平賀緑氏(食料政策研究家)お話会 「私たちの食に、今、なにが起きているのか?」 2014.1.24

記事公開日:2014.1.24取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ 荒瀬/奥松)

 「放射能以外でも、食の安全を脅かすものはたくさんある」──。

 2014年1月24日、京都市左京区岩倉のNONベクレル食堂で、「平賀緑氏(食料政策研究家)お話会『私たちの食に、今、何が起きているのか?』」が行われた。平賀氏は、貧困と飢餓の問題が世界的に広がっていることを指摘し、食卓から世界を変える可能性について、食を巡る動きを踏まえて講演を行った。

■全編動画

  • 話 平賀緑氏(食料政策研究家、持続可能な食とエネルギー情報室代表)

食のグローバル化──選択は個人だけの問題ではない

 「食を巡る問題は、日常的すぎて真剣に取り組む人が少ない」と前置きした平賀氏は、「世界で飢餓に苦しむ人口は9億〜10億人と言われ、その一方で、肥満問題に悩む人は10数億人とも言われている。しかも、貧しい人ほど肥満に苦しんでいるという『貧困と肥満』の問題もある。」と述べた。

 「世界では大規模な農業が主流、のように言われることがあるが、それは全体の3割程度。7割の『小さい農家』が、世界の食料を支えている。しかし、食べていけないのは『小さい農家』の方だ。世界の飢餓人口の半分は小規模な農家であり、2割が土地を持たないような農村部の農家、その他が都市部の貧困層となっている」と説明した。一方で、世界の食品の半分は、流通の過程で無駄になっていると指摘した。

 平賀氏は「食べ物を巡るシステムがグローバル化することで、世界の穀物の9割が、4社から5社の企業により牛耳られている」と話す。それは、小麦、米、トウモロコシ、大豆など多種類にわたり、動物の餌や燃料になるものも含まれているのが現状だという。

 小売りのスーパーマーケットも、大手に統合されつつあることに懸念を示した平賀氏は、「生産者と消費者の間は『砂時計モデル』と言われるように中間部分が細くなり、結果として農家の収入は下がり、消費者の食費は上がる、というシステムになっている。」と述べた。

NAFTA後のメキシコは、TPP後の日本の姿なのか

 平賀氏は、1994年にアメリカ・カナダ・メキシコ間で結ばれた貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)の影響により、協定発効から20年後のメキシコは、米国を越える肥満国になったことを紹介した。

 「アメリカは、子どもの寿命が大人よりも短くなったことが問題になるくらいの肥満国だが、メキシコは、それを越える肥満国になってしまった。国民の7割が太り過ぎか肥満で、6人に1人が糖尿病。それにより、年間7万人が命を落としている。一方で飢餓もあり、飢餓と肥満が共存する典型的な例となっている」。

 平賀氏は、「アメリカからメキシコへは、大量のジャンクフードの材料となる食品が流れ込み、畜産の大手企業の投資が行われる一方で、メキシコに元々あった畜産会社はつぶれ、労働者は失業してしまった」と述べ、給料も安くなった労働者たちが、カロリーが高く、値段の安いジャンクフードを食べてしまうことで、さらに肥満を促す環境になっていることを指摘した。

食卓から世界を変える

 大手のファストフード企業は、大人の世代ではなく、子どもたちをターゲットにした広告に多額の金額を費やしており、食品の世界的な品質基準とされている「コーデックス」でさえ、会議の中心となるホスト国は、業界で力を持っている国が決めているという。「日本は、ハーモナイゼイションで、それに合わせていく動きになっている」と平賀氏は説明した。

 最後に、「一方では、世界中で『食の権利』を巡る動きもある。食の正義や食料主義とも言われるが、素性のわかる食材を使い、どのように育てられ、どのように料理されているのかを、自分で考えることが大事だ。たくさんの小さな人たちが、それぞれでがんばっていけば、世界を変えていくことができる」と結んだ。

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