【IWJブログ・特別寄稿】10月の「トリプル補選」への布石で勝利を狙う自民党が大物国会議員を次々と投入!7期目を狙う現職候補と一騎討ち!「再稼動阻止」を託せるのは誰だ!?(ジャーナリスト・横田一) 2017.8.26

記事公開日:2017.8.26取材地: テキスト
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(取材・文・写真 横田一)

 8月の内閣改造後初めてとなる大型地方選挙。8月2日に告示された茨城県知事選が、間もなく投開票日の27日を迎える。

 東海第二原発を抱える茨城県民にとって「原発再稼働」は重要な争点だ。しかし、「再稼働反対」「原発廃炉」を明確に掲げる共産党推薦の新人・鶴田真子美候補以外の2候補は原発政策についてどうも歯切れが悪い。その2人が次期知事の座を争う事実上の一騎打ちを展開しているとあって、争点であるはずの「原発」の行方を曇らせているようにも見える。

 すでに24年も県政をひっぱってきた現職知事の橋本昌候補は、7選目を狙う。知事選に臨む公約の発表では、「再稼働へのハードルを上げる。安全性と避難体制の実効性が確保されなければ、再稼働は認めない」と約束した。しかし、「選挙対策ではないか」という冷めた評価も少なくない。橋本候補がとってつけたように、突如「原発再稼働反対」を言い出したからだ。

 一方、その橋本知事の長期在任を批判し、フレッシュさをアピールしているのが自公推薦の新人・大井川和彦候補。原発推進政策の本家本元である経産省の官僚を15年務めてきた人物で、今回、無所属でありながら自公の推薦を受けて出馬。再稼動については「県民本位の徹底した原子力安全対策と避難対策、原子力教育の推進」と公約しているだけで、選挙演説で原発に言及することはほぼない。大井川氏の応援に駆けつけた自民党の大物国会議員らも同様で、「原発」に関わる話に触れることはほぼ皆無だった。

 自民党の長島忠美元復興副大臣が8月18日に死去したことに伴い、10月22日に衆院新潟5区の補欠選挙が行われる。青森4区、愛媛3区でも同日に補選が行われるという異例の「トリプル補選」となる。それまでにはずみをつけたいとあって、今回の茨城県知事選では自民党県議一人に130万円(合計で約6000万円)が現金で支払われたという報道もある。事実であれば、石破茂元地方創生大臣や小泉進次郎・筆頭副幹事長を応援演説に投入している与党の勝利への本気度をさらに裏付けるものである。

 どの候補者が最も再稼動阻止を託せる相手なのか、茨城県知事選の実態を、現場で取材にあたっているジャーナリストの横田一氏が、以下のレポートでお伝えする。(IWJ編集部)

内閣改造後、初の大型地方選挙に中央から岸田・石破・小泉ら大物国会議員を投入

 衆院トリプル補選(10月22日投開票)を占う重要選挙と位置づけられているのが、茨城県知事選(8月27日投開票)。元経産官僚の自公推薦候補と7選を目指す原発再稼動反対の現職がほぼ横一線の状態で、「内閣改造後、初の大型地方選挙」と位置づけるアベ自民党は、大物国会議員を続々と現地に送り込み、国政選挙なみの総動員体制で臨んでいるのだ。

 投開票日2日前の25日には岸田文雄政調会長と石破茂・元地方創生大臣と小泉進次郎・筆頭副幹事長が応援演説。ラストサンデーを含む週末にも、18日(金)に石破氏、19日(土)には岸田氏や石井啓一・国交大臣や加藤勝信・厚労大臣、そして20日(日)には小泉氏が再度、応援演説に駆けつけていた。

▲有権者と握手をして回る小泉進次郎・筆頭副幹事長。特に女性や若者からの人気は不動だ

 狙いは明らかだ――。

 都議選(7月2日投開票)で歴史的敗北、仙台市長選(7月23日投開票)でも野党統一候補に競り負けた安倍政権が反転攻勢のきっかけにしようとしているということである。自公推薦候補の勝利は、トリプル補選に弾みがつくと同時に、都議選で悪化した「自公の関係修復」という効果も期待できる。一石二鳥とはこのことだが、こうした中央の政党の都合が茨城県知事選に持ち込まれた結果、自民党大物議員が県内に連日のように「出没」する異例の光景を生み出しているのだ。

 これに対し現職の橋本昌知事は「『中央』対『県民党』の戦い」と位置づけて、厳しい政権批判で「返り討ち」にしようとしている。告示前に「自民党県議一人に130万円(合計で約6000万円)が配られた」と報じられたことを受けて、「金権選挙NO!」「県民党の底力」と横断幕に掲げて街頭演説。そして、このキャッチフレーズと連動するような自民党批判を繰り返しているのだ。

 「森友・加計問題、あるいは日報問題で支持率が下がっているわけですから、それをこっちの選挙で勝って上げようというのは無理な話です。そんなに自民党国会議員がこっちに来る暇があるのなら、自民党の議員を減らせばいいのですよ。給料をもらいながら選挙運動ばかりやってもらっていては困る」(古河駅前での街宣)。

自公推薦の大井川かずひこ候補は、原子力ムラの「総本山」といえる経産省出身!若さとは裏腹に古き原発推進政策を否定せず

 日本原子力発電の「東海第二原発」(東海村)の再稼働も重要な争点である。すでに共産党などが推薦する鶴田真子美(つるた まこみ)候補が再稼動反対と廃炉をいち早く訴えていたが、これに触発されるかのように橋本氏は再稼動に慎重な言動を始め、10日の告示日には「東海第二原発再稼動に反対」とまで踏み込む発言をしたのだ。こうして「多選の是非」という争点に加えて「再稼動反対の二候補」対「原発推進の安倍政権直系候補」という争点も急浮上することになったのだ。

 一方、自公推薦の大井川かずひこ候補は、原子力ムラの「総本山」といえる経産省出身。原発推進の安倍政権中枢の菅義偉官房長官が擁立に尽力したともみられ、大井川候補は「6期24年間の現職知事の7選阻止」を旗印に、若さを前面に押し出して県政刷新を訴えていた。

 しかし原発問題に限っていえば、多選で高齢の橋本氏が新しい政策(再稼動反対)を打ち出し、20歳も若い新人の大井川候補が古き原発推進政策を否定していないという構図である。「大井川候補は見かけは若いが、中身(原発政策)は古き自民党のまま」という逆転現象が起きているのである。

▲「6期24年間の現職知事の7選阻止」を訴える大井川かずひこ候補。見た目は若いが中身は「古い」?

 原発再稼動をめぐってねじれ現象も起こっていた。大井川候補の街宣をビデオ撮影していた公明党県本部代表の井手義弘県議に、「原発再稼働については、大井川候補は触れていませんでしたが」という疑問をぶつけた。加藤大臣と石井大臣が応援演説で「揃い踏み」をした守谷市での街宣が終わった直後のことだが、井出氏はこう答えた。

 「触れられないですよ。自民党が推薦しているのに、『再稼働反対』とは言えるはずがない」

 井出氏の考えは「原発再稼働については全戸配布のアンケート調査をするべきだ」というもの。しかし大井川候補は「県民本位」と県民の意見を聞く姿勢の公約を掲げたものの、その具体的方法(住民投票かアンケート調査かなど)について説明していなかった。しかも当初は住民投票に意欲的だったが、自民党が反対した後はトーンダウン、曖昧な立場をとるようになっていった。具体的方法を示して「実行する」と言ってしまうと、当選したあかつきには住民投票かアンケート調査を実行しないわけにはいかなくなる。その結果、再稼動反対が多数という結果が出る可能性は極めて高い。この事態を大井川候補とその陣営は回避したいと考えていると疑われても仕方がない。

――(横田)大井川候補は住民投票に当初は意欲的でした。

井手県議「言ったって(自民党の反対で)できるわけがない」

――住民投票でもアンケート調査でも「再稼働反対が多数」の結果になると思いますが。

井手県議「私もそう思っていますが、そうならないかも知れないし」

――直接、大井川候補に住民投票かアンケート調査で決めるのかと聞いたら、曖昧な答えでした。

井手県議「それは、答えられるはずがない。だって自民党にお金から人から丸抱えされているのですよ。『再稼働しません』なんて言えるはずがないではないですか」

――「住民投票かアンケート調査をする」という一筆は取らないのですか。横浜市長選(7月30日投開票)で林文子市長を応援した民進党議員は「カジノ誘致で市民の声を聞く」と一筆を取っていました。

井手県議「七項目の政策協定は(公明党と大井川候補で)結んでいます。原発(再稼動問題)は『安全を確認する』と入っていますが、住民投票かアンケート調査かは入っていない」

自民党と公明党の関係修復で茨城県知事選を活用!? 中央の政治状況が露骨に反映した選挙戦

 公明党県本部代表の井手氏は「暗闘茨城知事選2017の舞台(下)公明の転換、自民は多選批判」と銘打った7月21日付の産経新聞地方版の記事に登場。自民党が歴史的敗北をした都議選後、公明党本部が県本部に提案をしたことがきっかけになって、急転直下で大井川推薦が決まった経緯を紹介したものだった。

――新聞記事を読ませていただきましたが、公明党本部の意向で大井川候補の推薦が決まったと。

井手県議「『意向』というわけではないですよ。基本的には『(推薦の)検討をしたらいいのではないか』という提案は受けましたが、中央が『やれ』といったのではない」

――大井川推薦を決める前は「橋本知事でもいい」と仰っていました。

井手県議「そうです。24年間の橋本県政に問題があったとは思っていません。ただし、『7期やるのはまた別』という考えです」

――自民党と公明党の関係修復で茨城県知事選を活用しようという報道内容(産経新聞の記事)でした。

井手県議「それは、一方的な話だと思いますよ。中央から見れば、そういう面はあると思います」

――中央の政治状況が(大井川推薦提案の)背景にあったと?

井手県議「それがきっかけとなったことは事実かも知れないが、それが全てではない。

――都議選と仙台市長選と(自民党の連敗が)続いたので?

井手県議「それが全てではない」

―― 一因ではあったと?

井手県議「一つの引き金となった可能性はある。それがなければ、数日で推薦が決まるわけがない」

原発政策を曖昧にした公明党本部主導の「野合的推薦」!? 自民党大物弁士らも「原発」には一言も触れず

 結局、原発政策を曖昧にした公明党本部主導の「野合的推薦」といえそうだが、原発問題の立場を明言しなかったのは現地入りした自民党大物国会議員も同じだった。

 18日に八千代町での街宣に駆けつけた石破茂氏も原発問題に一言も触れなかった。

――原発問題に触れなかった理由は? (東海第二原発)再稼働が争点になっていますが。

石破氏「再稼働は争点かな? それは、候補者が自分の考えを述べるのがいいのであって、他の者が自分の考えを述べていいわけがない。我々としては政府の方針に反したことはできない」

――「(大井川候補は)中央の自民党の言いなりになるのではないか」という声があります。

石破氏「なりません」
(スタッフが「時間がないので」と間に入って質疑応答は終了)。

 翌19日に龍ヶ崎市入りした前外務大臣の岸田文雄・政調会長にも街宣後、同じ質問をぶつけてみた。岸田氏も大井川候補も一言も原発問題に触れなかったからだ。

――原発問題に触れられなかった理由は? (原発)再稼働は争点ではないのですか。

岸田氏「大井川さんの魅力をアピールする視点で演説をさせていただきました」

――原発問題については?

岸田氏「大井川さんの魅力をアピールをする演説をいたしました」

――大きな争点ではないということですか。

岸田氏(無言のまま、立ち去る)

 告示日に大井川候補に聞いても、曖昧な回答しか返ってこなかった。

――原発再稼働については国の方針に従うのでしょうか?

大井川氏「県民本位の考え方で、県民の声をしっかり聞くということです。公約通りです」

――住民投票かアンケート調査かで再稼働の是非を決めるのですか?

大井川氏「いろいろな方法があると思いますが、県民の声をしっかりと確認します」

現職知事・橋本昌候補の「再稼働反対」は本物かニセモノか!? 本人を直撃!

 一方、橋本氏の再稼動反対発言に対しては、急に言い出したことから「選挙対策ではないか」という声が出ていた。大井川候補は「大事な原発の問題を選挙の道具にした」と批判。再稼動反対の鶴田氏も「選挙が近づいて急に再稼動反対を言い出した」と同じ主旨の訴えをしていた。橋本氏を直撃すると、こう答えた。

▲24年間、県政をリードしてきた橋本昌候補、知名度は高い

――「県知事選が近づいたから再稼働反対と言い始めた」と相手候補は言っています。

橋本氏「それはいろいろ言うかも知れないけれども、(県南部の)常総に行っても子供を抱えたお母さんが『何とか原発再稼働を止められませんか』と言った。東海村に行っても三人ほど女性が集まって『何とか「再稼働を止める」と言ってももらえませんか』と言われました。そういう住民の声を聞いて、再稼働反対を言うようにしました」

――大井川候補は「県民の声を聞く」と言っていますが?

橋本氏「本人は住民投票をやりたいみたいだけれども、自民党が許さないでしょう」

 原発再稼動が争点となった茨城県知事選は、急に再稼動反対を表明した現職の橋本氏と、当初から再稼動反対の鶴田氏と、民意を聞く立場の大井川氏の三つ巴の戦い。県民の大半が原発再稼動反対とみられる中、どの候補が最も再稼動阻止を託せるのかを問うことにもなりそうだ。茨城県知事選の結果が注目される。

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  1. あのねあのね より:

    開票作業においては、新聞朝刊の締切を完全に無視して時間を気にせず公平公正に正確に行って貰いたい。開票作業者は、開票前には十分な睡眠と休養を取って貰いたい。
    開票場は、冷房を適度に効かせて疲労が少ない状態で行って貰いたい。扇風機は禁止にして貰いたい。立会い人や監視カメラで開票をしっかり監視して貰いたい。
    森友加計問題に見るように、今の政府は不正を何とも思わない連中が占めている。開票でも苦しくなれば平気で不正行う疑いは濃厚にある。しっかり監視して、不正選挙というそしりを受けないようにして貰いたいものだ。

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