「原発事故が起きたからには、もう廃炉しかない」 〜講演会 河野太郎氏、玄侑宗久氏 2014.6.29

記事公開日:2014.6.29取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 河野太郎氏は、東電が29年間隠していた臨界事故を取り上げて、「1978年11月2日、福島第一原発3号機で、操作ミスから制御棒5本が抜け落ち、臨界が7時間半続く『臨界事故』が起こった。しかし、東電は、この事故を隠蔽したため、情報が共有されず、他社の原発でも同様の事故が、何回も起こってしまった」と明かした。

 2014年6月29日、福島県郡山市の南東北総合卸センターで、佐藤栄佐久前福島県知事らが呼びかけ人となって結成された「福島県内の全原発の廃炉を求める県民の会」が学習講演会を開催した。河野太郎衆議院議員、作家の玄侑宗久氏が講演を行った。河野氏は、日本の原発政策の流れと核燃サイクルの実態、原発再稼働の真意、再生可能エネルギーの可能性などを語り、玄侑氏は、分断した福島県民を憂い、「ひとつにするためには、福島第一と第二の廃炉を」と提案した。

 玄侑宗久氏は「アメリカのスリーマイル原発は、廃炉を成功させた。廃炉は、事故から7~8年後にもっとも人員が必要となる。福島原発だとしたら、人員不足は東京オリンピックの直前になる。今でも、工事入札の不調は激しい。政府は、外国人労働者の手当を考えているが、どうなるか心配だ」と話した。

 そして、「日本人は、GDPが上昇すれば幸せになれるという幻想に取り憑かれている。満足も、行き過ぎると不幸になる」と諭した。

※冒頭の録画が欠けております。何とぞご了承ください。

■全編動画

  • あいさつ 佐藤栄佐久氏(前福島県知事)
  • 講演 河野太郎氏(衆議院議員、自民党副幹事長、原発ゼロの会協同代表)「廃炉宣言へのエール」
  • 講演 玄侑宗久氏(作家、僧侶)「落花は枝に戻りがたし」
  • あいさつ 広田次男氏(主催事務局、弁護士)/吉原泰助氏(主催呼びかけ人、元福島大学学長)
  • 日時 2014年6月29日(日)13:00~16:00
  • 場所 南東北総合卸センター(福島県郡山市)
  • 主催 福島県内の全原発の廃炉を求める県民の会

2000年間、エネルギー不足がないバラ色の計画

 はじめに、河野太郎氏が登壇し、「当選したばかりの頃、地球温暖化について懸念していたら、『原発を10基も作れば大丈夫だ』とあっさり言われた。原発に疑問を示すと『共産党か』とヤジられた。結局、納得のいく説明はなかった。また、2009年、自民党総裁選挙に立候補した時には、推薦人20人から『原発のことは言うな』と釘を刺された」と前置きして、本題に入った。

 まず、「エネルギーが石炭から石油に転換。高度経済成長になって、石油のない日本の将来を憂い、原発が注目された」と述べ、核燃料サイクルについて説明した。

 「使用済み核燃料の処分は、どこの国でも課題だった。日本ではウランは採れないし、世界のウランも70年で枯渇すると言われており、使用済み核燃料からプルトニウムを抽出して、それを高速増殖炉もんじゅで増産させることを計画した。『今後2000年間はエネルギーが不足しない』というバラ色の話だった」。

 「1967年、原子力長期計画を発表。そこに、20年後に高速増殖炉の実用化が明記された。しかし、1995年12月、もんじゅがナトリウム漏れ大火災を起こして、そこから止まったままだ。今は、2050年までは無理という話になっている」。

もんじゅは止めておくだけで年間200億円

 河野氏は「現在、もんじゅを安全に止めておくためだけに、年間200億円かかっている」と言い、プルトニウムの問題点を説明した。

 「プルトニウムは核兵器の材料だ。現在、日本は45トンを保有。ちなみに、北朝鮮は50キログラム保有と推測されている。アメリカでも、核兵器のプルトニウムは全部で38トン。それで、世界の批判を避けるためにも、平和利用の口実の高速増殖炉もんじゅから、撤退できないのだ。しかし、もんじゅはうまくいかないため、ウラン9割にプルトニウム1割を混ぜたMOX燃料を使う、プルサーマル発電で消費することにした」。

 「ちなみに、『プルサーマル』は日本語だ。国際会議では通じない」と笑いを誘った河野氏は、「高速増殖炉でのウラン増殖率は1割だ。ウラン枯渇までの期間を1割引き延ばせるが、それに12兆円かかる。節約できる燃料費は9000億円だ」とコスト面でのアンバランスを指摘した。

再処理工場で処分予定だった使用済み核燃料

 河野氏は、使用済み核燃料の処理の問題に話題を変え、「現在、処分方法の最有力候補である地中埋設も、非現実的」と指摘。「300年間、管理しなくてはならない。フィンランドのオンカロ貯蔵施設は、1億年にわたって地層が動いていないが、日本国土には、10万年もの間、安全なところはない」。

 続けて「使用済み核燃料は年間1000トン出る。2011年3月10日、貯蔵プールは、6000トン分しか空いていなかった。つまり、地震がなくても6年後には満杯になっていた」と言い、原発ごとの使用済み核燃料プールの状況を示した。

 「九州電力の玄海原発は、再稼働したら3年で貯蔵プールが満杯だ。以前、東電に、貯蔵プールが満杯になったらどうなるのか、と訊ねたら、六ヶ所村再処理工場で処分すると答えた。しかし、2005年稼働のはずだった六ヶ所村再処理工場は、18回故障が繰り返し、いまだ操業できない。ちなみに、再処理工場では、処理量の1%のプルトニウムが生産される」と再稼働を懸念した。

再稼働をするための「言い訳とウソ」

 そして、河野氏は、原発推進派が再稼働したがる真意を探った。化石燃料への依存度による安全保障への支障、電気料金の試算などの、データを提示し、「原発を止めたら電気料金が上がることはない」と矛盾を指摘。「電力の多消費産業で一番困っているのは、生産額33%を電気代が占める、圧縮ガス、液化ガス製造業。次が亜鉛、苛性ソーダ、セメント、鉄鋼業などだ。また、トヨタは生産コストの0.68%が電気代で、為替変動の方が影響が大きい」と資料を見せて説明した。

 また、「地球温暖化対策のため」という言説についても矛盾を暴き、安全保障上の抑止力論についても、「潜在的な核保有能力を維持するために、原発が必要だというが、核兵器製造のために必要なのは、核濃縮の技術だ。原発はいらない」と明言した。

原発を止めると1兆1495億円の損失が出る東電

 そして、河野氏は、再稼働をしたがる本当の理由を、「まず、廃炉費用の負担。今、止めると、廃炉費用積立金が不足する。原子力発電設備の残存簿価。使用済み核燃料の簿価。それらが損金になるのだ。東電は、原発を止めると1兆1495億円の損失になる」と明かした。

 その上で、「省エネと節電。照明全部をLEDに変えると、全体で9%減。オフィスビルのエアコンの省エネ化。再生可能エネルギーを増やす。世界では、再生可能エネルギーの方が原発よりコストは下がっている。ドイツは、すでに電気をフランスなどに輸出している」と述べ、最後に、中東・北アフリカと欧州のグリッド接続計画に倣った「アジア・スーパーグリッド」を提案し、講演を終えた。

非常に親和性がある、民主主義と独裁制

 次に、僧侶で小説家の玄侑宗久氏が登壇。「福島県は分裂した。それが、ひとつになれる方法は廃炉しかない。福島県議会では、福島第一、第二原発を廃炉にする決議をしたが、手応えがない。民主主義はどうなっているのだろうか。民主主義と独裁は、非常に親和性がある。民主主義から独裁的なやり方が生まれてくる可能性は、とても高い」と指摘した。

 「落花枝に上り難し(らっか、えだにのぼりがたし)。覆水盆に返らずの意味だが、原発事故が起きてしまったからには、もう廃炉しかない。そして、自殺者が減らない。震災関連の自殺者が3年間で120人、福島県内は54人。自分の檀家も6人が自殺した。しかし、死亡診断書には自殺とは書いてないのだ」。

 玄侑氏は「心のケア不足に加えて、放射能への不安が大きな原因だ。新聞では『健康問題』というが、『健康不安』ではないだろうか。一方、その不安を煽る論説が多い。たとえば『美味しんぼ』の鼻血問題。鼻血が出るのは、県外避難した人に多い」と述べた。

低線量被曝について「被害意識の格差」

 さらに、玄侑氏は「低線量被曝に対する被害意識の違いが、住民の分断に拍車をかけている。福島の県民健康調査の甲状腺検査評価部会で、東京大学大学院教授の渋谷健司委員が、過剰診療を指摘した。甲状腺がんは、悪さをしないこともあるといい、しらみつぶしに診てしまうことは、不安を煽ることになる」と見解を述べた。

 さらに、「富岡町、大熊町、波江町など、強制避難区域の人たちは、全国に散らばってしまっている。その人たちの居住スペースは必要ではないのか。チェルノブイリの時は、無料施設を建設した。福島で、そういうものが何もないのが不思議だ。果たして、(県外に避難した)彼らは戻ってくるのだろうか」と懸念を口にした。

 玄侑氏は「福島民報の連載に、中間貯蔵施設の行方について書いたら、今までで一番、反応が大きかった」とし、その内容について、このように続けた。「福島県議会は、中間貯蔵施設を30年後にはどこかへ移せ、と決議した。しかし、隣りに持って行っても問題は解決しないと思う。福島県内で永久保存すべきで、そういう施設を作るべきだ、と書いた」。

 「日本が、もう元に戻れない大きな原因のひとつが、原発にあるのは明らかだ。しかし、すぐにゼロにしたら、中国など他の国が、世界へ輸出してしまう可能性もある。極端は避けて、長期の目標を立て、だんだんとなくすほうがいい。意見の相違があったとしても、福島第一、第二を廃炉にすることで、福島県民が一致できればいい。多少の意見の相違は大目に見てほしい」と話して、講演を終えた。

 主催事務局で弁護士の広田次男氏が、「なぜ、廃炉要求の裁判ができないのか、とよく言われる。福島県は、これまでひどい被害を受けている。裁判をしないと廃炉にできないのは、あまりにも情けない。市民運動で廃炉にしていきたい。また、3月11日は、福島の日としたい」などと語った。最後に、呼びかけ人で元福島大学学長の吉原泰助氏が閉会の挨拶をして幕を閉じた。

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