「国土強靭化法で、費用対効果は考えずに、とにかく作る」 〜シンポジウム「沖縄の自然環境と公共事業」 2014.3.1

記事公開日:2014.3.1取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)

 「国土強靭化法は『政治的、社会的、経済的に、国土を強靭化する』というもの。日本全体を、今までと違う方向に向ける戦略だ」──。

 2014年3月1日、沖縄県那覇市の沖縄県立博物館・美術館で、日本環境法律家連盟(JELF)主催によるシンポジウム「沖縄の自然環境と公共事業」が行われた。基調報告をした市川守弘氏は、国土強靱化法で次々と行われる公共事業に、市民が対抗していくための取り組みについて語った。

 また、米軍基地の名護市辺野古への移設を問題視する籠橋隆明氏は、「世界各地の文化財を守らなくてはならない」という、アメリカ版文化財保護法の存在に言及。「アメリカの法律で、辺野古のジュゴンを守る」という新機軸で、裁判を闘う姿勢を示した。

■ハイライト

  • 基調報告 市川守弘氏(弁護士、札幌弁護士会)「質的に変わった今の公共事業と守るべき自然」
  • 各地の事例報告
    やんばる林道環境保全整備事業 喜多自然(きた・じねん)氏(沖縄弁護士会)
    那覇空港拡張事業 赤嶺朝子氏(沖縄弁護士会)
    泡瀬干潟埋立事業 日高洋一郎氏(沖縄弁護士会)
    辺野古埋立事業 籠橋隆明氏(愛知県弁護士会)
  • 日時 2014年3月1日(土)17:00~19:00
  • 場所 沖縄県立博物館・美術館(沖縄県那覇市)
  • 主催 日本環境法律家連盟 (JELF)

国土強靱化法で公共事業が無尽蔵に行われる

 市川守弘氏は、自民党による国土強靱化政策について、「自民党は、いずれ、民主党政権が倒れて、自分たちの時代が来るという確信から、国土強靭化戦略という大きな戦略を立てていた。その後、自民党が政権をとって、国土強靭化基本法となった(2013年12月成立)。一般には、この法律は、公共事業の法律と考えられている。間違いではないが、実は、この法律は『政治的、社会的、経済的に、国土を強靭化する』という中身である。堤防を作ることが、政治的に国土を強靭化するとは思えない。政治的強靭化とは、昨年、国会を通った特定秘密保護法になる。つまり、これは、かなり長期的構想を描いた中で、日本全体を、今までと違う方向に向ける戦略である。その中に、公共事業が位置づけられている」と述べた。

 市川氏は、公共事業に関して国土強靭化法を見ると、「10年間で100兆円かける。とにかく、お金をどんどん使う。消費税増税で財政的担保をつけて、国土強靭化政策を実行していくことは、はっきりしている。これで、公共事業はどう変わるかというと、災害とうまく結びつけられている。全国の海岸線を防潮堤で囲む計画が進み、東北では具体的に防潮堤の設計図ができている」とした。

 「しかし、従来の費用対効果を考えるなら、多額のお金を使って、景色を悪くする防潮堤を作ることがいいのか、それとも、住民に高台に移動してもらうのか、いろいろと選択肢はあるはずだ。だが、そういうことはお構いなしで、とにかく、作る。費用対効果が関係ないのが、国土強靱化法のあり方である」と指摘した。

公共事業から自然環境を守るには、市民が自ら調査を

 市川氏は、公共事業の裁判でどう闘うかについて、「熊本県の路木ダム建設の裁判では、勝訴判決が出た。ダムを作る時の治水経済調査マニュアルに反していることを、具体的に詰めていった結果だ。裁判所は、一般的な政策論には絶対に乗ってこないが、国交省が作ったマニュアルを攻めれば、勝てる。そのためには、自然環境そのものを、私たち自身が調査することである。市民レベルでフィールドに出て調査すればいい」と提案した。

 続けて、北海道の北見道路の訴訟(通称モモンガ訴訟)の判決を具体例として挙げ、「自然環境の問題では、画期的であった。生物多様性条約も、たとえば貴重な動植物の生息地や、生育地を破壊するような場合には、『条約に違反して違法』と判断できる場合もある、とはっきり言った。そのためには、自然がどれくらい壊されるのかを、私たち自身が調査すればいいだけである。そうすると、従来のように行政の裁量権の範囲内だということは、裁判所も言えなくなる。今、公共事業が変わり、推し進められている。それに対抗する方法は、私たち市民がまとまって力を持って、調査し、何が問題であるかを突き詰めることである。そうすれば、勝利は市民の手に訪れる」と力を込めた。

アメリカの法律で、辺野古基地建設を止める

 籠橋隆明氏は、アメリカの法律を使って、米軍の辺野古基地建設を止めようという試みについて、「NHPAという、アメリカ版の文化財保護法がある。この法律は、世界遺産条約を執行する位置づけの法律だ。この中に、『アメリカ政府は、世界各地の文化財を守らなくてはならない』という条文が存在している。そうすると、日本の文化財を、アメリカ政府は守らなければならない。沖縄のジュゴンは、日本の天然記念物。日本の文化財保護法によって指定された、文化財である。だから、アメリカ政府はジュゴンを守らなければならない、という論理が成り立つ。これを、アメリカの弁護士と協議して進めている」と概要を示した。

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