【岩上安身のツイ録】番組制作のギャラが半年がかりの作品で15万円~搾取状態の現場の上に、テレビ局の超高給は成り立っている。マスメディアはどれほどの真剣さで裁量労働制問題を伝えられるのか? 2018.2.27

記事公開日:2018.2.27 テキスト
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(岩上安身)

 かつて、労働基準法がもっとも厳格だった時代でも、記者や編集者などの頭脳労働職(企画業務職)は、時間の制限なく働く裁量労働制が認められていたが、IWJでは、テキスト班のような頭脳労働・企画型業務であっても裁量労働制を適用せず、タイムカードで労働時間をきちんと記録し、残業代もきちんと支払い、夜遅い場合は労基法通り深夜割り増しもきちんとつけている。

 安倍政権が裁量労働制を拡大しようとするのに対し、逆行するように、本来、裁量労働が認められている分野でも従業員の裁量労働制をなくし、過労にならないようにつとめていることを、日刊ガイドで伝えつつ、スタッフを募集している。

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 経営者である自分については365日稼動状態の「1人裁量労働制」。そのことを気遣うメッセージを、毎日のようにいただいている。大丈夫とは言い難いけれど、頑張ります。皆さんの応援が頼りです。

 もちろんIWJで「裁量労働制」が敷かれているのは僕だけだが、しかし一般に、メディア業界の労働現場は、過酷を極める。くだらないバラエティーであれ、良質のドキュメンタリーであれ、その過酷さはそう変わらない。

 テレビ業界で昔から良質なドキュメンタリーを製作することで知られているプロダクションがある。そこで働いていた人に聞いたら、社員として働いていたが、成果主義が強まり、フリーとなり、30分の作品を半年かけて製作して15万円というところまできて離脱した、という。

 しかもしんどいのは、自主制作のドキュメンタリーと違って、テーマも撮り方にも納期にも注文があり、被写体を追い続けることを余儀なくされるので、その間、アルバイトなどの兼業ができないこと。これはキツイ。貯金を取り崩しながら、底が尽きてやめざるをえなくなる。

 僕が知っている独立したドキュメンタリーの製作者は、みんなアルバイトをしながら、何年もかけてカメラを一人で回して作品を作り上げて行く。しかし、こうした独立系のドキュメンタリーは作品を完成させたあと、どこの映画館で上映し、宣伝し、資金を回収して行くか、という問題が残る。

 営業や宣伝をして、人に見てもらってお金を払ってもらえなければ、あとには莫大な借金が残される(他の商売をしている人から見れば、大した金額ではない借金だとしても、収入がバイト程度しかない身にはこたえる。時にそれをきっかけに多重債務者に陥る人もいる)。

 それに比べると、テレビのドキュメンタリーを製作している人は、最後の上映→資金回収というプロセスがないだけ、ずっと楽に思える。しかも深夜とはいえ、テレビの地上波で流れるのだ。人に労作を見てもらえるというありがたさは何事にも変えがたい喜びのはずだ。

 が、そんな喜びに浸るにも限度というものがある。半年で15万円。1ヶ月あたり3万円にもならないギャラ。しかも兼業が事実上不可。持続可能性が全くない職業。これを職業と呼べるかどうかも怪しい。こうした現場からの搾取の上にテレビ局の、特に民放キー局の正社員の超高給が成り立っている。

 そうした高給を保証するのが、大企業のCM料であり、スポンサーには足を向けて寝られない。過労死促進法案だろうが、経団連が求めるなら、ごまかしごまかしそちらに向けて世論誘導を行うし、外資に国を乗っ取られるような条約であるTPPでも、スポンサー様が望むなら買弁放送局として旗を振る。

 もちろん、地上波のキー局の正社員が羽振りが良かったのはもう昔話だ、という話もよく聞く。地上波はどんどん落ち目になっていて、ネットに客を奪われている、という愚痴も聞く。それはそれで事実に違いない。が、スポンサーに弱く、現場労働者からの搾取はひどいという点は変わらない。

 2月9日以降、オリンピック期間であったことに加え、今回日本の冬季五輪メダル獲得数が更新されたこともあって、マスメディアはそちらの報道一色だった。だが「お祭り」が終われば、報じる側も、視聴者側も、これまで見ずにいた重い現実の問題に直面しなければならない。

 25日にオリンピックが終わってこれまで削られていた通常報道に時間の割りあてが戻り、今回の問題について改めて光が当たり、批判されるべき点が批判されることを願っているが、この国会の裁量労働拡大論議に関して、既に裁量労働による搾取の横行するメディア業界が、果たして平常日に戻ったところで、どれほどの真剣味をもって伝えられるだろうか。

 オリンピックでの選手たちの活躍を褒め称えることに異存はない。しかし私たち国民がその甘い記憶の余韻に浸っている間にも、安倍政権は、データ捏造とデータ隠しという、本来なら閣僚の何人もが辞任をしておかしくないほどの不正義を行っているにもかかわらず、この法案をゴリ押ししようとしている。

▲全国過労死を考える家族の会・代表の寺西笑子さん(左)ら16人から、働き方改革撤回の緊急要望書を受け取る加藤勝信厚生労働大臣(右)。飲食店の店長だった寺西さんの夫は、2週間連続勤務、1月320時間から350時間、年4000時間を超える過重労働の末に49歳の若さで鬱病を発症し、自死した。

 「これは過重労働で人が死んでいる話だ」という訴えにニヤニヤと笑いを返すことしかせず、「1日の残業が45時間」などという異常な数字が続々と出てくるデータの再調査もしないまま、委員会採決に踏み切ろうという信じがたいふるまいに及ぼうとしている現政権の暴挙を、メディアは、どれほどの怒りをもって伝えられているだろうか?

 そしてその法案の、他ならぬ当事者になる私たち労働者一人ひとりは、この法案が通ってしまった以後の日々を、どれほど「我がこと」として、想像しえているだろうか?

※2018年2月27日付けのツイートを並べ、加筆して掲載しています。

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「【岩上安身のツイ録】番組制作のギャラが半年がかりの作品で15万円~搾取状態の現場の上に、テレビ局の超高給は成り立っている。マスメディアはどれほどの真剣さで裁量労働制問題を伝えられるのか?」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    番組制作のギャラが半年がかりの作品で15万円~搾取状態の現場の上に、テレビ局の超高給は成り立っている。マスメディアはどれほどの真剣さで裁量労働制問題を伝えられるのか? https://iwj.co.jp/wj/open/archives/413255 … @iwakamiyasumi
    自分のことは「棚に上げる」のがテレビのやり方とはいえ、これでは無理だろう。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/968408835151953921

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