コロナショックと続く初動のミスや株価急落。安倍政権の本来ならば奈落の底へと沈んで当然の支持率を、「勝ちの見込めるレベル」にまで引き上げようと図る。工作が奏功して支持率が「回復」したところで解散総選挙を「断行」する。自公が過半数を維持すれば、安倍氏の自民党総裁4選はにわかに現実味を帯びる、というシナリオである。

 再び「国難突破」を絶唱して「安倍1強」が修復、再生され、総裁4選が実現した場合、安倍政権は最長あと4年半続く。首相は「米国に押し付けられた占領憲法の改正は私自身の手で成し遂げる」と、実際には実現を米国から禁じられ、叶うことのない悲願を、この国の極右層からの支持をとり続けるためだけに唱え続けることになる。

 病的に劣化した安倍政権は、2月27日までは崩壊の瀬戸際にあるように見えた。だがまだ足は徳俵には触れていない。日本の戦後レジュームの骨格をなすポツダム宣言を「詳らかには存じない」と悪びれず答弁する無知、質問に立った野党議員に「そんなこといいじゃないか」などと常習的にヤジを飛ばす無恥。この「胆力」と「横着さ加減」は「改憲はナチスの手口を見習ってはどうか」と公言した麻生太郎副総理と双璧をなす。

 在任期間最長にもかかわらず、「歴代最愚の宰相」との罵声も浴びせられているこの人物は、傲然と居直っている。「『改憲禁止』指令を厳守し、『100%米国とともにある』と言い続け実行していれば、ワシントンは『こんな使い勝手の良い奴はいない』と頭をなでてくれる。スタンスを変えない限り、見限られることはない」。こう確信しているようだ。

作為疑う声も浮上

 CDC(米疾病管理センター)によると、2月半ばごろまで、米国での今季(19年秋から20年冬)のインフルエンザ感染者数は最低2900万人、死者1万6000人超とされていた。ところが2月末までには、死者の中に新型コロナウイルスの患者が含まれているとの推測が出てきた。数の上ではインフルエンザとは未だ大きな隔たりはあるものの、3月に入ると米国でも新型ウイルス感染者と死者数は急増している。

 これを機に、日本を含む西側オルタナティブメディアには、新型コロナウイルス感染の蔓延には何らかの作為があるとの疑問が出てきた。

 2001年米同時多発テロ直後の米国で起きた炭疽菌事件。

 2018年には英国で「プーチン政権関与濃厚」と西側主流メディアが伝えた「ロシア製神経剤テロ事件」などが起きた。

 第一次大戦以来、米英を含む世界各国の軍事・諜報機関は、戦場だけでなく、破壊工作に使うため、細菌をはじめとする生物化学兵器の研究・開発に乗り出してきた。とりわけ第二次大戦後は、CIAから米国防情報局(DIA)に至るまで、これを武器に暗躍したという「黒い霧」が取り沙汰され続けてきたのは事実である。

 第二次大戦中、中国人捕虜を生体実験し、生物化学兵器の開発を試みた日本の第731部隊を率いた石井四郎中将は戦後、機密実験資料を米国に渡すことで戦犯訴追を不問に付された。実験資料の受け入れ先が現在のUSAMRIID(米陸軍感染症医学研究所)だった。USAMRIIDは韓国、日本を含め世界中に多数サテライト施設を設けている。さらに米国防総省傘下機関と関係する米国の大学が、中国の中国科学院武漢ウイルス研究所と協力関係にある武漢大学と提携しており、中国人ウイルス研究者が米国のスパイとなっていた可能性もあると指摘する論者もいる。

 一方、戦前、陸軍と密接な関係にあった国立伝染病研究所から戦後分割された予防衛生研究所は、石井中将を部隊長とする陸軍軍医学校防疫研究室に「軍医」や「技術者」として深く関わった面々の最大の再就職先となった。予防衛生研究所は1997年に「国立感染症研究所」(感染研)に改名し、いまに至る。

 横浜に停泊したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への対応で後手、後手に回ったと厳しく批判されている日本政府に隠された意図、サボタージュはなかったのか?感染経路不明ないわゆる市中感染がなぜ世界各地で次々に起きているのか? なぜ日本では新型コロナウイルス感染を判定するPCR検査が進まないのか?

 上の事実は、新型コロナウイルス感染の蔓延を巡るこのような多くの問いや不可解さを解く手掛かりになる。

 実際、日本政府が検査体制の不備を口実に新型コロナウイルス感染拡大に手をこまねいているとの怒り、不満の声が噴出している。ただ現時点では、何らかの組織的な作為の存在を検証するは極めて困難と言わざるを得ない。

(…会員ページにつづく)

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