「いったいこの国は、何人の無実の冤罪者を死刑台に立たせればすむのか!?」~日弁連が「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」との宣言採択を控え福井でシンポジウム 2016.10.6

記事公開日:2016.10.11取材地: テキスト
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(城石裕幸)

 2016年10月7日、日本弁護士連合会は福井市内で開かれた人権擁護大会で、「2020年までに死刑制度の廃止を目指す」との宣言を出席者の賛成多数により採択した。

 これに先立つ6日、福井市内では日弁連の3つの分科会がそれぞれ別の会場でシンポジウムを行った。そのうちのひとつ、ホテルフジタ福井で行われた分科会では、死刑制度廃止をテーマに、「死刑廃止と拘禁刑の改革を考える~寛容と共生の社会をめざして~」と題されたシンポジウムが行われ、全国から弁護士や一般参加者620人が集まった。

▲会場の様子

▲会場の様子

 来賓挨拶に立った林眞琴法務省刑事局長は、刑務所出所者の社会復帰支援について「福祉的支援につなげることが再犯防止により効果的だ」と発言。法務省内にも「犯罪者に対する『応報制度』としての刑罰」である死刑制度に対する考え方に変化が生じていることをうかがわせた。

 6時間以上に及んだシンポジウムでは、世界各国の死刑制度廃止への取り組みや現状が報告された。

 笹倉香奈・甲南大学法学部教授によると、日本と同じ死刑存置国であるアメリカでは、州ごとに差があるものの、冤罪事件への反省から、「取り返しのつかない刑罰」である死刑は、「言い渡し数の減少、執行数の減少、廃止州の増加」という傾向にあるという。

 また、アメリカでは薬物注射により死刑が執行されるが、人道上の理由により、EU諸国がアメリカへの死刑執行用薬物の輸出を停止。米国内薬品会社も製造を中止したため薬品が不足し、これも死刑の減少傾向を加速させているという。

 ロンドン・ミドルセックス大学教授のウィリアム・A.シャバス氏によると、世界では1970年代以降、160カ国が死刑制度を廃止、死刑制度があるものの過去10年以上執行されていない「事実上の廃止国」が50カ国にのぼるという。

 また、ウィリアム教授は「死刑制度が凶悪犯罪の抑止力となる」という説に対し、「長期の拘禁刑より高い抑止効果があるのかどうか、証明ができない。証明するためには全ての凶悪犯罪者に対して一律に死刑を言い渡し、執行して統計を取るしかなく、そんなことは不可能だからだ。抑止論という議論自体に意味がない」と語った。

▲ウィリアム・A・シャバス氏

▲ウィリアム・A・シャバス氏

 パネルディスカッションでは会場参加者からの意見も紹介された。

 犯罪被害者遺族の弁護士らからは「死刑廃止が世界の流れだと言うが、国によって事情が違う。日本に死刑廃止はそぐはない」、「犯罪者への量刑が甘いから再犯するのではないか」、「遺族が加害者を殺してしまうのを国家が代行するのが死刑制度だ。死刑を廃止して被害者遺族が報復殺人をしたらどうするのか」などといった、被害者感情を重視する意見が上がった。

 一方で、平岡秀夫元法務相は「人の命は断固として触れてはならない。個人・社会・国家であっても奪ってはならない」との意見を寄せた。

 これに対し登壇者の一人、袴田事件の弁護団長でもある西嶋勝彦弁護士は、「先入観や証拠の捏造により、冤罪事件が起きている。冤罪者への死刑執行の可能性がある以上、それは『司法殺人』である」と語った。

 また、同じく登壇者の公明党・漆原良夫衆議院議員は、「今の日本の刑事裁判は、被害者に対して冷たい。被害者感情が裁判のための証拠の一つとしてしか扱われず、裁判が終わればその後は何も知らされない」と話し、被害者遺族への支援がないがしろにされている現状が、加害者への報復感情を増大させていると訴えた。

▲パネルディスカッションの様子

▲パネルディスカッションの様子

 死刑制度廃止に踏み切った多くの国でも世論の大半は死刑制度を支持していた。元法務省保護局長の古畑恒雄弁護士は、1980年代に死刑制度を廃止した際、62%の国民が死刑制度を支持していたフランスでの国民議会での議論を紹介した。

 「自由の社会は人間が他人の命に対して絶対的な権限を保持することを認めることができるだろうか。罪人の死で犠牲者の死は償えるものなのか。こうした問いに対して我々の社会が回答できるのは、死刑を廃止にすることによってのみである。人を殺すことが正義ではありえない」

 そう演説したフランスのロベール・バタンテール元法務大臣に対して、死刑廃止に反対していた野党議員の中から「死刑を廃止しても、今日では暴力を助長したり市民の安寧を脅かすことにはならない。むしろ国家に対する人間の優位を確認するものである」と、廃止を支援する声が続出したという。

 最後に西嶋弁護士は、「間違った死刑が現に執行され、執行されようとしたことがある。いったいこの国は、何人の無実の冤罪者を死刑台に立たせればすむのか」と訴えた。

 やはり、死刑の存廃を議論するには、冤罪問題を抜きにして議論することはできない、ということを改めて痛感させられた。

▲会場には宇都宮健児弁護士の姿も

▲会場には宇都宮健児弁護士の姿も

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