「競り場には魚が山になってる。売れてねえんだと思う」豊洲市場では早くも「築地に戻ろうぜ」の声が! 東京都による解体期日が迫る築地市場で連日の「場内お買い物ツアー」が続く! 2018.10.15

記事公開日:2018.10.15取材地: テキスト動画
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(取材・文:上杉英世)

特集 築地市場移転問題
※緊急、公共性に鑑み、ただいま全編特別公開中です。(18/10/2018 テキスト追加)

 豊洲市場が開場した10月11日以後も、ガランとした築地市場の中では、いくつかの店舗が営業を続けている。そして、これらの店舗を応援するために、一級建築士の水谷(みずのや)和子氏らの呼びかけにより、10月11日から連日、「場内お買い物ツアー」がおこなわれている。東京都が築地市場の解体期日としている18日が目前に迫った10月15日にIWJは、5日目となったツアーに同行取材した。

▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月15日 IWJ撮影)

<会員向け動画 特別公開中>

■ハイライト

■全編動画

  • 内容 築地市場営業権組合から3店舗(交代制)が営業

東京都職員の妨害も「営業権があるということを、毎回はっきり確認させる」という点では意味がある?

 市場としての構造的欠陥を抱え、汚染地下水噴出などの新たな問題が発覚し続けるという状態のまま、10月11日、豊洲市場が開場した。しかし11日以降も築地市場では、「築地市場営業権組合」に加盟する店舗の業者の方が交代で、営業を続けている。東京都が取り壊しを宣言している築地で、正当な営業権に基いて営業を継続している業者をサポートしようと、一級建築士の水谷和子氏らは「場内お買い物ツアー」を企画した。そして豊洲への移転日である10月11日以降、ツアーは連日、おこなわれてきた。

 10月15日、午前11時よりおこなわれた「場内お買い物ツアー」をIWJは中継した。市場機能の豊洲移転後の、築地市場での営業継続5日目となるこの日の「場内お買い物ツアー」には、IWJの呼びかけに応じて集まったIWJ会員を含む、約40名の市民が集まった。日毎に確実に、参加者が増えている。

▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月15日 IWJ撮影)

 市場の入り口では東京都職員が、入場者に対して名簿への記名を求めて来たが、水谷氏が、正当な営業権にもとづく店舗への買い物であることを伝え、全員がすんなり入ることができた。水谷氏によると、1回目から3回目までのツアーでは、「買い物での入場はできません」と繰り返す都職員との間で、激しい応酬があったという。

 「築地市場の廃止・解体」については熊本一規・明治学院大学名誉教授が、「仲卸業者及び関連事業者の持つ営業権」「築地市場解体には『廃止の認可』が必要であること」などを根拠として、法的な瑕疵を指摘している。

▲築地市場(2018年10月15日 IWJ撮影)

 「場内お買い物ツアー」を繰り返すうちに、「築地市場の場内では営業が可能で、築地市場解体事業は違法だ」との主張には、東京都職員も反論するすべがなくなり、大きなトラブルなく「買い物」での入場が可能となったそうだ。まるで「儀式」のような、東京都による入口での妨害について水谷氏は、「営業権があるということを、毎回、都にはっきり確認させるという点では、これも良いことかもしれません」と語った。

店頭販売は大盛況!干物や瓶詰など、20分たらずで完売!

 この日営業をしていた一軒の水産問屋のすぐ側では、都の職員がビデオカメラを構えて、営業の様子を撮影していた。水谷氏によると、「豊洲での営業権を取り消す」という脅しのために、都はこのような撮影をしているとのことだ。

 暖簾にもとづく正当な営業をおこなっている業者から許可を取り消すためには、本来ならば、都は公聴会を開いて、法的根拠を示さなくてはならない。それができない東京都は、業者に対して、築地で営業しているという記録を取って脅し、家族・親戚や取引先にまで手を回して、営業しないようにという圧力をかけているという。水谷氏は「悪質な地上げ屋のようなやり口だ」と、東京都を厳しく批判した。

 しかし、そのような都の陰湿な妨害をものともせず、店頭販売は大盛況であった。干物や瓶詰などを中心とした品物は、20分もたたないうちに完売し、御礼を言う店主と従業員には「がんばりましょうね」と激励の声がかかり、大きな拍手が起こった。

▲「場内お買い物ツアー」(2018年10月15日 IWJ撮影)

 次の店舗へと移動する間、地元である築地から参加した市民A氏に話を聞いた。築地市場の存続を願って、今回のツアーに参加したA氏によると、築地のある地元の中央区では近年、タワーマンションなどが立ち並び、区内に流入する人口が増えているという。子供連れの若い世帯も増えており、築地市場の価値やこれまでのいきさつを知らない新住民も多い。万一、築地市場の取り壊しが実現してしまう場合は不安を感じると語った。

 築地市場取り壊しに関する中央区の区民に対する住民説明会にA氏も参加したが、東京都の姿勢にはまったく誠意が感じられなかったという。住民が心配するアスベスト飛散についても、具体的な対策を語らず、ただ単に「がんばります」とか「安全安心」といった無内容な言葉を繰り返すばかりだったと、A氏は、不誠実な東京都に対し憤りを隠さなかった。

「1年か2年かけて築地に戻る」という運動を起こすというのが、現実的だと思う!

 二つ目の店舗で買い物が行われている間、豊洲市場での仕事から戻って来たばかりという、東京中央市場労働組合の中澤誠氏に話を聞いた。動き始めたばかりの豊洲市場について質問をすると、中澤氏は「荷捌きスペースが足らなくて、荷物があふれかえってる。競り場に行くと、魚が山になってるから、売れてねえんだと思う」と、開場わずか数日での、実感を語った。豊洲市場では床もたいへん滑りやすく、前日の仕事では、中澤氏自身が運転するターレの前輪が滑って荷物の下に潜り込み、危険な目にあったとのことだ。中澤氏は、「(熟練者である)俺がやってそれなんだから、本当に危ないってこと」と強調した。

▲中澤誠氏(2018年10月15日 IWJ撮影)

 狭くて危なくて、その上、動線も悪いなど、豊洲市場は市場としての基本的な機能が、まず話にならないという。その上、アクセスが悪いため、お客さんにも相当負担がかかっているだろう、と中澤氏は語った。店をやる側は、少々のことは我慢して慣れていくことができるかもしれないが、「お客さんの足まで遠のいたら、ヤバイんじゃないか」と多くの人が感じており、実際に、「築地に戻ろうぜ」という声が現場でも、ちらほら聞かれるそうだ。

 中澤氏は、「『移転させない』からは後退なんだけど、少なくとも『築地を壊させない』という運動を作り直さないと」と、今後の展望についても語った。市場機能が豊洲に移り、物流が止まってガランとしている今は、改築のチャンスでもあると、中澤氏は語る。

 「せっかくだから、リフォームして築地に戻ればいい。物流が動いている時に、現場の人間を差し置いて文化人が『この建物は残すべきだ』とか言うのは難しかったかもしれないが、今こそ、文化人たちの出番ではないか? 相当な準備と合意形成が必要で、簡単にはいかないだろうが、『1年か2年かけて築地に戻る』という運動を起こすのが現実的だと思う」と語った。

たとえ瓶詰であっても、販売することが続くことによって、築地は守られる!

▲猿渡誠氏(2018年10月15日 IWJ撮影)

 「お買い物ツアー」の解散地点では、築地で「茶屋番」と呼ばれる、品質管理に関わる重要な仕事に従事してきた猿渡(さわたり)誠氏が、ツアー参加者に挨拶をした。

 猿渡氏は、開場した豊洲市場について、「『そのうちに慣れるよ』という感覚が全然なくて、ますます不安が募ってきているという状況がある」と語った。その上で、「そのためにも、安全な築地市場に戻ってこなくちゃいけないと思う。たとえ瓶詰でも何でもいいから、販売することが続くことによって、ここは守られる。だから、本当に感謝してます」と、参加者への謝辞を述べた。

 東京都が解体期日としている10月18日が、目の前に迫っている。水谷氏は、合法的に築地市場を解体撤去するためには、各店舗との補償交渉が成立するか、強制収用の法的な手続きを踏むかという二つの方法しか東京都には残っていないと語る。しかし、これまでの東京都の、法律を無視した横暴なやり方を見ていると、違法工事を強行する恐れもあり、状況はまったく予断を許さない。

▲築地市場(2018年10月15日 IWJ撮影)

 大新聞の中には「祝!豊洲開場」などという、豊洲市場の抱える大問題をまったく無視したような記事が踊っている。豊洲の土地の汚染は除去できない。築地市場の収支は黒字だったが、豊洲のランニングコストが年間100億の赤字とされる。その負担は誰が負うのか。都民税の大増税がおこなわれなければ、都の会計はいずれ破綻する。豊洲が開場になったからといって、問題が消えたわけではない。今後も続くのである。

 IWJはこれからも、築地と豊洲の問題に注視して、お伝えしていく所存である。これまでおこなってきたインタビューや取材に関しては、ぜひ下記の記事を御覧いただきたい。

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