「あのオスプレイが、どうして日本の空を飛ぶの?」 基地問題の精鋭、沖縄タイムス元論説委員・屋良朝博氏が日本人の「主権意識」を問う 2014.12.6

記事公開日:2015.1.20取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・出口)

特集 IWJが追うオスプレイ問題
※ 1月20日テキスト追加しました!

  「明白な日本国の領土に、こんなに広大な治外法権地帯がある。不思議なことではないか」──。沖縄の基地問題に詳しい屋良朝博氏は、このように問いかけた。

 兵庫県宝塚市にある小林(おばやし)聖心女子学院ロザリオ・ヒル・マイヤーホールで、12月6日から2日間にわたって、「第28期関西NGO大学・第4回講座・ニッポンって民主主義の国? ~沖縄を通して見る日本のカタチ~」が行われた。

 初日の「オスプレイがやって来る! あなたならどうする?」と題された第1セッションでは、沖縄タイムスの基地問題担当記者、論説委員、社会部長などを経てのち、現在はフリージャーナリスト、大学講師として「基地」を追い続ける屋良朝博氏が、オスプレイ配備問題を通して、基地抑止力論の虚像、日米関係の実像をくっきりと描き出した。

 「沖縄は日本のかたちを考える上で良い教材だともいえる」と反語的に語る屋良氏は、オスプレイの実用性への疑問、米国内での扱い、沖縄の基地の現状、騒音・立地・管理状況からみるNATOと日米の地位協定の比較、事故対応の際の政府の姿勢の違い、外国の軍隊に対する「国民意識」の違いなどを、具体的な実例を用いながら解説した。

 屋良氏は、独特の穏やかな語り口で、随所に軽妙なユーモアも交えて淡々と語りながらも、沖縄に関する疑問は日本人全体に返ってきて、日本人の生き方を問うことになるとし、「沖縄を考えることは、日本を考えることだ」と視座を明らかにした。

 「なぜ、日本にはこういう形で米軍基地が必要なのか」と会場に問いかけた屋良氏は、この問いへの説得力のある回答を、日本人が誰ひとりとして持っていないのが、この国の現実であると指摘。最大の問題は「主権意識そのものではないのか」と提起し、こういう「日本とは、何なのか」という核心を突く問いかけによって話を結んだ。

■全編動画

  • セッション1 屋良朝博(やら・ともひろ)氏(フリージャーナリスト、元沖縄タイムス論説委員)「オスプレイがやって来る!あなたならどうする?」

壁が薄い、飛べない、降りられない、人が乗れないオスプレイ

 「オスプレイのアメリカでのあだ名は『ウィドウ(未亡人)・メーカー』。乗員の奥さんがどんどん未亡人になってしまうから」と、屋良氏はまずオスプレイにまつわる挿話を紹介する。

 そして、2013年12月に、紛争の激化した南スーダンから米国人を救出するために出動したオスプレイが、地上からの武装勢力の銃撃を受けて、乗員負傷、救出作戦の中止に至った事件を挙げ、「オスプレイは軽量化のために装甲が極度に薄く、軽機銃の弾丸でも貫通する。とても戦地では使えない代物だ」と指摘した。

 また、「オスプレイは構造上、短いプロペラで離着陸時の推進力を得なければならないため、大変な風圧を生じる」と屋良氏は解説する。アメリカで、オスプレイのデモンストレーション飛行の見物に来た人々が強風になぎ倒され、けが人多数を出した事故について紹介し、「現役の米軍大佐が『危険なので近づいてはいけない』とコメントしている。そのようなもので救助活動などしたら、どうなるか。救助を求める人を、反対に殺傷してしまうような事態にもなりかねない」と懸念を示した。

 さらに、日本の複数の大手新聞が、尖閣防衛と結びつけて、オスプレイ配備を歓迎する旨の報道をした事例に触れて、「彼らはオスプレイの基本的情報を知らない。平地にしか着陸できないオスプレイが、あんな岩のごつごつした尖閣の、どこに降りるというのだろう」と疑問を投げかけ、「もし、仮に尖閣が占領されていたとしたら、敵陣の真ん中にでも降ろしていただくしかないではないか」と断じた。

 しかも、オスプレイが戦闘機ではなく輸送機であることへの注意も喚起しつつ、「オスプレイ1機の乗員は24名、沖縄に配備された24機全部が出動しても計576名。こんな少人数の兵士に、敵陣の真ん中で何をしてもらうつもりなのか。補給路を断たれたら何もせずに投降するだけ。尖閣防衛にオスプレイを結びつけるのは、議論にもならないバカバカしさ、恥ずかしいくらいだ」と強く批判した。

沖縄では小学校をかすめて飛ぶ軍用機が、ハワイでは遺跡にも近寄れない

 屋良氏は、ハワイでのオスプレイ反対運動として、「オアフ島のカネオヘ・ベイにある海兵隊が、ハワイ島にオスプレイ用の飛行場使用を計画したところ、近くにカメハメハ大王のお墓があることを心配した住民の反対にあって断念した」という実例を挙げた。「激しい下降気流が歴史遺産に悪影響をおよぼす」という理由だったが、計画されたハワイ島の空港からカメハメハ大王の遺跡までの距離は1.6キロある。また、「カネオヘ・ベイの近くでの小学校の騒音基準は45デシベル。静かな事務室程度に制限されているのに、沖縄の状況は何なのか」と訴え、沖縄の現状に話を進めた。

 「普天間第二小学校では、敷地をかすめて軍用機がひっきりなしに離着陸を繰り返している。世界一危険な小学校で、子どもたちは校庭で遊んでいる最中に爆音で耳をふさがねばならない。事故も緊急着陸も頻発している」と、屋良氏は、子どもたちの切実な様子をとらえた映像で日本の基地の立地状況を比較する。「嘉手納では1日200回、年間7万回にもおよぶ離着陸が行われている。嘉手納は町の約8割が基地の敷地に取られている」とも紹介した。

 そして、「そもそも、ほとんどが船上勤務で、沖縄の基地内には常駐してさえいない海兵隊の基地を、日本の国防上、沖縄に置く必要はあるのか。米軍が海兵隊に与えている太平洋地域の海上巡回という任務のあり方からして、米軍にとって海兵隊基地は沖縄でなくてもいい」と屋良氏は強調した。

もっとも親米的な国、イタリアにでさえ、米軍の基地自由使用はない

 続けて屋良氏は、欧州ではもっとも親米派の国のひとつであるイタリアのアビアノ基地の状況を、日本と対照して解説した。

 イタリア北部、オーストリアとの国境近くに位置するアビアノ空軍基地は、「バルカン有事、中東有事の際には、米軍にとって中継地に欠かせない軍事的要衝にあたる。にもかかわらず、アビアノ基地では野放図な基地使用は許されていない。たとえば、1日あたり48機の離着陸しか認められない。米軍パイロット50名が駐留、そのうち2名が休暇中とすれば、48回で1人あたり1日1回は訓練できる計算」と屋良氏は説明する。

 また、基地施設内で米軍司令官とイタリア軍司令官が仲良く並んで微笑む写真を示し、「2人はここで対等に司令官だ。日本では、基地の中は外国、治外法権」と指摘。「基地内でオイル漏れがあれば、アビアノ市の職員が立ち入り調査をする。日本では、仮に基地内が鉛で汚染されていようが、地域の首長どころか県知事や外務省の要請をもってさえ、立ち入れない」と比較した。

 「アビアノ基地には米軍戦闘機F-16が50機配備されている。嘉手納とほぼ同じ規模だ。しかし、基地の管理権はあくまでイタリアのものであり、米軍には、その使用権が一定条件のもとに認められているかたちである。NATO地位協定によってイタリアは基地をNATO軍に提供し、米軍はNATOからたまたまそこを借り受けている、という建前になる」と屋良氏は解説する。

 基地の使用時間帯についても、「アビアノのオープン・アワーズは朝の6時から夜の10時まで。日本では夜中の2時、3時に離着陸している。イタリアの習慣、リポーゾ(お昼寝)の時間帯には、米軍もF-16のエンジンを切る」という実情を紹介。「飛行空域も、イタリア軍と米軍、2人の司令官が話し合って決める。空の主権もまたイタリアにある」。

 その理由として、「米軍関係者は、フェンスの向こうに一戸建て芝生付きの家を提供されたりはせず、地域の中で家賃を支払って暮らし、子どもたちは地域の学校に通わせている。米軍関係者であっても、地域のPTA。リポーゾを邪魔したり、学校の上を飛ぶなんて、そんなまずいことはしない」と屋良氏は解説。「基地の占有、自由使用なんて、そもそもイタリア国民が許さない」と力説した。

 「アビアノは静かな町だ」と屋良氏は言う。「日本の、たとえば首都圏上空はどうか。横田基地が管制空域を持つ、見えない米軍フェンスがある」

観光客20人即死、殺人容疑のパイロットはどうなったか

 「尖閣が日本固有の領土かどうかという議論があるが、はっきり日本固有の領土でありながら、主権がおよばない地域はやたらにある。それが、日本の米軍基地」と屋良氏は改めて強調しつつ、具体的な事例として、イタリア北部チェルミス山でのロープウェイ切断事件、「カバレーゼの悲劇」とも呼ばれる事件の経緯を詳しく話した。

 事件は1998年2月、スキーリゾートとして知られる山間の村、カバレーゼで、レーダーの死角となるコースを超低空飛行訓練中の米軍電子戦闘機EA-6Bプラウアーが、観光客20人の乗ったロープウェイのケーブルを誤って翼で切断、転落したゴンドラの全員が即死したという惨事である。

 「翼に損傷は受けながらも、EA-6Bはアビアノ基地に帰還。そのEA-6Bを基地内で待っていたのは、イタリアのカラビニエリ(軍警察)だった。容疑は20人に対する殺人。機体は、ただちに物証として差し押さえられた」とし、その後の展開を以下の通り紹介した。

 「米国防総省は、EA-6Bを第一級の国家機密として即時返還を要求し、米兵が機体検証中のカラビニエリをぐるりと包囲までしたが、カラビニエリは頑として拒否。コックピットまで調べ上げた末に、事件前後の記録ビデオが消されている事実を突き止めた。

 しかし、NATO地位協定によって、公務中の兵士の裁判権は帰属国にあり、イタリアはこの米兵を処罰できず、容疑者は米軍法会議で裁かれた。殺人罪に関しては不可抗力として無罪、証拠隠滅に関しては禁固6ヵ月、そののち不名誉除隊の判決を受けた」

 屋良氏は、この経緯をサッカーになぞらえ、「イタリアはドリブルの末、シュートを放ったのだが、NATO地位協定に阻まれて得点にはならなかった。では、日米地位協定はどうか。日本は試合に参加できない」と巧みに対照した。

24時間365日、米軍から「有事」扱いを受けている国、日本

 さらに屋良氏は、日本での事故の場合の実例比較として、2004年8月の沖縄国際大学での、米軍ヘリCH-53B墜落事件の際のなまなましい映像を紹介した。映像では米海兵隊員が、大学施設の中で必死に抵抗する報道関係者も含めたすべての日本人に向かって、「出ていけ!」と激しく繰り返し命令している。その映像に対し、屋良氏は「お前らこそ、出ていけ」というひと言を放った。 

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