「福島の復興より東電の再建か?」 〜福島とともにシリーズNo.5 個人線量? 等価線量? 2014.1.26

記事公開日:2014.1.25取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部玲/奥松)

 「空間線量率から推定される線量と、個人線量では6倍ほどの差が出て、後者の方が数値が低くなる。昨年12月26日の環境回復検討会は『個人線量を基本とすべき』と環境省に提言。結果的に除染エリアと予算が縮小された」──。

 2014年1月26日、新潟市のクロスパルにいがたで、いのち・原発を考える新潟女性の会第22回学習交流会「福島とともにシリーズNo.5 個人線量?等価線量?」が行われた。講師は、同会の桑原三恵氏。昨年12月20日に、政府が閣議決定した新指針「被曝線量を個人線量計で把握」とは、どのような意味を持つのか。また、泉田新潟県知事の言う「甲状腺等価線量で260ミリシーベルト」とは、どういうことか。詳しい解説がなされた。


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福島復興ではなく、東電再建?

 桑原氏は、まず、2013年12月20日に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」について、「国会審議は尽くされたのか。被災者の声は生かされているのか」と問題提起した。

 「政府は、避難指示区域の全員帰還を断念したが、これは前からわかっていたこと。1. 住宅の修繕・解体・建替え、2. 宅地・住宅取得費用を追加、3. 避難指示解除後1年間、精神的損害等の賠償を継続、4. 早期帰還者への賠償(90万円)を追加したが、特に4は、そもそも放射線量が高くて帰れないのだから、これは問題」と指摘した。

 さらに、「安倍首相は施政方針演説の中で、『東電任せにせず、国が前面に出る』と述べたが、具体的に何をするのか。ただ、お金を出すだけのようだ。柏崎刈羽原発の再稼働を前提に、廃炉、汚染水問題に取り組んでいくようだが、その負担は、誰が強いられるのか。『原子力災害からの福島復興の加速に向けて』は『東電再建の加速に向けて』ではないのか?」と、痛烈に批判した。

国が、除染を支援するのは法律違反

 具体的には、「政府からは5兆円という額が、原子力損害賠償機構に交付され、それが東京電力に資金援助されている。一方、東電と原発を保有する電力会社は、一般負担金という形で、原子力損害賠償機構にお金を返しているが、それは電力料金に上乗せされている。つまり、私たちが支払っている」と解説。

 また、「除染費用は『放射性物質汚染対処特措法』で、東電が全額負担すると規定されており、除染を国が支援するのは法律違反。『汚染者負担の原則』にも反している。表向きは東電が負担することで建前を維持し、国が支援機構に、東電返納義務ゼロの国費を投入して支援するシステムは、2011年に作られた。ほとんど国会で審議されず、自民党、公明党の提言をもとに政策決定されたことにも、大変問題がある」とした。

個人線量の把握とは?

 桑原氏は、個人線量の把握による被曝管理を根拠づけるために、「原子力規制委員会が利用された」と言う。「原子力規制委員会は、2013年11月に『帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方』の検討チームを発足させたが、たった4回の検討会で、次の3つが決定された」と述べた。

 「1. 帰還住民が個人線量を把握する、2. 国は個々人の被曝低減・健康不安対策を講じていく、3. 対策を通じて、個人が受ける追加被曝線量を、長期目標として年間1ミリシーベルト以下になることを、引き続き目指していく」。

 その上で、「しかし、空間線量率から推定される線量と、個人線量では6倍ほどの差が出て、後者の方が数値が低くなる。昨年12月26日の環境回復検討会は『個人線量を基本とすべき』と環境省に提言。結果的に除染のエリアと予算が縮小された」と、重要なポイントを指摘した。

 そして、桑原氏は、2014年1月1日の産経新聞に掲載された、新潟県の泉田知事の新春インタビューの言葉を、次のように紹介した。「福島県では、線引きが恣意的にされていて、年間積算放射線量が5〜20ミリシーベルトに入る地域の人は悲劇です。ぜひ書いてもらいたいが、年間放射線量5ミリシーベルト以上は、一般には放射線管理区域で18歳未満は就労禁止なのに、なぜ、帰れる可能性があるのか。福島県民だけは、そこで子育てしていいのでしょうか。真っ正面から向き合うべきです」。

等価線量260ミリシーベルトの持つ意味

 等価線量については、「『実効線量』は、全身が受ける放射線量。『預託実効線量』は、内部被曝によって受ける放射線量。『等価線量』とは、局所被曝のことで、個別臓器・組織ごとの局所が受ける放射線量。甲状腺等価線量260ミリシーベルトとは、最悪の事故状況でフィルタベントを使用した時の被曝量を、新潟県が東京電力に試算させて得た数値だ。フィルタを付けても、ヨウ素と希ガスは除去できずに出てくる。甲状腺等価線量50〜100ミリシーベルト以上の放射線被曝により、甲状腺にがんが過剰に発生することが、広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査や、チェルノブイリ事故などの調査により知られている。また、その発生確率は、特に乳幼児において3〜5倍と高くなる」と解説した。

 現在の対応状況としては、「泉田知事は、2013年10月16日に、フィルタベント調査チームを設置。原子力規制委員会が、東京電力に『フィルタベントの運用手順の確からしさの説明』を求めたことに対し、新潟県は、12月2日に防災局長名で東電に申し入れ書を提出。『ベントの際には、住民の被曝を避けることが必要である』『有効な避難を行うために、どのような情報が得られるか。どの程度の放射性物質が、どこに飛散するか。避難準備を、誰の責任で、どのように整えておくかなど、十分な協議が必要である』『自治体との合意なく、運用手順を規制委員会へ説明することがないように』などを求めた」と、詳細な報告をした。

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