第三次安倍第二次改造内閣、初入閣の金田勝年氏が法務大臣に就任~ヘイトスピーチは「あってはならない」と明言したものの、大分県警別府署による市民監視疑惑については言及を回避 2016.8.3

記事公開日:2016.8.4取材地: テキスト動画
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特集 IWJが追ったヘイトスピーチ問題
※8月7日テキストを追加しました!

 2016年8月3日、第三次安倍第二次改造内閣が発足した。今回の改造内閣の閣僚は全員が現職議員であり、衆議院議員17人、参議院議員3人からなるが、大臣の選出県には偏りがあり、秋田を除く東北各県や山梨、三重、大分など、7月の参院選において、自民党が野党共闘勢力に敗北した一人区県選出の議員は一人も入閣していない。これは、露骨な論功行賞ではないだろうか。

 法務大臣には秋田県選出の衆議院議員・金田勝年氏が任命された。秋田県は前回2016年7月10日の参院選において、東北地方で唯一自民党候補(近鉄と巨人で活躍した元プロ野球選手の石井浩郎氏)を当選させた県である。

 2016年8月3日、東京都千代田区の法務省にて金田大臣の就任会見が開かれた。

■ハイライト

■全編動画

  • 日時 2016年8月3日(水)21:45~
  • 場所 法務省(東京都千代田区)

法務行政経験皆無の金田大臣、抱負を問われると「しっかりと事務方の皆さんと一緒に、色々教えていただきながら、それをベースに対応をしていきたい」と回答

 金田大臣は会見冒頭で、「法務省は基本法制の維持、整備、法秩序の維持、国民の権利擁護などの重要な任務を所轄している。これらはいずれも国民生活の安心安全の基盤となるものであり、大変重い任務であると認識している。その大臣を拝命し、非常に身の引き締まる思いである」と語った。

 続けて金田大臣は、安倍総理から「司法制度改革の推進」「人権救済の実現」「犯罪被害者支援や再犯防止」「領土、領海、領空の警戒警備についての対処」「特定秘密保護法の運用」を重要な課題として与えられたと述べた。

 金田大臣は元大蔵官僚であり、参議院議員当選後は農林水産政務次官、外務副大臣などを歴任してきた。衆議院に鞍替え後は、衆院予算委員会理事、衆院財務金融委員長、自民党税制調査会幹部を務めるなど、主に財務畑を歩んできた議員であり、法務に関するキャリアには疑問がある。

 金田氏は質疑の最初に、大臣としての抱負について問われると、「(法務行政は)非常に重い任務であり、しっかりと事務方の皆さんと一緒に、色々教えていただきながら、それをベースに整理と判断をして対応をしていきたい」と答え、法務行政に関する知識の乏しさを自ら認めた。

「ヘイトスピーチはあってはならない、今後もヘイトスピーチの解消に向けた政策を進めていく」と明言

 近年、経済格差の拡大による不満の増大等を背景として、マイノリティを差別し、迫害する傾向が高まっている。つい最近まで、東京の新大久保や大阪の鶴橋など、在日外国人が多く居住する地区を中心に「在特会(在日特権を許さない市民の会)」などのヘイトスピーチ団体によるデモが横行していた。

 それに対して、この状況を問題視した有志の市民による「カウンター」の動きが現れ、ヘイトスピーチに対する抗議の声が高まってきた。また、国連の人種差別撤廃委員会や国連自由権規約委員会も、日本で行われるヘイトスピーチを問題視し、日本政府に対してヘイトスピーチへ対処するように勧告してきた。

 有志の市民と国際社会の働きかけは政治家をも動かし、2016年の通常国会において「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が成立し、同年6月3日に施行された。この法律の施行を受け、法務省は「ヘイトスピーチ、許さない。」と書いた広告を作成し、ヘイトスピーチに焦点を当てた啓発活動を行うようになった。

 IWJはかねてより、ヘイトスピーチを問題視しており、継続的に報道し、警鐘を鳴らしてきた。

 金田大臣は法務省を所管する大臣として、ヘイトスピーチをどのように認識し、今後取り組んでいくつもりなのか。

 このIWJの質問に対し、金田大臣は次のように答えた。

 「特定の民族や国籍の人々を排斥するような差別的言動はあってはならない。そういう中で、あってはならないことであると思っていますから、今後もヘイトスピーチの解消に向けて、啓発活動を強化したり、人権侵害事案に対する適切な措置、勧告を行ったりする。そういったことをしっかりと取り組んでいく。『こうした言動は許されない』という認識をいかに醸成していくのかを考える必要がある」

障害者19人が殺害された相模原の殺傷事件、ヘイトクライムであるかどうかついては明言せず

 IWJは続けて、先月26日未明、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起こった障害者を狙った大量殺傷事件について質問した。

 この事件の犯人の男は、元々当該施設に勤務していたが、勤務当時から「重度障害者を殺す」と発言、さらに大島理森・衆院議長に対して「私の目標は重複障害者の方が家庭内での生活および社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て安楽死できる世界です」「是非、安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければと思います」などと書いた手紙を送るなど、障害者に対する憎悪を募らせていた。

 なお、この手紙には「作戦内容」として「逮捕後の監禁は最長で2年までとし、その後は自由な人生を送らせて下さい。心神喪失による無罪」と記されており、逮捕された植松聖容疑者は、「心神耗弱」を装った確信犯であったことが分かる。

 その一方で取り調べでは、「今回の事件に関しては、突然のお別れをさせるようになってしまって、遺族の方には心から謝罪したいと思います」と冷静に供述しているという。

 つまりこの事件は、精神が錯乱した犯人による突発的な凶行ではなく、「障害者は社会から排除されて当然である」という差別思想にもとづく明確なヘイトクライム(憎悪犯罪)である。

 このようなヘイトクライムが起こった背景には、日本社会が長年、差別思想に対する断固とした拒絶を明示せず、ヘイトスピーチを放置してきたことがあるのではないか。

 大臣のこの事件に対する受け止めと、その点についての認識について尋ねた。

 金田大臣は事件について、「強い衝撃を受けている。亡くなられた方やご遺族の無念さをお察し申し上げる。けがをされた皆様の一日も早い回復をお祈り申し上げたい」と述べた後、事件については「捜査中のため、申し上げられることは限られるが、私たちは二度とこのような事件が起きないようにするために何ができるのかを検討していくことが必要である」と答え、ヘイトクライムであるとの認識は明示しなかった。

大分県警別府署員による民進党支援団体への隠しカメラ設置事案については言及せず

 この会見が開かれた8月3日、民進党などの支援団体が入居する建物の敷地内に、大分県警別府署員が選挙期間中に無断で隠しカメラを設置し、人の出入りを録画していたことが判明した。

 警察は隠しカメラを設置するために無断で敷地内に侵入しており、建造物侵入罪に該当する可能性がある。さらに大分県警は隠しカメラの設置について、「捜査活動の一環」と主張しているが、捜査対象者を明かすことはなく、「不特定多数を対象として市民の政治活動を不当に監視していた」と捉えられても仕方がないだろう。

 IWJがこの件について金田大臣の認識を尋ねたところ、「指摘の件については、まだ聞いていない」と述べた後、「ただ、一般論として、個別の事件でございますから、私の立場で意見を申し上げるのは、差し控えざるを得ないと、このように考えております」と答えた。

 なぜあえて「一般論として」「意見を言うのは差し控える」と言う必要があるのだろうか。「一般論として、不適切な捜査が行われたのであれば、遺憾である」などと述べるのであれば理解できるのだが。官僚から、分からないことを聞かれたら「個別の事件についての意見は差し控える」と答えるように言われていたと疑わざるを得ない。

 なお、民主党政権時、2010年9月に発足した菅第一次改造内閣で法務大臣に就任した柳田稔氏は、2010年11月14日に地元広島で開かれた国政報告会で、「法務大臣とは良いですね。二つ覚えときゃ良いんですから。 個別の事案についてはお答えを差し控えますと、これが良いんです。 わからなかったらこれを言う。で、後は法と証拠に基づいて適切にやっております。この二つなんです」などと発言。

 柳田氏は衆議院法務委員会でこの発言に関して追及を受け、法務大臣を辞任した。金田新大臣の発言を聞いていると、民主党であろうと自民党であろうと、同じことが繰り返されていることが分かる。

 法務大臣は法務行政のほか、国会においてTPPなど、国内法制に関する極めて重要な審議を担当することになる。安倍総理が前のめりになっている改憲議論においても、関係閣僚として最前線に立つことが予想される。

 国の根幹にかかわる重要な議論の際に、官僚の作成したペーパーに基づくのらりくらりとした答弁に終始することがないのか。注視していく必要がある。

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