国際社会の「敵国」であることを自ら望む日本の病〜岩上安身によるインタビュー 第478回 ゲスト 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』著者・矢部宏治氏 第2弾 2014.11.2

記事公開日:2014.11.4取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・平山茂樹)

 孫崎享著『戦後史の正体』など「戦後再発見双書」を手がけた編集者の矢部宏治氏の新著『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』。本書で重要視されているのが、国連の「敵国条項」の存在である。

 国連憲章第53条と第107条では、第2次世界大戦で枢軸国側に立って戦った7カ国(日本、ドイツ、イタリア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、フィンランド)が、「敵国条項」の対象国であるとされている。しかし、日本以外の国は、政変や善隣外交(旧西ドイツによる東方外交など)によって、事実上、「敵国条項」対象国の地位を脱していった。あらゆる国際協定の上位に位置する国連憲章において、日本は、いまだに国際社会の「敵国」であるとされているのである。

 その「敵国」日本で、隣国を口汚く罵るヘイトスピーチが横行し、河野談話の見直しなど歴史修正主義の勢いが強まり、さらには「核武装論」などが公然と唱えられている。米国をはじめとする国際社会は、日本の軍国主義化と再軍備を警戒するのではないか。そして、日本に在日米軍が存在するのは、そうした潜在的「敵国」である日本を、内側から封じ込めるためではないのか――。そう、矢部氏は指摘する。

 第1弾に続き、日米同盟の深奥をめぐって、岩上安身が矢部氏に話を聞いた。

■イントロ動画

  • 日時 11月2日(日)16:00~
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

日米安保条約第1条”in and about”が持つ意味

岩上安身(以下、岩上)「矢部さん、こちらのご本、売れているようですね」

矢部宏治氏(以下、矢部・敬称略)「おかげさまで、重版がかかりました。このペースでいけば、まあ5万部はいくんじゃないかと」

岩上「この出版不況と言われているなか、5万部といえば、ベストセラーですよね。前回、お話のなかでひとつだけ抜けていたことがあった、ということですが」

矢部「1957年の、アイゼンハワー大統領への在日米軍基地に関する秘密報告書に、オスプレイの謎や横田空域の謎が書き込まれていることをご紹介しました。

 旧日米安保条約第1条には、『日本国内およびその附近に配備する権利』と書いてあります。これは、英語では”in and about”。つまり、自由に出入りできるということ。旧安保条約と1960年に改定された新安保条約では、米軍の自由な行動が担保されています」

日本国憲法の草案は日本人が書いたのか、それともGHQが書いたのか

矢部「国連憲章が、日本の歴史研究の中で空白になっています。なぜなら、これが『安保村』にとって非常に都合が悪いからです。しかし、日本国憲法と国連憲章は密接な関係にあるので、これを理解しなければ先に進めないわけですね。

 この本のパート1で基地の問題、パート2で福島の問題を扱ったわけですが、それはひと言で言って、憲法が機能していない状態です。その理由は、リベラル派が4つに分断されているからだ、と私は考えています。

 まず第一に、日本国憲法は日本人が書いたのか、GHQが書いたのか、ということ。岩上さんはこれはご存知ですか?」

岩上「日本国憲法の草案はGHQが用意したんですよね。しかしその起源は第一次世界大戦直後にあって、不戦条約が結ばれましたね。

 自民党の改憲論者は、押し付け憲法であるから変えろ、と言います。これは、非常に単純な言い方です。これが戦後レジームからの脱却なのであれば、日米安保はどうなるんだ、ということになりますから」

矢部「以前、鈴木昭典氏の『日本国憲法を生んだ密室の九日間』という本を編集しました。この本を作る際、憲法条項の現場責任者となったケーディスに、私は会っているのです。この体験が、今回の本を書く際のベースのうちのひとつになっています。

 実際に会ってみると、ケーディスは、憲法に関して負い目があるということが分かりました。『本を書いたら、絶対に英文で俺に見せろ』と。彼は資料を図書館に寄贈しているんですけど、その中には、憲法のことは書かれていないんですね。

 GHQが憲法草案を書いた9ヶ月後に定めた『検閲の指針』の中に、『GHQが憲法草案を書いたことに対する批判』というものが含まれていました。私は、日本人が知的に劣っているとは思わないので、日本人が自分で憲法を書くことができると思っています」

日本国憲法と大西洋憲章の関係

矢部「憲法9条2項をどう見るか、という問題があります。1項は、国連憲章の理念そのものなので、問題がありません。では、9条2項は、『人類究極の夢』か、それとも『懲罰条項』か?

 沖縄の嘉手納基地に、広大な弾薬庫があります。この弾薬庫の中に、核兵器が貯蔵されていたわけですね。私が驚いたのは、それが、いつでも日本本土に運ばれて、いつでも中国とソ連を核攻撃できるようになっていた、ということです。

 中国とソ連にすれば、自分の脇腹に核兵器が配置されていた、ということです。戦争は、兵站、ロジスティクスが重要です。日本は、戦争の後方支援を担っていたといえます。

 そこで、9条2項がどういう役割を担っていたか、ということになります。国連憲章第103条で、国連憲章と他の国際協定との関係について、『国連憲章にもとづく義務が優先する』とあります。つまり、あらゆる国際協定の中で、国連憲章が最上位に位置する訳ですね」

岩上「これに先立って、米国と英国が大西洋憲章を作っていますね。それがなんと、1941年であると」

矢部「戦後世界は、大西洋憲章によって枠組みが作られているんですね。まず、これを学ばないといけないのに、学校では教えていないですよね。

 大西洋憲章が調印された1941年8月14日というのは、日本はまだ戦争に入っていないですよね。この時点で、ルーズベルトとチャーチルが、戦後世界をどうガバナンスするかということを決めているんですね。

 大西洋憲章の理想的な文言は、対ナチスということで組み上げられているんですね。そこに追って、枢軸国として参戦する日本が加わることになります。そして大西洋憲章の文言は、ほとんどそのまま、日本国憲法の前文に来ているんですね。

 大西洋憲章の段階で、対日戦に踏み切る覚悟をルーズベルトはしているわけですね。この大西洋憲章を掲げて、26カ国による連合国の共同宣言が出されるわけです。英米が中心になり、対独でソ連、対日で中国を巻き込んでいったということです。

 1944年10月9日のダンバートン・オークス提案では、個別国家の戦争は違法だとされています。同時に、国連軍の構想もこの時点で出ています。こうした、理想主義的な協定の結晶が、日本国憲法に結実していくことになります。

 マッカーサーやケーディスが憲法の草案を書いていた1946年は、ダンバートン・オークス提案はまだ生きています。1946年2月の段階で、国連軍が現実化するとしたら、そのトップはマッカーサーになる可能性が高かったろうと思います。

 しかし、歴史はそうならなかった。国連憲章に、第51条として集団的自衛権が入ってきます。これは何かというと、結局、『個別国家による戦争は違法』というダンバートン・オークス提案を無効化するものです」

岩上「それは当然、冷戦の対立というものがあるわけですね。欧州戦線でドイツを押し返していったのはスターリンです。しかし戦後、米国によってスターリンの悪魔化…まあ悪い奴なんですけど、そういうキャンペーンが始まっていきました」

矢部「本来の集団的自衛権というのは、武力攻撃を受けた時点で同盟国において発動されるものです。しかし、現在の集団的自衛権は、先制攻撃型ドクトリンとなっていて、米国が潜在的脅威と認定することになっています。二人国際連合状態です。

 国連憲章第53条と107条に、敵国条項が記されています」

岩上「国連には人権に関する規定がありますよね。しかし、それが例えば沖縄の住民に関しては適用されない。人権ではなく、人種差別の問題として国連では処理されてしまうのですね」

沖縄県知事選をどう見るか

岩上「沖縄でインタビューした島袋純さんは、スコットランドの自治を研究されている方なのですが、自民党改憲草案に沿って憲法が改正されたら、沖縄は独立する、とおっしゃりました」

矢部「翁長雄志さんがなぜ今回擁立されたのかというと、オスプレイ反対の建白書を取りまとめたからですね。民主主義の社会では、それを聞かないのは明らかにおかしいのに、官邸は一顧だにしなかった」

岩上「田母神さんなどは罵声を浴びせました」

矢部「翁長さんを擁立して、知事にならせても、本土が無茶苦茶な憲法を作ったとしたら、それはもう独立するぞ、と。これが世界標準の考え方なんですよね」

岩上「琉球独立学会というものがありますね。こちらは、血で峻別するのだと。他方、島袋さんが言い切ったのは、立憲主義でやるのだ、ということです。血の中心主義になったら、またミニ帝国を作ることになってしまう。それではダメだ、と」

国連憲章に記された「敵国条項」が持つ意味とは

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「国際社会の「敵国」であることを自ら望む日本の病〜岩上安身によるインタビュー 第478回 ゲスト 『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』著者・矢部宏治氏 第2弾」への6件のフィードバック

  1. 動画を観て御著書を読んで より:

    沖縄と福島を中心にすえ東京の見方も変える戦後日本論として画期的な論考です。一行、一段落にいくつもの事実や文献や人々の願いがこめられていることはよくうかがえます。
    ただし憲法論はいただけません。硬直化した護憲派という考え方はどうでしょうか、またそれぞれ声を上げてがんばっている政治的意識をもちだした人々にはどのように貢献するのでしょうか。それも「フィリピンモデル」でなんとかなるのでしょうか。憲法9条第2項改憲を御著書で主張されていますが、現在の安倍政権を倒し、集団的自衛権に徹底反対し個別的自衛権に限定する世論が形成される、国民投票に持っていくという条件のもとに、数年かかっても改憲をめざすのでしたら納得がいきます。確かに米軍基地を国外に移すことと9条2項にある制度的脆弱性には強い関係があるともいます。ただ急がれたのでしょうか、もっとつめて論じ、世論形成にもっていかないと、科学的新発見とは異なり熱意はあっても、はなはだ失礼ですが空論のように読めます。

  2. 日本の政治は二流、経済は一流か より:

    たしかに、敵国条項と国連による安全保障上の日本の位置はご指摘のとおりと思います。
    日本の米国軍事基地や制空権についてはそのような解釈もありうるとは思います。昭和天皇をはじめ戦争体験者が日本政治の第一線から遠のき退いていくなか、憲法、米国との関係、米軍基地の存在の意味あいが世代により変化していると思います。
    ただし、国際連合への経済的支出や安保理事会非常任理事国就任回数をみても、かならずしも敵国条項を拡大解釈するのは、あまり穏当でないのではないでしょうか。

  3. 大竹義人 より:

    「戦後再発見双書」。このシリーズは本屋で見た時から気になり、購入しています。江藤淳の一部の研究とか評論、加藤典洋の「アメリカの影」など、以前からこのテーマは私の頭から離れてくれません。最近では自民党の憲法草案を読んだ時の事です。そこには「自衛隊を国軍とする」とありました。自衛隊は在日米軍の元に既に再編化され組み入れられているわけで、これなら在日米軍を合憲化することにならないかなと即座に疑問が浮かんだものです。若手の思想家、東浩紀氏の憲法草案にも同様の条文がありました。あるとき、東氏が二コ生に出演。憲法問題を論じていました。質問メールを募集していたので、私はこの件を質問し送信。採用されました。その場で読み上げられ、東氏が答えてくれたわけですが、明らかに足元をすくわれた表情が印象的で、真正面からの回答ではなかったのが残念でした。当時(数年前ですが)、若手思想家のリーダー格の人でも、この問題を、思考の射程に正確に捕らえきれていなかったのだと思います。

  4. 大竹義人 より:

    沖縄知事選は明日です。気になったのは、菅官房長官の「選挙結果の如何を問わず、辺野古移転は既定の事なので推進する」と言う主旨の発言です。当初私は、仮に民意が反対しているなら、辺野古移転は、アメリカだって認めないのではないかと楽観しておりました。しかし、この放送を見終わって、考えが甘すぎると思い直しました。官房長官の見解の方が正確なのです。辺野古と言わず、アメリカには、現在の官邸や皇居を潰して今日明日にも、新たに基地を作る法的根拠を持っていますが、日本はそれに反対するいかなる根拠もないのですから。その意味で、いまの日本の国土の全てが沖縄です。この事をわれわれが拒否しない限り、「沖縄の基地問題」は解決しません。やはり、国民が知らされていない状況と言うより、日米両政府になめきられている現状と言った方が良いでしょう。

  5. うみぼたる より:

    私はこの問題を理解するのにまだまだ時間が必要です。
    米国の国務省と国防総省の対立ですが、1946年当時、国務省は沖縄の米軍基地をなくしたうえで日本に返還すべきだと主張していたとあります。
    ここ最近の米国の国務省と言えば、ヌーランド国務長官補のウクライナでの動き。
    これも同じ米国なのでしょうか。

  6. 星 義広 より:

    つい先日衆議院議員解散総選挙が、発表されました。
    ただ現状では、今の与党以外でもこれといって期待ができる野党がいないこと。
    小選挙区制という制度の矛盾点

    いかにしたら、今の官僚主導の制度を変えれるか 多くの国民が気が付いて 国民運動にでもならなければ,なかなか変えられないと思います。
    この種類の本がそのきっかけになればいいと思います。
    多くの人に、進めたい本です。

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