「虐待していない証拠があっても、証明できない」生後2カ月の娘を児童相談所に「一時保護」された親が裁判の現状を報告 「行政が間違うはずない」という司法の限界 2015.4.29

記事公開日:2015.6.28取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山、記事構成:佐々木隼也)

※6月28日テキストを追加しました!

 「絶対に虐待していない。でも、それを証明できない」 一時保護という名の児童相談所による連れ去り ~

 「一時保護しました。もう、お子さんとは会えません。どこにいるかも教えられません」──。病院に現れた児童相談所職員は、一方的にこう告げたという。

 矢野美奈氏は、生後2ヵ月で脳内出血を起こした次女の絢菜ちゃんを、神奈川県中央児童相談所によって「一時保護」された。現在、保護取り消しを求め裁判を争っている。

 「脳内出血がある、ということだけで虐待扱いされ、絢菜は一時保護された。(虐待などによる)外傷性出血ではないとの医師の見解や、出血した場所が家庭だとはいえないなど、虐待ではない可能性の証拠を揃えて訴えても、絢菜は帰ってこない」

 矢野さんは児童相談所の画一的な対応を批判するとともに、娘を取り返すため困難さと苦悩を語った。

 2015年4月29日、横浜市神奈川区のかながわ県民サポートセンターにて、「絢菜ちゃんを1日も早く家族の元へ ~児童相談所一時保護裁判の報告~」が行われた。

 ジャーナリストの釣部人裕氏は、児童相談所に一時保護されると、親は子どもと一切連絡がとれなくなる現状を疑問視。面会交流権を保障すべきだと主張した。また、児童相談所側が、言うことをきかない子どもに薬物を使用することもやめるべきだと訴えた。

 絢菜ちゃんの裁判を担当する山下弁護士は、「日本の裁判所は『行政が間違えるはずがない』という立場にいる」と語り、日本の児童養護に巣食う問題点を指摘した。

 「だから、二転三転する児童相談所の主張を全否定しながらも、結果的に児童相談所を支持する判決を出す。医学界は、脳内出血と眼底出血があれば虐待があったとする考えについて、見直す気配を見せない。児童相談所は、医学界から受けた出血の通報を鵜呑みにし、虐待の真偽を自ら確かめることもせず、一時保護を進める」

■ハイライト

子どもに脳出血──看護師「虐待してますね?」

 報告会では絢菜ちゃんの母親、矢野美奈氏より、絢菜ちゃんが一時保護された経緯の説明があった。

 「保護されているのは、2013年3月25日生まれの次女の絢菜です。絢菜は生後まもなく臍帯出血があり、退院後も出産した病院に1ヵ月通院した。家庭訪問の保健師に『顔が黒くてミルクの飲みも悪い』と説明したが原因がわからず、様子を見て過ごしていた」

 絢菜ちゃんが生後2ヵ月の時(2013年5月下旬)、朝起きると口から血を出し、熱が38度あったため、地元のA病院に連れていき入院。出血は上あごの2ヵ所からだとわかり、「外傷が起きる場所ではない」と判断された。

 状況の改善が見られないまま退院したが、絢菜ちゃんは突然起きなくなったという。「起こしても悲鳴のような泣き方をして、また寝る。6月2日の夜、救急で主人と一緒にA病院に連れて行った。CTを撮ったら脳出血がわかった。その途端、看護師から『虐待してますよね』と言われました」

 そのまま即入院となったが、虐待を疑われて、入院期間中は抱っこを禁止された。看護師の対応に不信感を抱いた矢野氏は、病院勤務の友人に相談して転院を勧められ、小児脳神経の医師がいるB病院に転院した。B病院では、制限のない状態で面会も抱っこもできるようになった。

 2013年7月5日、矢野氏はB病院の医師から、「脳出血が起きた時期は6月19日の2~3週間前だ」と言われ、「それはA病院に入院中の時期だから、これで虐待ではないと証明されたのかな、と思った」と振り返る。しかし、直後に児童相談所の職員が現れて、「一時保護しました。もう、お子さんとは会えません。どこにいるかも教えられません」と告げられたのである。

 なぜ、保護されたのかもわからないまま、結局、資料がある児童相談所で話を聞くと、児童相談所がB病院から受けた説明と、矢野氏が医師から聞いた話では、脳出血の時期に食い違いがあることが判明した。後日、病院、児童相談所、家族の話し合いを行い、児童相談所は最終的に『この出血時期は一時保護理由として成り立たなくなりました。申し訳ありません』と頭を下げたという。しかし、児童相談所は「家庭で、また脳出血が起こらないとは限らないので様子を見たい」と言い、絢菜ちゃんの一保護は続くことになった。

調査は終了したのに「施設入所への同意」を求められる

 施設に保護されて1ヵ月後、保健師とB病院に通院する絢菜ちゃんに付き添った矢野氏は、娘の体中にアザがあることに気づく。

 「脳出血再発の不安がよぎり、CTを撮ったら再発が確認された」

 緊急入院となり、検査した結果、脳出血は自然出血だと診断された。矢野氏がアザについて尋ねると、児童相談所と病院は「アザはなかった」と言い出したという。しかし、不信感を持っていた矢野氏は、ビデオ撮影、録音、写真撮影をしており、その時のアザの写真もある。こうした証拠を揃えて警察に行くと、『B病院がアザがあったことを証明しなければ、捜査はできない』と言われたという。

 このような状況ではあったが、矢野氏は、「調査が終われば絢菜は帰ってくると思い、それまで我慢しようと家族で話し合った」という。しかし、11月に調査が終わると、児童相談所から「お母さんが『施設に入れたい』という同意書を書いてください」と告げられたという。

 「同意したらどうなるのか聞くと『3ヵ月で帰す』と言う。『3ヵ月以内に帰れるのか』と突っ込んで聞くと、『3ヵ月ごとに更新していく』と話が変わった。『どういうプランなのか』と聞くと、『何も決めていない。お母さんが同意するかしないかで、プランを作るかどうか決まる』と言われた」

「私たちは絶対に虐待していない。でも、それを証明できない」

 児童相談所からは、「同意しても、会えるかどうかわからない。同意しなければ裁判になるので覚悟してください」という言葉もあったという。矢野氏は、「それなら裁判をしようと決めて、弁護士を探した。また、脳出血の時期を特定してくれる医師にセカンドオピニオンを求めようと、2013年11月から動き始めた」と語る。

 「セカンドオピニオンの医師を探して全国に行った。大阪の虐待専門の医師には『揺さぶられっ子症候群(SBS)だとする診断材料がない』と言われた。また、『脳出血を起こしていると、全部SBSだと言う医者がいる。そういう医者にあたったんだろうね』とも言われた。そして、絢菜の脳出血の仕方はSBSではないし、外傷性でもないという回答をもらった」

 矢野夫妻は、2014年3月に山下弁護士と知り合い、絢菜ちゃんの一時保護の取り消し裁判を起こし、逆に児童相談所からは、施設入所の裁判を起こされている。

 「私たちは絶対に虐待はしていない。ただ、そのことを証明できない。普通に過ごして何もなかった、というのは虐待親の言い分だとされ、誰も聞き入れてくれない。そこで、私たちは医学的に虐待の可能性が少なく、他の可能性があるという証拠を集めてきた。それでも絢菜は帰ってこないというのが現状です」と矢野氏は訴えた。

病院から通報があるとノーチェックで「一時保護」

 続いて、山下弁護士による裁判の経過報告に移った。

 「1年ぐらい前にこの依頼を受けた。児童相談所は一時保護の後で、正式に絢菜さんを施設に収容することの承認を求める手続きを、家庭裁判所に申し立てた。その前にこちらは、一時保護が違法であるとして横浜地方裁判所に裁判を提起し、国家賠償請求も求めている。現在、児童相談所の申し立てた収容が認められるかどうかが、大きな争点となっている」

 このように前置きした山下弁護士は、日本には、脳内出血を起こし、さらに眼底出血があるとSBSとみなして、虐待が原因だとする考え方があるが、アメリカでは、脳内出血や眼底出血だけでは虐待とはいえない、という考え方に変わってきていると説明した。「今回の件も、虐待を疑わせるものが一切ないのに、単に、SBSと考えられる脳内出血、眼底出血があるだけで、虐待と判断している」

 医学界には、子どもに脳内出血、眼底出血があった場合、虐待の疑いがあるとして児童相談所に通報することがある。山下弁護士は、問題はその先だとし、「通報を受けた児童相談所は何のチェックもなく、言われたまま、虐待があったとして一時保護をし、手続きを進めていく」と批判した。

裁判所の考え方は「行政が間違うはずがない」

 2014年12月25日、裁判所は児童相談所の主張を全て否定する判断を下した。にもかかわらず、「A病院の退院前に何か起こったとしたら、その記録が病院に残るはず。それがないのは、家庭内で、再入院の前に虐待があった」と独自に判断し、絢菜ちゃんの施設入所を承認した。矢野夫妻は東京高等裁判所に即時抗告し、現在、書面審理をしている。

 山下弁護士は、「客観的に虐待をした証拠がないのに、虐待があるという認定を、医学的な所見だけですることは間違っている。この事件では、その点を明らかにしたい。そうしなければ、今後も同じようなケースが次々と起こる」と危惧する。

 「虐待がなかったことは、証明不可能だ。にもかかわらず、親がそれを証明できない限り、虐待があったことになるのが裁判の現状。それは日本の裁判所が、『児童相談所という役所が、間違ったことをするはずがない』という考え方を基本的に持っているからだ。三権分立なので、司法は行政とは独立した存在で、行政が間違った場合には、きちんと判断しなければならない。横浜家庭裁判所も、出された証拠はすべて否定したにもかかわらず、児童相談所の主張を認めた。『行政は間違うはずがない』という結論ありきなのだ」

 日本では、児童相談所の問題を扱う弁護士は少ない。日本の児童相談所問題で、子どもの権利を扱う弁護士は児童相談所側の代理人になってしまっているのが現状だと、山下弁護士は言う。

 「内容的にも医学的な問題を含んでいるので弁護は難しい。親が裁判で闘うとなった時、味方になってくれる人や材料を見つけるのは大変だし、そういう時に親がどうすればいいのか、方法論として確立していない。情報も十分ではない。裁判所は親たちの味方になってくれず、むしろ、児童相談所側に寄っている現状を、多くの人に知ってほしい。そんな中で、こういう事件が起きていること、矢野さんが闘っていること、日本の児童相談所のシステムに問題があることを知ってほしい」

 最後に山下弁護士は、「児童相談所に協力している医学界は、脳内出血、眼底出血だけでは虐待にはならない可能性を、きちんと議論すべきだ。この問題は非常に難しいので、皆さんの関心と協力、支援をお願いしたい」と呼びかけた。

児童相談所の「一時保護」には異議申し立てができない

 釣部氏は、児童相談所の「一時保護」の問題について、驚くべき現状を説明した。

(…会員ページにつづく)

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「「虐待していない証拠があっても、証明できない」生後2カ月の娘を児童相談所に「一時保護」された親が裁判の現状を報告 「行政が間違うはずない」という司法の限界」への2件のフィードバック

  1. 古川 より:

    こんにちは。
    私も中央児童相談所に一時保護されてます。
    子供がまだ8ヶ月の時に急性気管支炎で入院中で7月2日に退院予定で迎えに行ったら児童相談所と区役所の方が7名位来ました。
    同意書を書かされ、7月2日から一時保護開始されました。
    保護された理由は、知らない男性を家に呼びました。
    それはお金を借りるために。
    そしたら男性が強制わいせつ行為をされ、警察に通報。
    その時に子供は自宅にいた事が性的虐待と言われました。
    (子供は寝てました)
    旦那の親、私の親には長くて一カ月位で帰れます。
    と言われて、信じて向こうの言う通りに一カ月やりました。(治す所)
    一カ月たっても帰って来ないので児童相談所の担当者に、親に長くて一カ月位で帰れると言ってましたが、いつ帰って来るんですか?と聞いたら、そんな事言ってませんと言われました。
    今現在も子供は帰って来ません。
    帰ってくる様子もない状態です。
    投稿者の方が、弁護士の名前を書いてたので、弁護士に電話相談しました。
    ずっとストレスが溜まってましたが、弁護士の言葉で少しストレスが解消されました。
    ありがとうございました。

  2. madame より:

    我が家も20分足らずの収束したたわいの無い親子喧嘩をネタに17歳の娘を拉致られました。
    高校の修学旅行から帰宅したタイミングで駅から嫌がる娘を喜色満面の笑顔で連れ去る変態中年親父職員に不安を覚え、県に異議申し立てして、取り寄せた弁明書には「幼少期から母親による日常的な虐待があった」などと、現実からかけ離れた記載に旦那も両親もママ友達も唖然。

    一時保護なので1ヶ月程で~なんて言いながら3ヶ月。そうこうしてるうち、施設の環境に適応しきれずに体調不良起こしたので入院させました。病院は教えられません。との事。

    虐待児でないのですから施設の劣悪な環境に慣れるわけはありません!体調不良は予測可能の結果です。丈夫で学校に皆勤賞もので通い、入院もしたことの無い娘を一方的に隔離して、受診もロクにさせない御粗末さで食べられなくなっても歩けなくなるまで放置しての病院送りの結果は、児相による虐待そのものです。
    ネット通りの非人道的な展開に、このままでは廃人にされかねないと弁護士の先生にお願いした所です。旧体質の官尊民碑のお役人には行動あるのみです。

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