高浜原発3・4号機、運転停止仮処分決定!「世界最高水準の新規制基準」と再稼働を進める政府に「まったくのウソ」と真っ向から反証!~岩上安身によるインタビュー 第630回 ゲスト 高浜原発仮処分申し立て弁護団長・井戸謙一氏 2016.3.25

記事公開日:2016.3.28取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ、記事構成:山本愛穂、文責・岩上安身)

※4月30日テキストを追加しました!

 「福島第一原発事故の原因究明が不十分なのに、この点に意を払わない関西電力、原子力規制委員会に不安を覚える。過酷事故が生じても致命的な状態に陥らないように新しい規制基準を策定すべきだ」――。

 2016年3月9日、大津地裁の山本義彦裁判長は冒頭のように述べ、住民29名による申し立てを受けて、高浜原発3・4号機の運転差し止め仮処分を決定した。司法の決定により、稼働中の原発が実際に停止されるのは史上初めてのことであり、歴史的な決定となった。

▲岩上安身(左)のインタビューに答える井戸謙一弁護士(右)

▲岩上安身(左)のインタビューに答える井戸謙一弁護士(右)

 これを受けた菅官房長官は、同日の記者会見で「(原子力規制委員会が)世界最高水準と言われる新規制基準に適合するという判断をされたもので、政府は再稼働を進める方針に変わりない」と述べた。

 しかし、日本の新規制基準が世界最高水準であるという、この菅官房長官の言葉を、「まったくの嘘」と真っ向から否定する人物がいる。井戸謙一弁護士である。井戸氏は、今回の高浜原発仮処分申し立て弁護団の団長である。

 3月25日、滋賀県彦根市内の井戸謙一法律事務所において、岩上安身による井戸謙一弁護士へのインタビューを行った。井戸氏は、2006年には金沢地裁の裁判長として、志賀原発2号機の運転差し止め判決を下している。

 4月27日には、志賀原発の敷地内にある断層問題で、1号機の原子炉建屋直下などに「活断層がある」とする評価書を有識者調査団がまとめ、原子力規制委員会に提出。田中俊一委員長は「現状のままだと評価書は尊重されると思う」と述べた。原発の新規制基準は活断層の上に重要施設を造ることを禁じており、1号機は廃炉を迫られる可能性が高い。

 インタビューでは、長年、原発訴訟に関わる井戸弁護士ご自身の経験を踏まえながら、今回の申し立てのポイントや今後の原発訴訟の見通し、そして日本の原子力新規制基準をめぐる安全神話とその嘘について、岩上安身が聞いた。

 とりわけ、福島第一原発の事故は、たまたま偶然が重なったあげくあの程度の事故ですんだのだ、という話については、聞く者を凍りつかせることだろう。東日本は本当に壊滅していた可能性が現実にあったのである。そうした話も、裁判の過程の法廷で開陳したのである。

※IWJでは、2015年4月19日に井戸謙一弁護士への岩上安身によるインタビューを行った。前回のインタビューアーカイブはこちらからご覧ください!

記事目次

■イントロ

  • タイトル 岩上安身による元裁判官・井戸謙一弁護士インタビュー
  • 日時 2016年3月25日(金)13:30〜15:00
  • 場所 井戸謙一法律事務所(滋賀県彦根市)

「ウソでも100回つけば、本当になると思っている」──日本の原発の安全基準は、世界最高水準ではない~その裏側で、日本の原子力産業は、世界一厳しい欧州の基準に合わせた原発を海外で売り込んでいる

岩上 「本日は、井戸謙一弁護士にお話をおうかがいします。どうぞよろしくお願いします。

 井戸弁護士は、元裁判官です。2006年3月、金沢地裁の裁判長をされていたときに、志賀原発2号機の運転差し止め判決を下したことで知られています。

 先月、2016年3月9日、大津地裁の山本善彦裁判長が、高浜原発3・4号機の運転差し止めの仮処分を決定しました。稼働中の原発に対する差し止めの判決は、今回が初めてのケースとなるのでしょうか?」

井戸 「実は、稼働中の原発に対する判決としては、2回目です。私が差し止めた志賀原発2号機も、稼働中だったからです。しかし、当時は本訴の判決で確定しないと効力が発せず、北陸電力が控訴したので、実際には停止まで至りませんでした。

 一方で、今回の仮処分は、決定が出ると同時に効力があるので、関西電力(以下、関電)は高浜3・4号機を止めなければなりません。そういう意味で、司法が稼働中の原発を停止する初めてのケースとなります」

岩上 「それに対して関電は、決定の取消を求める保全異議や、一時的な執行停止などを申し立てる方針です。ところで、2014年5月21日、福井地裁の樋口英明裁判長は、大飯原発3・4号機の再稼働差し止めという英断を下しましたが、その後、名古屋高裁の右陪席に異動するはずが、名古屋家裁に左遷されたとの話も聞きます(注1)。この件については、井戸弁護士はどのようにお考えでしょうか」

井戸 「福井地裁の民事部総括だった樋口氏の転勤先の候補は、名古屋高裁の民事右陪席、次に名古屋家裁の部総括判事だったといいますから、家裁への異動「自体は、あり得ない人事ではないと思います。ただ、家裁への異動が、樋口氏を国家に関わる大きな案件から遠ざけた意図は否めません。

 今の時代、世論の目もありますから、最高裁もあまり無茶なことはしないでしょう。山本善彦裁判長は、ざっくばらんな優しい人です。あと4年で定年なので、上も人事的なことはしないだろうし、彼自身も出世は考えていないのではないかと思います」

岩上 「高浜原発3・4号機の差し止め仮処分決定の話題に戻ります。
2016年3月9日、菅義偉官房長官は定例会見で、『高浜3・4号機は、原子力規制委員会が専門的見地から十分時間をかけて、世界最高水準と言われる新規制基準に適合するという判断をされたもので、政府としては、その判断を尊重して再稼働を進める方針に変わりない』と発言しました。

 また、林幹雄経産相も同様に、3月9日、『日本の原発は世界最高水準をクリアしている。再稼働の方針に変わりない』と発言しています」

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

井戸 「世界最高水準というのは、まったくのウソです。ウソでも100回つけば本当になる、と思っているのでしょう。今回の仮処分決定でも、『避難計画を審査基準に入れるべき』と指摘しています(すなわち、現状では日本の審査基準には実効性のある避難計画は入っていない)。米国では、原発の規制基準に避難計画が入っています。そこだけを見ても、日本の原発の安全基準は世界最高水準ではありません。

 世界で一番厳しいのは欧州の基準で、原発一基を建てるために、(安全性確保のために)1兆円以上のコストがかかります。英国のヒンクリー・ポイント原発2基の建設費は、2兆6000億円。日本はといえば、たった5000億円です。これで、(安全性の面で)世界最高水準であるはずがありません。

 ただし、日本から原発を輸出する際には相手国の規制に合わせなければなりません。東芝は、原発を欧州仕様にして、現地で売り込んでいます」

(注1)2015/4/28の現代ビジネスでは、関電による学者や専門機関による意見書の提出要求を認めなかった樋口氏に対し、関電側がその場で裁判官の交代を求める「忌避」を申し立てた後、樋口氏が「定期異動」という名目で、名古屋家裁に「異動」した経緯などを報じている。

関西経済界から相次ぐ差し止め判決への不満、関西経済連合会副会長の角和夫・阪急電鉄会長は「なぜ一地裁の裁判官によって国のエネルギー政策に支障をきたすことが起きるのか。法改正すべき」と暴言。八木誠関電社長はスラップ訴訟で恫喝…井戸謙一弁護士 「発想が傲慢。三権分立で司法があることは、近代国家の存立原理」――三権分立への侮蔑的態度を許してはならない

▲井戸謙一弁護士

▲井戸謙一弁護士

岩上 「高浜原発3・4号機の差し止め仮処分決定を受けて、3月9日、西川一誠福井県知事は、『原発が何度も止まったり動いたりを繰り返す状況は遺憾だ』と述べました。また、野瀬豊高浜町長は、『地裁ごとに判断がばらつき、自治体としては弄ばれている状況にある。自治体や住民は何をよりどころにすればいいのか』と言っています(注2)」

井戸 「西川知事は、基準は十分という前提で、あとは(電力会社に)説明させればいいという見解です。しかし、そうではないから、司法の判断が入ったのですから、前提の認識が、まず間違っています。

 原発に賛成する立地自治体は多いのですが、『安全なら、賛成』と必ず言う。その(安全ならという)前提に問題があるから、様々な司法判断が出てくるというのに――」

岩上 「関西経済界からの批判には驚きました。関西経済連合会副会長でもある角和夫阪急電鉄会長は、『なぜ、一地裁の裁判官によって国のエネルギー政策に支障を来すことが起こるのか。こういうことができないように、速やかに法改正すべき』と発言しました(注3)。この、三権分立を無視した侮蔑的態度はいかかでしょうか」

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

井戸 「行政処分の効力を否定するような、民事裁判を許さない法律を作ろうということでしょうか。発想が傲慢ですね。責任ある立場の人の発言とは思えません。少数でも人権を侵害することがあるから、三権分立で司法がある。これは、近代国家の存立原理です」

岩上 「明らかに政治的背景があり、国家権力を強める方向にあると思います。森詳介関西電力会長も、『(電気料金の)値下げができなかったことが、関西経済に与える影響は小さくない。すぐに不当な決定を取り消していただかなくては』と発言しました(※注3参照)。誰も彼も、お金のことばかりです」

福島の事故は奇跡的に軽くすんだが、福井の若狭湾で原発事故が起きたら関西は壊滅する。関電は責任をとれるのか!?

井戸 「福島第一原発事故で、この国はどういう反省をしたのでしょうか。あの事故のことを、まったく忘れてしまっています。福島は奇跡的に軽く済みましたが、若狭湾で原発事故が起きれば、関西は壊滅しますよ。その責任を、関電は取れるのでしょうか。

 確かに、関電は安全性を説明しました。しかし、裁判所はそれに納得できなかったのです。にもかかわらず、それを最初から不当な裁判だと決めつけて、コストについての発言だけを繰り返すのは、いかがなものか、と思います」

岩上 「3月22日、関電の八木誠社長は『上級審で逆転勝訴した場合、損害賠償請求を検討』と発言しました。全国の原発の再稼働停止の訴えを牽制する目的としか考えられません。これに対し、住民側弁護団と脱原発弁護団全国連絡会は、申立人への恫喝だとして、連名で抗議文を送付しました(注4)」

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

井戸 「(八木社長の発言が)意図的であれば、恫喝に当たります。損害賠償請求が認められるのは、住民側に過失がある場合です。たとえば、『一般人が、原発を差し止める権利がないと知り得たのに、軽卒にもこういう申し立てをしてしまった』などが要件になります。

 しかし、高浜原発差し止めの場合、すでに2つの裁判所(注4)が判断をしています。そうしたケースで、住民側に過失があるとは考えられません。また、関電ほどの大企業がそこまでするわけはないと思います」

岩上 「これはスラップ訴訟ですね。この発言自体は恫喝でしょう」

(注2)2016/3/9 毎日新聞
(注3)2016/3/18 朝日新聞
(注4)2016/3/23 朝日新聞
(注5)先述の2006年3月の金沢地裁と2016年3月9日の大津地裁のこと。

福井地裁の樋口英明裁判長 「新規制基準は緩やかにすぎて、合理性を欠く」――これは、高浜原発だけでなく、今日の原発にあてはまる~今回の決定は、規制基準の問題点を指摘。全国の裁判官に与える影響は大きい

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

岩上 「2015年4月14日、福井地裁の樋口英明裁判長は、『新規制基準は緩やかにすぎ、合理性を欠く』と、原子力規制委員会が定めた新規制基準は、安全性を満たしていないとの判断をしました」

井戸 「この判断は高浜原発だけでなく、全国の原発に当てはまります。つまり、この判決は、原子力規制委員会にメッセージを突きつけているのです。原子力規制委員会の田中俊一委員長は、新規制基準を再考しないとしていますが(注6)、どこかで考え直すべきです」

岩上 「2015年4月19日の私によるインタビューのなかで(注7)、井戸弁護士は、樋口判決について、『新規制基準自体に合理性を欠く、と断言している。樋口裁判官の個人的な意向とは思わない。他の原発に関しても同様の結果になることは十分あり得る』とおっしゃっていました。新規制基準がおかしいとなれば、全国の原発に波及しますね」

井戸 「今回の決定は、前回同様、規制基準の問題点を指摘しています。今後も(それに倣った判断が)続くのではないでしょうか。全国の裁判官に与える影響は大きいと思います」

岩上 「関電は、2015年4月14日、福井地裁の再稼働差し止めの仮処分決定を不服とし、異議を申し立てました。そして、2015年12月24日、福井地裁の林潤裁判長は仮処分決定を取り消しています。2016年1月29日、3号機が再稼働。2月26日、4号機も再稼働しましたが、2月29日、発電機がストップ。結局、原子炉は緊急停止しました」

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

井戸 「この仮処分決定の取消には、がっかりしました。決定の中身を見ましたが、林裁判長は最初から取り消すつもりだったのだな、と思いました。福島第一原発事故には、1ページ弱だけ触れていますが、司法判断に、その経験がまったく生かされていません。

 それに比べて、樋口裁判長の決定では、『原発事故は決して起こしてはならない。万が一、その可能性があるのならば、裁判所は差し止めるべき』と、あります。『それをしないのは、裁判所が課せられた重大な責務を放棄するに等しい』と、書いてあるのです。今回の大津地裁の決定も、避難計画を入れるべきなどと、福島第一原発事故の経験を踏まえています。つまり、事故の経験を生かした判断か否かが、大きなポイントです」

岩上 「林裁判長の判決では、福島第一原発事故は他人事であるかのようですね」

(注6)3月9日の定例会見において、田中俊一・原子力規制委員長は新規制基準については「変えるつもりはない」と述べた。

(注7)2015年4月14日の樋口決定を受けての、岩上安身による井戸謙一弁護士への前回のインタビュー・アーカイブはこちらからご覧ください。

戦前、暴走する国家の歯車となった日本の司法――「戦後、司法はその総括をしていないから、行政権力からの独立の必要性が血肉になっていない」~再び、戦争へ向かう方向へと急に舵を切った現代の日本で、司法は独立を守りきれるか

岩上 「前回のインタビュー(※注7参照)で井戸さんは、『戦後、司法や裁判所は戦争責任をとらなかった。裁判所が、戦前・戦中を総括した形跡が一切ない。当時、最高裁の中心にいたのは戦前からの裁判官。今日の司法のあり方には、裁判官たちが戦争責任を問われなかったことが背景にあり、連続性がある』と、お話しされていました。

 日本の国は今、急激に戦争に向かう方向に舵を切っています。夏の参院選の結果次第では、憲法改正もありえる。そうなったら、もはや手遅れです。どうお考えでしょうか」

井戸 「戦前、治安維持法などで政治が暴走しました。その時、司法はほとんど抵抗せず、国家の歯車になりました。戦後、司法はその総括をしていないから、行政権力からの独立の必要性が血肉になっていません。

 今の裁判所の雰囲気は、その流れの中にある。再び戦前と同じ動きになったら、司法の独立を守りきれるかどうか――とても危ういと思います。現職の裁判官にがんばってほしいですが、基本的に財務省に予算を握られている点は大きく、なかなか抵抗もできないのです」

岩上 「もし、緊急事態条項で改憲をされて、予算権を内閣が握り、政令を出すことになったら、司法はひたすら追従していくことになるのでしょうか。行政権力の強化で、何びとも公権力に従わなければならない、となったら、なんでも合憲になってしまいますね」

井戸 「現場の裁判官によりますが、見通しはよくありません。憲法に書かれてしまえば、そのこと自体に裁判所はダメと言えない。行政権力の赴くままになります。手前で食い止めなければいけません」

画期的だった、福井地裁による樋口決定――「福島第一原発事故を踏まえた債務者(関電)の対応や、事故原因の説明を要求」~この新しい判断の枠組みが、今回の大津地裁による、高浜原発3・4号機 差し止め仮処分決定につながった!!

▲井戸謙一氏と岩上安身

岩上 「2016年3月9日、高浜3・4号機運転停止仮処分事件の大津地裁決定では、『主文、債務者(関西電力)は福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において高浜原発3・4号機を運転してはならない。申立費用は債務者の負担とする』とありました。

井戸 「重要なのは、担保が命じられていないことです。仮処分事件で裁判所が間違った判断をした場合には、債務者に損害を与えるので、その損害を担保する意味で担保金を積ませます。

 しかし、本件は無担保です。裁判所の判断に間違いがないから、担保金をつけなかったのかは不明ですが、関電の担保だと金額が莫大になり、現実性がありません。また、担保金を積ませることは裁判の事実的拒否に当たるので、相当でないと考えたのでしょう」

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

福井地裁の樋口決定が示したまったく新しい判断の枠組み

岩上 「大津地裁決定の特徴に、判断の枠組みがありますね。

 旧来の枠組みでは、被告が立証すべきこととして、『1. 規制基準が合理的であること、あるいは、2. 規制基準に適合していることの判断が合理的であること』を挙げています。被告の立証に対して、原告は『1. それでも危険であること。2. 原告の人格権が侵害される具体的危険があること』を立証する必要があります。

 今回の大津地裁による決定の枠組みには、『福島事故を踏まえ、原発の規制がどのように強化されたのか、債務者がその要請にどのように応えたか』とあります」

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

▲インタビューで使用したパワーポイント資料より

井戸 「裁判には必ず立証責任があって、原告と被告にその立証責任を割り振ります。旧来の判決では、被告側は事実上、原発に設置許可が下りたことを立証できればよかったので、簡単でした。対する原告側は、それでも問題があると立証できなければ勝てませんでした。これは公平性に欠くと、今回、福島事故後にふさわしい枠組みを主張しました。

 大津地裁による判決は旧来の枠組みに近いものでしたが、一方で、2014年4月14日の、福井地裁における樋口決定は、まったく新しい判断枠組みを提示したことになります。福島の事故後、規制基準に債務者がどのように応えたか、福島事故は何が原因で、どこが脆弱だったか、それをはっきりさせて、ちゃんと強化したかを説明すべきと要求したのです。

 住民側の請求を認めるためには、人格権侵害の危険があることを立証しなければならず、そこが難しい。しかし、樋口氏は、『万が一でも、その危険があれば差し止める』という判断をしたのです。だから、その万が一の危険を、住民側が証明すればよかったのです」

岩上 「2015年12月24日、福井地裁の林潤裁判長は、その決定を取消で覆しましたが、樋口裁判長の理念なども取り消されてしまうのですか。また、今回の大津地裁の決定は、樋口決定から後退したのか、現実路線を出したのか。どう評価されますか?」

井戸 「樋口裁判長の判断は、過去の判例として残ります。従来の枠組みは、伊方原発の判断(1992年10月29日、最高裁上告棄却)が元で、樋口氏はそれを完全に否定しました。今回の大津地裁の判決は、伊方判決を維持しながらも、被告が立証すべきことを従来以上に盛り込みました。他の裁判官の同意を得やすいのではないでしょうか」

原子力規制委員会に、物申した今回の大津地裁決定――「過酷事故が生じても致命的な状態に陥らないように、新しい規制基準を策定すべき」~コストの問題から、外部電源の規制基準を上げなかった規制委員会を厳しく批判

(…サポート会員ページにつづく)

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