TPP交渉の差止・違憲訴訟を提起中の山田元農水相と岩月弁護士が外国特派員協会で会見 ――危険なISD条項に関する報道「圧倒的に少なすぎる」 2015.6.2

記事公開日:2015.6.3取材地: テキスト動画
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(石川優)

特集 TPP問題
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 「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」の山田正彦元農水大臣と弁護団共同代表の岩月浩二弁護士は、2015年6月2日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見を行なった。

 岩月弁護士は、提訴のタイミングがなぜ今の時期なのかという質問に、こう応じた。

 「本来は、この問題は政治が解決すべきだと私は考えていた。しかし、国会が、まったく情報がないままであるにも関わらず、国会議員がそのことを問題にしようとしない。

 主権者の代表がそのようなことでは、国民が自ら裁判を求めざるを得ない。今の日本の国会の機能の仕方を見ていると、(交渉内容が)明確になってからという形で裁判を起こすのは、時期遅れになりそうな気がした」

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国の主権が侵害される危険をはらむISD条項、報道量「圧倒的に少なすぎる」

 TPPには、投資相手国の規制などにより企業や投資家が損害を被った場合、賠償を求めて訴えることができるというISD条項がある。この問題について、日本のマスコミ報道ではほとんど取り上げられていない。

 この点を問われた岩月弁護士は、「弁護士に聞いても、10人に1人、知っているか、知らないかぐらいの認識」だと答え、「圧倒的にマスコミでの取り上げが少なすぎると感じている。ISDは国家の政策に非常に大きな影響を与えているので、日本のマスコミには取り上げてほしいと言うしかありません」と現状を危惧した。

秘密交渉の下、全貌が明らかにされないTPP

 山田氏は、日本がTPP交渉参加を言い出した経緯や、自身が中心となって立ち上げた「TPPを慎重に考える会」について紹介した。

 「TPP交渉の参加を日本(政府)が言い出して、かれこれ5年近くになる。当時、私は農水大臣をしていた。これはもう農業と経済の問題ではなく、国の形が変わる問題だから大変だということで、当時、国会議員250名くらいで会を立ち上げた」

 同会については、IWJはその設立初期から追い続け、中継を行っている。この5年間、喧々諤々の議論と追及が行われたが、政府担当者らは一貫して「交渉内容の非公開」を貫いている。

 「毎週、政府高官を呼んで、TPP交渉の内容について問いただしました。しかし秘密交渉ということで、なかなか文書を出してもらえないし、何を危惧しているかということについても、さわりだけを政府が述べる文書を出しただけで、TPP交渉で何が日本に求められているかということが分からずに今日まで来ました」

「国民の生活そのもの、国の形そのものが変わる」――憲法で保障される権利を侵害するTPP

 TPP交渉はかねてより、異常な秘密性が問題視されてきた。交渉が大詰めとも言われる中、米国の国会議員と議員スタッフの一部が交渉テキストの閲覧が可能になるなど、情報公開が進歩している面もある。しかし、日本ではいまだに政府高官しか内容を把握していない。

 山田氏はTPPについて、このままの状況が続けば、「国民の生活そのもの、国の形そのものが変わる大変な問題」だとして、憲法21条の知る権利を侵害するのではないかと指摘した。

 岩月弁護士は、TPP交渉の差止・違憲訴訟を提起した理由について、「TPPは、日本国憲法が保障する国民の生命に対する権利、健康で文化的な生活を営む権利を侵害する。そういう結果を生むと考えたから」と説明した。

国内法がグローバル企業のためのものに書き換えられてしまう危険性

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 岩月弁護士は、TPP交渉を結ぶことによって、国内法がグローバル企業のためのものに書き換えられてしまうと警鐘を鳴らす。

 「私たちは、TPPは憲法の基本的人権の尊重原則と相容れないと考えます。TPPは貿易協定と言いながら、グローバル企業の経済活動の自由や利益を保障するために、国内の制度を非関税障壁として撤廃することを目的としています。

 条約は法律に優位する効力がありますので、TPPが結ばれると、TPPに従って日本の国内法をグローバル企業の経済活動の自由を保障するために、全面的に書き換えなければなりません」

グローバル化にどう対抗するか――「グローバリゼーションに対するローカリゼーションが大切」

 会見に参加していたバーレーンのハリール・ハッサン駐日大使は、グローバルな企業に対抗していくためには、グローバルな法体制が必要ではないかと提言。さらに、格差の問題もグローバルな法体制でないと対応していけないのではないかと問題提起した。

 加えて農業について、今後、革命的な技術がどんどんできるのではないかと述べたうえで、それにより生産性が飛躍的にあがるのではないかと指摘した。

 これに対して山田氏は、「農業を生産性ではなく、食料の問題、命を授かるものだと考えたい」と答え、次のように応じた。

 「食の安全、人が安心して食べられること。例えば、私は遺伝子組み換え食品については非常に疑念を持っている。新しいイノベーションではなく、安心して生命を維持できるような食料、これが非常に大切です。

 ローカルにとっては食料自給率。各地方における地域集落、いわゆる環境保全。これがグローバリゼーションの世界になると、食料問題についてはやっていけなくなる。

 グローバリゼーション、市場原理主義では解決できないもの。医療とか教育とか食料を大事にしなくてはならない。グローバリゼーションに対するローカリゼーションが大切だと思っている」

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「TPP交渉の差止・違憲訴訟を提起中の山田元農水相と岩月弁護士が外国特派員協会で会見 ――危険なISD条項に関する報道「圧倒的に少なすぎる」」への1件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    TPP交渉の差止・違憲訴訟を提起中の山田元農水相と岩月弁護士が外国特派員協会で会見 ――危険なISD条項に関する報道「圧倒的に少なすぎる」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/247545 … @iwakamiyasumi
    「国民の生活そのもの、国の形そのものが変わる」それがTPPです。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/606200115250929664

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