【大義なき解散総選挙14】自衛隊で平和憲法を学んだ元自衛官の怒り ~岩上安身によるインタビュー 第441回 ゲスト 集団的自衛権に反対する元自衛官・泥憲和氏 2014.7.25

記事公開日:2014.8.1取材地: テキスト動画独自
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(IWJ・藤澤要)

 集団的自衛権行使容認の動き。横行するヘイトスピーチ。前者は「戦争する国」、後者は「人権後進国」を映し出している。

 元自衛官の泥憲和氏は、ヘイトスピーチに対抗するカウンターの「先駆者」として積極的に活動してきたことで知られている。その泥氏は7月1日、フェイスブックに集団的自衛権行使容認に反対する声明を掲載。たちまち賛同者を集めた。あの閣議決定の後も、支持の声は広がり続けている。

 「戦争する国」も「人権後進国」も、現実に日本が近づきつつある姿だ。泥氏は2つの前線に立ち、両者を押し返そうとしている。なぜ今、この2つが勢いを増しているのか。このまま日本は、「戦争をする人権後進国」となってしまうのか。7月25日、泥氏に岩上安身が聞いた。

■イントロ

  • 日時 2014年7月25日(金)
  • 場所 AP大阪駅前梅田1丁目 会議室(大阪市北区)

自衛隊で平和憲法を学ぶ

 泥氏は中学卒業後の進路に、自衛隊の「少年工科学校」を選ぶ。実家が営む自転車販売店が振るわなくなり、高校への進学が経済的に難しかったためだ。「衣食住は無料で、高校卒業免状はもらえる。卒業後は下士官としての地位が約束される。こんないいことはないと思いました」。

 1969年のことだった。自衛隊に対する批判がまだ強い時代。入学した少年工科学校では、日本国憲法に基づいた自衛隊員の心構えを徹底的に教え込まれた。「『精神教育』という授業で、自衛隊というのは、日本国憲法を守る、旧軍とは全く違う組織である。旧軍の轍を踏んではならない、と教えられました」。

 学校長は陸軍大学校出身の旧軍人。かつての軍隊経験を持つ教官たちが、「ああいう間違った陸軍のようになってはいけない」という思いで教育に当たっていたのが少年工科学校だった。世界史の教官からは、自衛隊に反対する国民も含めて守るのが隊員の任務だと教えられた。娯楽室で流れるのは、ジローズの「戦争を知らない子供たち」や、高石友也の「坊や大きくならないで」といった反戦歌だった。

「殺し、殺される関係」に投げ込まれるのは誰か

 「中国の脅威」が叫ばれ、集団的自衛権行使の根拠に利用されている。すぐ隣に敵がいるから、今のうちに頼りになる味方を作っておこう、という論理だ。

 泥氏はこの論理の欺瞞を見破る。隣国同士がいがみ合うのは、仕方がない。問題なのは、そのいがみ合いを、政治的に「煽る」ことだ。現政権が、尖閣や竹島のことを大袈裟に言い立てることは、まさにこれにあてはまる。

 「隣り合った民族で仲がいいためしはありませんね。互いに悪口を言いあうのが普通の関係です。だから、日本人と韓国人が、個人的に仲が悪いことは仕方がない。しかし、その中で、『お互いに仲良くしようや』という人たちもいる。

 問題なのは、政治的に憎しみを煽り立てることです。これは今の日本で起こっていることですね。今の安倍政権、自公政権は、国内政治のために民族憎悪を煽っているところがあります。これは相当にまずい」。

 「政治的な煽り」によって集団的自衛権行使に走り、自国と関係のない戦争に巻き込まれる。安倍総理は、日本は戦闘行為をしないから、相手から攻撃されることはない、と国民を説得しようとしている。しかし、戦争状態にある敵国が、自衛隊だけをわざわざ攻撃目標から外すなどということはありえるのか。泥氏の答えはノーだ。

 「自国が攻められた時に守るというのは正当防衛で、これは誰も反対できないことだと思います。しかし集団的自衛権の場合は、自国が攻められてもいないのに、見も知らない国へ出かけて行って、何の恨みもない相手と殺し合いをしろという話です。

 自衛隊が『戦いには来ていない』と言ったところで、相手は自分たちが潰されるかどうかの瀬戸際です。自衛隊だけが見逃されるはずがありません。結局、『殺し、殺される関係』に入ることになる」。

 実際に「殺し、殺される」関係に投げ込まれ、血を流すことになるのは誰か。安倍総理の説明に最も欠けているのは、この点だ。ありえない「危機」の火種を煽り、自分ではない誰かを人間同士の殺し合いに送り込もうとする。泥氏は、怒りを込めて語る。

 「安倍さんが言いたいのは、どうやらこういうことのようです。『尖閣が取られそうな時に米軍の助けが必要だ。その助けを借りるには、自衛官が先に血を流さなくてはいけない』。

 馬鹿を言うなと。中国軍は強大ですが、そういう状態になれば自衛隊は死に物狂いで守ります。それに、世界がそんな状態を放置しておくはずもない。中国にしても、世界を敵に回せば経済的に破産します。日本、中国どちらの側にしても、不可能なことを言い合っているだけなんです。

 こんな絵空事の危機感を煽り立て、人の命を無駄におもちゃにし、道具扱いするな。これが、安倍さんの集団的自衛権の議論に対する、私の怒りの根源です」。

「人権後進国」でのカウンター活動

 「政治的な煽り」により、隣国への憎しみが公的に正当化される状況が生まれる。泥氏は、「それを敏感に察知して、突出的に騒ぐ、厄介な人たち」が出現し始めると指摘する。在特会(在日特権を許さない市民の会)に代表される、ヘイトスピーチの問題だ。

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  1. 一撮 より:

    泥さんのお人柄に感銘を受けました。逆説的名前と人柄に禅僧をイメージしました。
    IWJのインタビューに登場する人は皆素晴らしいですが、今回は知識や情報、政経の分析といった分野の
    人々とは違う、人として『黙っておれん』と、やもなく前に出て来た人だけにより親しみを感じたのは僕だけではなかったと思います。彼のような人格は、彼自身の持ち味もあるでしょうが、昔の自衛隊のあり方が間違ってなかったことを証明しているようで良かったと思います。岩上さんもインタビューの中で云ってましたが、自衛隊員の話を聞く機会がこれから増えるといいですね。

  2. @hiroezkさん(ツイッターのご意見より) より:

    国際情勢や外交も踏まえた、とても納得できる論を展開されている。

  3. @to0193ozさん(ツイッターのご意見より) より:

    背広組(外務省)などがアメポチならぬアフォー首相を利用し軍備を輸出。
    制服組(軍人)の勇み足で戦乱が始まるのではない。その連中は裏にいる。

  4. @ittusattuさん(ツイッターのご意見より) より:

    禅僧の様に清々しい泥さんの人柄に感銘を受けました。必見です。

  5. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    自衛隊で平和憲法を学んだ元自衛官の怒り ~集団的自衛権に反対する元自衛官・泥憲和氏に岩上安身が聞く http://iwj.co.jp/wj/open/archives/156846 … @iwakamiyasumi
    最後まで走り続けた泥憲和氏。ご冥福を祈るとともに、その真摯な怒りを共有してほしい。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/859545256362037248

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