ILOハラスメント禁止条約を批准しよう!~ハラスメント対策後進国と呼ばれないために 4.25井上久美枝氏(連合総合男女雇用・平等局長)が語った世界の動きと日本の現状! 2019.4.25

記事公開日:2019.4.27取材地: テキスト動画
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(取材・文:IWJ編集部)

 2019年4月25日、東京都千代田区の連合会館2階大会議室にて、日本労働弁護団の主催で、「ILOハラスメント禁止条約を批准しよう!~ハラスメント対策後進国と呼ばれないために」が開かれた。本集会の趣旨として、日本労働弁護団幹事長の棗(なつめ)一郎氏から冒頭のあいさつがあった。

 棗氏は、日本労働弁護団がカスタマーハラスメントを含む第三者ハラスメントを禁止するような包括的な立法を目指すべきだということで立法提言を行ってきたこととあわせ、4月24日、衆議院厚生労働委員会通過、25日の本会議で成立した一括法案の、女性活躍推進法等改定案の不十分さを指摘した。

 今回通過した法案が、「基本的にはハラスメントを禁止しなくてはいけないという規定もありませんし、第一に職場のハラスメントにつき責任を持つのは使用者でありますので、使用者のハラスメント禁止義務の規定がない法律になって」いる点を問題視する棗氏は、国際労働機関(ILO)のハラスメント禁止条約(※)を日本がきちんと批准して、「ハラスメント大国と日本が言われないようにしていきたい」と本集会の目的を明言した。

▲ジュネーブ、モリヨン道路側のILO入り口。公用語のフランス語(BIT)、英語(ILO)、スペイン語(OIT)で国際労働事務局と表記された看板がある。(2015年2月21日、IWJ撮影)

※国際労働機関(ILO)は各国の政府、企業、労働者それぞれの代表によって構成されている特色ある国際機関である。ILOは第一次世界大戦の講和条約を根拠にして、1919年に設立されており、100年の歴史を有する。スイスのジュネーブに事務局本部が置かれており、一般利用ができる文書室では、よく整理された貴重な資料が公開されている。今年のILO総会では2018年総会に引き続き、職場におけるセクシャルハラスメントや暴力を禁止・根絶するための国際労働条約の成立が主要な議題のひとつとなっている。

 以下、日本労働組合総連合会(連合)/総合男女雇用・平等局長の井上久美枝氏のスピーチをもとに、国際労働機関(ILO)が今年の総会で「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶に関する条約」の成立に向けて動いている中での、日本の現状を考える上で有用な発言を中心に紹介する。

 本集会では、他に日本労働弁護団事務局の新村響子氏・山岡遥平氏、少子化ジャーナリストで作家の白河桃子氏、新聞労連委員長の南彰氏、LGBT法連合会共同代表の池田宏氏、Business Insider Japan記者の竹下郁子氏がゲストとしてスピーチしている。職場におけるハラスメントと暴力について、登壇者それぞれの知識や経験にもとづいた多面的な知見が得られる本集会の全容は、ぜひ本記事の全編動画をご覧いただきたい。

記事目次

■ハイライト

  • 日時 2019年4月25日(木)18:30~
  • 場所 連合会館(東京都千代田区)
  • 主催 日本労働弁護団(詳細

昨年のILO総会で大ブーイングを受けた日本政府

 連合の代表として昨年6月のILO総会に参加し、今年6月のILO総会にも出席予定である井上氏は、国内の法案だけでなく、世界における暴力とハラスメントの根絶に向けたILOの新条約成立のための活動をされてきた。

 井上氏は4月18日の連合・中央執行委員会(第21回)で確認された、「国際労働機関(ILO)における『仕事の世界における暴力とハラスメント』に関する条約採択に向けた当面の取り組みについて」という方針にふれ、「セクシャルハラスメントの禁止規定を設けること、あるいはあらゆるハラスメントを含めた禁止の法体系を作ること」の必要性を訴えた。

 さらに井上氏は、「世界中でハラスメントを根絶しなければいけないという状況の中で、しかもILO創設100年です。そういう記念すべき年に、ハラスメントを根絶しようとする新しい条約ができる、これは大変歴史的なことだと思っています」と述べ、仕事の世界における暴力とハラスメント根絶のためのILO新条約に対する日本政府の消極さを批判するとともに、昨年2018年総会での様子を次のように語った。

 「昨年のILO総会でこの『仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶』の条約に関して、ILO事務局は条約案とそれを補完する勧告案を提案しています。それに対してほぼ全ての参加国の政府は、条約プラス勧告に賛成しています。しかし、勧告のみに手を挙げた国はアメリカです。そして日本はわざわざ立場保留ということを発言しました。

 その時に会場全体、とくに労働側、あるいはNGOから参加の方たちは、大ブーイングでした。そのぐらい日本政府はこの新しい条約ができることに対して、日本ではこの条約を批准するにはあまりにも範囲が広すぎて日本には追いつかないところがあるんだということで静観するというスタンスでしたので、そこはまだ変わっていないというところがあります」

ハラスメント禁止に消極的な日本政府を支える企業の思惑とは

 さらに井上氏は、「ハラスメントは国際問題になっています。ハラスメントに対応しない企業は、リスク管理ができてないということで、いろいろなところから排除されるという動きが出てきています。投資から排除される、人権に疎い企業なんだ、とどんどん排除されている。その中で日本がこのままでいいのかということがあります」と、日本企業の姿勢に疑問を投げかけた。

 続けて井上氏は、「使用者側はグローバル化がとか、国際競争の中で勝ち抜かなくてはいけないんだと言いながら、国際労働基準については、中核的労働基準を含めて、日本は批准していない」という遅れに遅れた実態を指摘した。この現状を放置すれば、いずれ日本企業は全世界の市場から排除される憂き目にあう可能性もある。

 ILOのハラスメント禁止のための新条約に沿った法律を制定することは、労働者保護のみならず、経営者目線から見ても必要なことだと思われる。

 最後に井上氏は、25日の衆院本会議を通った女性活躍推進法等改定案の不十分さを認めつつも、今後の足掛かりとして、本法律案に対する附帯決議の第16項の意義を説いた。それは「国内外におけるあらゆるハラスメントの根絶に向けて、第百八回ILO総会において仕事の世界における暴力とハラスメントに関する条約が採択されるよう支持するとともに、条約成立後は批准に向けて検討を行うこと」という項目である。

 この条項を読み上げつつ井上氏は、「職場のハラスメントを禁止することは国際的に大きなことであり、ここに日本が乗り遅れてはいけないんだ、だからILO条約批准に向けて声を上げていかなくてはならない」と強調した。

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