「政府にとって一番重要なのは西側(アメリカ)との連携」人質解放が優先ではなかった!? 安倍政権の対応「真剣に検証を」 元外務省国際情報局長・孫崎享氏に岩上安身が聞く~岩上安身によるインタビュー 第513回 ゲスト 孫崎享氏 2015.1.31

記事公開日:2015.1.31取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ、IWJ・平山茂樹)

特集 中東
※2月4日テキスト追加しました!

 1月20日に発生したイスラム国による日本人人質殺害予告事件は、拘束されていた湯川遥菜さん、後藤健二さんの死という、最悪の結末を迎えた。

 元駐イラン大使で、外務省国際情報局長を務めた経歴を持つ孫崎享氏は、安倍総理による中東歴訪から、今回の事件に対する対応まで、「日本政府の責任を真剣に追及しなければならない」と語る。

 安倍総理が表明したイラクやレバノンに対する2億ドルの支援は、確かに、政府が繰り返し説明するように、「人道支援」という名目が立てられていた。しかし、孫崎氏によれば、安倍総理が「イスラム国の脅威を食い止めるため」と発言している以上、イスラム国側が日本を敵視する結果となったことは間違いないという。

 そのうえで孫崎氏は、「後藤さんが、日本人であったが故に、イスラム国のターゲットになったということが重要だ」と語る。後藤さんは、イスラム国に対して敵対するような行為をしたわけではない。日本政府がイスラム国と戦う姿勢を明確にしたために、「たまたま」日本人であった後藤さんが狙われた、というわけである。

 今回の日本政府の対応は、どのような点で問題があったのか。日米関係、さらにはイスラエルとの関係までをも視野に収めつつ、1月31日(土)、岩上安身が話を聞いた。

記事目次

■イントロ

  • 孫崎享氏(元ウズベキスタン・イラン大使、元外務省国際情報局局長、元防衛大学校教授)
  • 日時 2015年1月31日(土)11:00~

安倍総理の責任、真剣に議論を

岩上安身(以下、岩上)「今日は、孫崎さんの私邸にお邪魔しています。孫崎さんは、ご多忙でなかなか捕まりませんでした」

孫崎享氏(以下、孫崎・敬称略)「おかげさまで、あちこちから呼ばれて飛び回っていました。ところで岩上さんも、ツイッターが大炎上したとかで大変ですね」

岩上「もう鎮火しました。(イスラム国の日本人人質事件について)元内閣官房副長官補の柳澤協二さんへのインタビューが発端でした。柳澤さんは、高遠菜穂子さんたちのイラクでの誘拐事件(2004年)を、官邸の中で経験されているので、お話をうかがったのです。

 柳澤さんは当時の体験と照らして、『今回の政府の対応はお粗末だ』とし、なぜ、(安倍総理は1月の中東訪問で)あのようにイスラム国を挑発するような発言をしたのか、という話をされました」

 安倍総理は、昨年(2014年)9月のエジプト大統領との会談でも、『イスラム国を空爆で壊滅を』と言いました。湯川遥菜さんが(2014年8月に)拘束されて以降も、そういう発言を繰り返しているわけです。

 柳澤さんに、この状況での対処法を尋ねたところ、『総理発言のキャンセルは無理、人質を見捨てることもできない。ただ、日本の支援は難民のためなのだから、対イスラム国のために、と書いてある攻撃的な包装紙を取り替えればいい』と話されました。

 対イスラム国、と包装紙に書いたのは安倍総理。『だから、安倍さんがお辞めになれば交渉しやすくなるでしょう』と、柳澤さんはおっしゃった。なるほど、そういう考え方もあるのかと。

 それを『柳澤提案』として広めて議論してもらおうと思ったら、ああいう結果(炎上)になってしまった。孫崎さん、高みの見物をしていらしたんですね(笑)」

孫崎「いや、私も(ツイッターで)同じようなことを書いたら、いろいろ(クレームを)言ってくる人がいましたよ。でも、今回の事件は、間違いなく安倍首相の発言が引き金になっているんです。

 日本政府は人道支援だと言う。何のための人道支援かというと、イスラム国の脅威を減らすため。イスラム国と戦う姿勢を明確にしているのです。身代金の2億ドル(支援金額と同額)が、それを裏づけている。これは重要なポイントです。

 火をつけたのが安倍さんの発言であれば、首相辞任が最善策かどうかは別にして、安倍さんの責任を真剣に議論しなければいけない。しかし、政治家もマスコミも救出だけに目を向け、原因究明と安倍批判を避けている。それに果敢に向かったのが、岩上さんですね」

「身代金を払わない」という日本政府の判断、背後に米国の要求

岩上「いえ、柳澤さんと古賀茂明さんです。古賀さんはテレビ朝日の『報道ステーション』で安倍首相の責任を指摘し、パリのシャルリー・エブド事件の連帯スローガン『私はシャルリ』を引き合いに、”I am not Abe”と言うべきだと発言しました。すると、抗議が殺到しているそうです」

孫崎「今回、一番重要なことは、日本が、イスラム国を含む過激派のターゲットになったことです。後藤さんがイスラム国を刺激したわけではありません。後藤さんが日本人だからターゲットになったのです。

 エジプトや他国にいる日本人が、標的になったかもしれません。安倍発言や積極的平和外交などの一連の流れで、イスラム過激派が『日本は武力行使する側、敵になった』と認識したことが一番大きい。それが日本の取るべき正しい政策なのか、今、議論しなくてはなりません。

 今回、それをしないで、人質救出だけに矮小化してしまいました。そして、自己責任という批判を、別のところに向けている。私は、身代金支払いについて、日本政府が真剣に対応したとは思いません。

 そして、これは、日本だけで考えたことではありません。米国務省のサキ報道官が、『身代金は支払わない。日本政府にも伝えた』と発言しました。それを受けて、麻生財務大臣が『われわれはテロに屈する用意はない。身代金を予備費から出すかは考えてない』と言いました。財務大臣が考えていないなら、何も動いていない、ということです。

 かつての日本は、(ダッカ日航機ハイジャック事件で)福田赳夫首相(当時)が『人の命は地球より重い』と言い、人質奪還を優先しました。『テロリストに屈しない』とは決して言わなかったのです。テロリストが悪いのは当然。その上で、どう人命を最優先するか、ということを考えなくてはなりません」

岩上「たとえば、人質を取った犯人の前で、警察署長が『絶対に屈しない』と大声で言ったら、人質は殺されてしまう。犯人を刺激しないように交渉し、隙を見て人質を救出するのが基本ですよね。人命が懸かっている時に、拳を振り上げてはいけない」

孫崎「繰り返しますが、後藤さんがマイナスなことをしたからではなく、日本人だったから。これから、イラク、エジプト、トルコにいる日本人がターゲットになる可能性が大いにある。そういう状態に日本が追い込まれたと、認識しなくてはいけません」

シャルリー・エブド事件を契機に、西側諸国とイスラム圏が敵対関係に陥ってしまった

岩上「それは、誰にでも言えるし、世界中で起こり得る。後藤さんが捕まったのが自己責任だったら、もう国家は、何も守ってくれないということです。それなら、国は国民に義務も何も要求するな、と言いたくななります。このリスクを高めている責任を問いたいところです」

孫崎「現在、イスラム国に参加している外国人兵士は2万人。内訳はイギリス600人、ベルギー440人、ドイツ600人、フランス1200人、ロシア1500人、モロッコ1500人、チュニジア300人、アルジェルア250人、リビア600人、エジプト360人、スーダン100人です。

 もし、(有志連合が)イスラム国を潰すことに成功すれば、イスラム国に来た兵士たちは、より強い憎悪をもって自国に戻り、自国でテロ行動を起こすだろう。イスラム国を潰せば済む問題ではなくなったのです。

 問題は、イスラム国だけではなく、西側諸国への憎悪が増していること。シャルリー・エブド事件後の西側首脳の連帯表明、同紙の800万部の増刷、フランス空母をイスラム国への空爆に使うことなど、全面対決の姿勢になってしまいました。

 フランスには600万人のイスラム教徒が住む。イランやウズベキスタンの大使を務めた私の経験では、イスラム教は偶像崇拝をしないので、肖像画や生き物は描かない。ある流派は鳥の絵の首に線を入れて描き、生きていないことを証明するほど徹底しているんです」

岩上「預言者ムハンマドを描くだけで、とても大きな冒涜になるのに、シャルリー・エブド紙の風刺画は、ムハンマドを銃弾で撃ったり、むちゃくちゃでした」

孫崎「そういう自由が、すべて平等なのかというと違っていて、イスラエル批判を描いたマンガ家は解雇されている。何でもいいわけではない。そういう規制の中で、イスラム教の風刺だけ自由にやるのは、あまりにも偽善的だと思います」

岩上「結局、弱い者いじめ。シャルリー・エブドの前身の雑誌は、故ドゴール大統領を茶化した時には休刊にさせられました。しかし、フランス政府は、今のシャルリー・エブドは黙認している。シャルリー・エブドは、今では英雄になってしまいました」

孫崎「私は政治マンガが好きで、ツイッターでも引用しますが、今、イスラム教への冒涜を容認する政治マンガ一色になった。マンガの世界も追従型になった。強い者に対する抵抗の手段だったのが、迎合の手段になってしまったのです」

イスラム社会を刺激すれば、争いはますます広がっていく

孫崎「イスラム対自由主義の緊張のまっただ中、安倍さんは、より慎重を期さなくてはならないのに、火の中に入って刺激しているんです」

岩上「週刊ポストの記事に、安倍首相は『このタイミングで行ける俺は、ツイている。シャルリ事件で目立っているから、世界は安倍を待っているんじゃないかなぁ、と意気揚々に発っていった』とあります。どうかしている」

孫崎「日本にはイスラム教を知っている人が少ないように思います。自分はイスラム圏に勤務したので(イスラム学者の)井筒俊彦さんのコーランを読んだが、よくないと思った。井筒さんの訳は昔風の上から目線で、現代的な感覚に合わない。最近、新しく出た訳は、まだいいと思いますが。

 イランにいた時、エジプト大使夫人が、『どの宗教にも奇跡があり、神の力で信じさせる。それが、イスラム教徒にとってはコーランだ。素晴らしい』と言った。コーランは、それほどの完成度を誇るものです。

 その内容は、『宗教を強制してはいけない。もし、敵が逃げるなら追うな。向かって来たら全力で闘え』とある。西側社会が武力で来たら全力で闘うが、それをしなければ、追いかけません。

 つまり、イスラム社会を力で変えることは、おこがましいこと。イラクでは、スンニもシーアもユダヤも共存している。ところが、西側社会が一派だけを支援してバランスを崩してきた。社会の変革を武力で加担することを止めなければ、どんどん争いは広がっていくのです」

イスラム国は、好き勝手をしてきた西側諸国に対する抵抗として生まれた

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  1. 歴史を少し動かしてください より:

    孫崎さんのお話拝聴しました。ぜひ、岩上さんが「スクープ」といった、政府に断られらた人質お二人の、解放手段について、今後明らかにしてください。対談のやり取りから、その国とは、多分イランであり、相手は、おそらく小沢さんか、亀井さんと推察します。あと、4月の新刊楽しみにして待ちます。

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