世界経済を牛耳る「金融権力」と「サイバー・リバタリアン」の正体とは!? 「トランプつぶし」で米大統領選への介入開始か!?~岩上安身による直撃インタビュー 第625回 ゲスト 京都大学名誉教授・本山美彦氏 第2弾! 2016.3.14

記事公開日:2016.3.15取材地: テキスト動画独自
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(インタビュー:岩上安身、記事:平山茂樹)

 米国のウォール街、ムーディーズをはじめとする格付け会社、大手会計事務所、そして一部政治家によって形づくられている「金融権力」。現在の米国において、この「金融権力」の一角を占めるのが、マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏、グーグルCEOのラリー・ペイジ氏、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏といった、「IT長者」たちである。

 京都大学名誉教授で、『金融権力~グローバル・ビジネス経済とリスク・ビジネス』や『人工知能と21世紀の資本主義~サイバー空間と新自由主義』などの著書がある本山美彦氏に、3月14日、岩上安身が2回目となるインタビューを行った。

 本山氏は、こうした「IT長者」たちを「サイバー・リバタリアン」と呼び、「際限なく金を稼ぎ、富を所有したいという欲望」を全面肯定する新自由主義のドグマと一体となって、新たな支配層を形成している、と指摘した。

 そして、こうした「サイバー・リバタリアン」を中心とする新たな支配層が、「スーパーPAC」という仕組みを通じ、現在のアメリカ大統領選挙に多大な影響力を行使している、と本山氏は語った。

■イントロ

  • 日時 2016年3月14日(月) 14:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

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「リベラリズム」から「リバタリアニズム」へ~ミルトン・フリードマンが領導した「新自由主義」

岩上安身(以下、岩上)「本日は、2月8日に続きまして、京都大学名誉教授の本山美彦さんをお招きしました。前回に引き続いて『金融権力』について、さらには先生がご関心を寄せている『サイバー・リバタリアン』について、お話をうかがいます」

本山美彦氏「お金に対する欲望には制限がありません。いつのまにか、お金儲けをする人が偉い、という価値観が生まれてしまっています。Facebookなど、ネットも同じです。『お友達』が多いほうがいい、というふうになっていますよね。そのことによって、儲かる企業が存在しています。

 経済学はアリストテレスから始まりましたが、アリストテレスの課題は『欲望をいかに制限するか』というものでした。昔は、貧しかったけれども『生きている』ということへの実感がありました。しかし、今は干からびた状態になってしまっているように思います」

岩上「まず、前回の振り返りからです。最初に『ワシントン・コンセンサス』というものが分からないとスタートできません」

本山「戦後、米国での共産主義批判の文脈の中で、マルクス嫌い、ケインズ嫌いの新古典派経済学が台頭しました。

 その中で、米政府やIMF、世界銀行などにおいて、共産主義嫌いの『人脈』が形づくられるようになります。それが、『ワシントン・コンセンサス』です。彼らは、政府介入の極小化、通貨危機に対する財政緊縮といった政策を提言します。

 1970年まで世界で目指されていたのは、リベラリズム・福祉国家でした。それが、『機会の自由』を最上の価値とするリバタリアンによる新自由主義へと先鋭化していきます。新自由主義を先導したのがシカゴ学派のミルトン・フリードマンです。

 新古典派経済学を信奉する人たちは、歴史学を必要としません。歴史認識が信じられないほど浅い。経済学から、歴史学が排除されてしまっています。まさに、焚書坑儒ですね。社会的な知の貧困化です。文部科学省による人文社会系の排除というのは、この動きの仕上げでしょう。経済学は、ミクロとマクロだけやっていればよい、ということになってしまっています」

岩上「タンザニアが近代化を目指す際、スワヒリ語を国語としました。するとIMFが、国語を英語にすることを条件に貸し付けを行いました。『ワシントン・コンセンサス』が途上国でビジネスチャンスを作り、収奪するわけですね」

本山「その通りです」

特定の一部支配層による人脈によって形づくられている「金融権力」

岩上「『金融権力』の中でレフェリーを得ているのが、『格付け会社』(レーティング・エージェンシー)です」

本山「そうです。格付け会社が気に入る会社、気に入らない会社を選別するようになってしまっています」

岩上「日本は銀行からの借り入れ(間接金融)から、市場からの資本調達(直接金融)に変わりました。ここには圧力があったのでしょうか」

本山「明白な圧力がありました。デリバティブを売りつける連中が勝手に価格を決めています。壮大な詐欺なのです。

 私はやはり、間接金融を復活させるべきだと思っています。間接の場合、儲からない所に金融は行きません。日本ではあらゆる産業を残して、幅を作っていました。しかし今は、誇りのある職人が日本から急速に消えています」

岩上「米国で上場すれば、重要な企業情報は米国の会計事務所に筒抜けになる、と。そして、格付け会社が企業の生殺与奪の権限を持つと。米国のスタンダードに従っていかざるを得ないわけですね」

本山「福井俊彦・元日銀総裁が、村上ファンドに投資していました。これは、民主党の大久保勉議員が国会で追及することではじめて明らかになったことです。

 金融界の内部情報は、外にまったく出てきませんよね。『金融権力』も、アイビー・リーグ(ブラウン大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマス大学、ハーバード大学、ペンシルベニア大学、プリンストン大学、イェール大学の8校)のような、米国の特定の大学のクラブに占拠されているのが実情です。

 多くのアメリカ人にとっては、お金持ちであることが名誉なことだと思われています。だから、ビル・ゲイツ氏やマーク・ザッカーバーグ氏といった、米国の『IT長者』には批判が集まらないのです。かつて、ウォール街でオキュパイ運動が起きたのは、救済のために公的資金が投入されたからです。米国には『清貧』という思想がないのです。

 今回のアメリカ大統領選挙でも、候補者に有名大学が献金しています。有名大学の存在が、富裕層の固定化につながっています」

岩上「新しい時代の貴族が誕生しているのですね。

 私は株はやらないのですが、先生がご著書の中でお書きになっていた『空売り』の意味するところが大変気になりました。『空売りによる利益は、倒産による株式の無価値化の場合に最大となる』と。つまり、金融における『爆撃』なのだというわけですね」

本山「1972年に固定相場制が行き詰った時、変動相場制のもとで専門の業者により『空売り』が行われるようになりました。行われるのは日本ではなく香港。闇の中です。ウォール街に21兆ドルの隠し資産があるのではないか、と言われています」

アメリカ大統領選の行方を左右する「スーパーPAC」とは?~トランプ氏へのネガキャンを開始した「サイバー・リバタリアン」たち

岩上「アメリカ大統領選のことを、本山先生にぜひお聞きしたいと思っていました。各候補のスポンサーが誰なのかを明らかにすることで、大統領になった際に誰の利益を代表するか、ということが分かってくることになると思います。現在、共和党ではトランプ氏が、民主党ではヒラリー氏がリードしています」

本山「スーパーPAC(パック)という言葉があります。PACとは”political action community”の略で、日本語にすると『政治行動委員会』となります。2010年、このPACへの献金の制限が撤廃され、無制限に資金を集めることができるスーパーPACが誕生しました。

 このスーパーPACの最大の受益者が、ヒラリー氏です。トランプ氏は、自己資金で選挙活動できるわけですから、このスーパーPACという仕組みを批判することができるわけですね。サンダース氏も、スーパーPACの制度自体に批判的です。

 このまま行ったら、トランプ氏は逃げ切ります。そこで、スーパーPACがトランプを止めにかかるわけです。私は、ワシントン・ポスト紙などが展開したトランプ批判は怪しいとおもっています。ワシントン・ポスト紙は、『サイバー・リバタリアン』の代表であるジェフ・ベゾス氏が率いるAmazonに買収されましたから」

岩上「トランプ氏の集会が、突然荒らされるという事態になりました。トランプ氏の発言が差別的なのは確かです。しかし、既存のIT・金融の富裕層による反トランプのネガキャンが始まっているのではないでしょうか?

 3月8日付の『ハフィントン・ポスト』(英語版)によれば、ジョージア州のシー島で『反トランプ秘密会合』が開催されたといいます。Appleのティム・クックやGoogleのラリー・ペイジといったIT長者と、カール・ローヴのようなネオコンが参加していたといいます。

 この会合の顔ぶれからも分かりますが、金融業とITが結びつく『Fintech』が次の時代の支配的な体制になると思います。今こそ、巨大な社会構造の変革を論じるべき時でしょう」

サイバー空間の進展と比例して高まるナショナリズム

本山「私が焦眉の課題だと思うのは、50年続いたグローバリズムが終わり、古いかたちのナショナリズムが出てきて、『国家』が産業の中心に位置づけられる、ということです。これからは、利益を得られるのは、ナショナリズムの色彩が濃い企業だけになるでしょう」

岩上「安全保障の面では、米軍と自衛隊の一体化が進んでいます。国内的にはナショナリズムが進みつつ、米国に対しては対米従属的になっています」

本山「省庁の官僚が権力を失い、官邸の権力が強まっています。その官邸は、米国に従属的です」

岩上「各候補の選挙資金の内訳を見てみましょう。トランプ氏が、7割が自己資金である一方、サンダース氏は7割が平均29ドルの少額献金です。ヒラリー氏は、約8割が個人からの巨額献金。資金調達面ではロビイストに頼っているのが実情です」

本山「スーパーPACを最初に作ったのはオバマです。アメリカの政治家は、リベラルと言えど、ネオコンとの調整を図らなければいけません。ネオコンやキリスト教右派は、古いヨーロッパ貴族の流れを組んでいます。

 2012年の大統領選でオバマに献金したのは、大学とIT企業でした。他方、ロムニーの場合、金融が上位を占めています。オバマ政権の場合、各国の大使は献金額に応じて割り振られていきました。

 オバマ政権で『レフトビハインド現象』が起きました。ユダヤ商人は華僑に負けていたのが、オバマ政権のもとでユダヤと華僑が一体化した。アメリカと中国はG2として、かなり深い経済的議論を交わしています。

 安倍政権のもとで円安誘導してきましたが、今は円高になっています。経済という魔物を、政策や金融で浮揚することはできないと思います。金融緩和をしても、そのまま流通して物価上昇につながるのではありません」

岩上「民主党政権は、家計をあたためて内需振興を掲げていました。ところがこれが自民党に『バラマキだ』と批判されて潰されました」

本山「金融は裏方に徹するべきです。これからの金融というのは、金融機関がお金を集めるのではなく、あちこちにいるIT長者と投資家のマッチングだと思います。マイナンバー制度は、そのために整備されつつあるのではないでしょうか。刹那的なオンディマンド経済になっていきます

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  1. 宇佐美 保 より:

    内容豊富な素晴らしい本山氏のお話、未だ、全てを拝聴出来ておりませんが、最初の部分で、ちょっと気になりました。

    本山美彦氏「お金に対する欲望には制限がありません。……」
    経済学はアリストテレスから始まりましたが、アリストテレスの課題は『欲望をいかに制限するか』というものでした。……

    お金に対する欲望の制限は「累進課税」であるべきと私は思っております。
    昔、王、長嶋の時代でしたか?落合の時代でしたか?
    彼らは、いくら年俸を貰っても、ほとんど税金で取られてしまうので、より高額な年俸を得ようとの交渉には身を入れておられませんでした。
    それでも彼らのプレーは立派で、向上心も旺盛でした。

    このような事態は、プロ野球だけにはとどまらず、一般的な仕事、研究等でも同じはずです。
    アインシュタインにしろ、高額な報酬を得ようと「相対性理論」の研究に没頭したのではないでしょう。
    電気の父とも言われるファラデーにしても、彼にとって不思議と感じる自然現象の解明に、心血を注いでいたはずです。

    未だ拝聴していない箇所で、この「累進課税」への本山氏のご見解をお聞き出来たら幸いです。

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