「原発安全神話は、放射能安全神話に変わってしまった」 〜原子力市民委員会 意見交換会 2014.1.13

記事公開日:2014.1.13取材地: テキスト動画
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 「原発維持は、脱原発より困難だ」──。細川弘明氏は「施設の老朽化、再稼働のための追加設備コスト、電力自由化と競争、使用済み燃料の処置などを考慮すると、脱原発の方が安上がりだ」と指摘した。

 各委員からの報告後、参加者からも「放射線管理区域の労働者に、放管手帳(放射線管理手帳)交付の義務があるなら、同様の汚染地帯に住む住民に何もないのはおかしい」「行政の縦割り、学者同士の勢力争いばかりで、被害者は置き去りにされている」との意見が寄せられた。

 2014年1月13日、福島県郡山市にある福島教職員組合郡山支部教組会館で、原子力市民委員会の主催による「『原発ゼロ社会への道──新しい公論形成のための中間報告』意見交換会」が行われた。特に第1部会:福島原発事故部会メンバーでまとめている、「第1章 福島原発事故の被害の全容と『人間の復興』」の中間報告について、意見交換が行なわれた。

■全編動画 ※配信状況により、録画が一部欠けております。何卒ご了承ください。

  • 出席者
    島薗進氏(上智大学神学部教授、原子力市民委員会福島原発事故部会部会長)
    荒木田岳氏(福島大学行政政策学類准教授)
    石井秀樹氏(福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任准教授)
    大沼淳一氏(元愛知県環境調査センター主任研究員)
    細川弘明氏(京都精華大学人文学部教授)
    満田夏花氏(国際環境 NGO FoE Japan 理事)
    武藤類子氏(福島原発告訴団団長) ほか
  • 日時 2014年1月13日(月)
  • 場所福島教職員組合郡山支部教組会館(東福島県郡山市)
  • 主催 原子力市民委員会告知

事故対策支援の原則は「人間の復興」

 細川弘明氏の「原子力市民委員会の認識として、福島原発震災の多面的で深刻な影響」の説明から中継は始まった。細川氏は「原発維持は、脱原発より困難だ」とし、その根拠を「施設の老朽化、再稼働のための追加設備コスト、電力自由化と競争、使用済み燃料の処置などを考慮すると、脱原発した方が安上がりになる」と述べた。

 「事故対策支援の原則は、『人間の復興』。そのためには、被曝を避ける権利、被害を過小評価しないこと、情報公開、意思決定への公正な参加が不可欠だ」。

 荒木田岳氏は、第1部会でまとめた報告書に対して、「被害者の意見を取り入れることに、もっと努めるべきだ」とコメントした。

 武藤類子氏は「事故後の政府、東電の対応で、被害は広がった。3年たって、良くなったところがない。人間の尊厳が奪われていると、痛切に感じる」と話した。

 石井秀樹氏は「福島の被害はひどいというが、風評被害などを恐れ、被害者はそれを隠したがる。ゆえに、被災者の生活支援とセットにしないと、解決にはならない」との意見を述べた。

「原発安全神話」が「放射能安全神話」に

 第2部では、会場の参加者からコメントを求めた。「原発いらない福島の女たち」の佐々木慶子氏は、「原発事故は、これまでの社会のひずみ、男性中心社会が招いた結果だ。分析も大事だが、やはり、実行に移す政治を」と話した。

 いわき市議会議員の佐藤和良氏は「原発事故収束、廃炉に向けた方向性の提案、対応策や、現時点で把握できる限りの被害状況を明示すべきだ。被災地では、『原発安全神話』は『放射能安全神話』に変わってしまった。少しぐらいは耐え忍ぶべき、という意識が浸透しはじめている」と懸念した。

 さらに、「国側は『健康管理手帳の交付は、絶対やらない』と言っている。被災者の基本的な健康と生活を守るためのベースは、そこにあるのだが」と述べた。

 参加者の1人は「復旧作業などを、従来の労働行政から逸脱しないで処置しようとしているが、不可能だ。除染も、2万人の従事者がいるというが、トラブルや差別も多い」などと語った。

 郡山市議会議員の滝田はるな氏は「子どもたちへの放射線対策が心配。被曝を少なくする処置、除染、ホールボディカウンターなどは充実させているが、目くらましにしている可能性も否めない」とした。

 「福島には、仮設の焼却炉がどんどん作られている。現在、相馬市では1日580トンを焼却している。しかし、環境アセスメントや住民への説明、合意形成などは、何もない」と話す住民もいた。

 郡山市議会議員の駒崎ゆき子氏は「議会では、放射線の危険性を言えなくなってきている。行政側は、放射線量を公表しない。放射能被害をなかったことにしている。不安がある母親は、口に出せずに悩んでいる」と現状を訴えた。

「真実を隠すことで、健康が守られる」という考え

 休憩後、島薗進氏は「学者たちがいい加減なので、この問題に取り組みはじめた」と、委員になった動機を語り、住民の分断、健康手帳交付の問題、被曝労働者の環境、健康対策、保養プログラム、焼却炉、除染廃棄物の処理など、さまざまな考察点を挙げた。さらに、「真実を隠すことで、健康が守られるという考えは、間違いだ」などと指摘した。

 大沼淳一氏は「水俣病では8万人の被害者に対し、認定患者はたった5000人だ。福島は、この前例を省みて進めるべきだ。焼却炉はバグフィルターもなく、どんどん燃やしている。すでに、伊達市ではセシウム飛散が確認されている」とした。

 また、「子どもの保養計画では、愛知県や滋賀県などが、保養受け入れを提案したが、政府が圧力をかけた。結局、福島県が提案に応じないので宙ぶらりんになっている」と語った。

 満田夏花氏は「行政側は、一切、住民の意見を聞かずに、ここまで突っ走ってきた。残念ながら、住民側は全敗した印象だ。こういった(支援計画などの)文書は絵に描いた餅で、実施させられるか否かが問題。だが、多くの人と議論の場を持つことは、発展性もある。さらに、拡散することが必須だ」と持論を語った。

行政の縦割り、学者同士の派閥争い、住民は置き去り

 続いて、質疑応答とディスカッションに移った。大熊町の住民は「大熊町は、まったく対応が悪い。白血病で亡くなった40~50代の原発労働者や自衛隊員が、周りに多くいる。彼らは、闇に葬られている。被曝者手帳は絶対に必要だ」と訴えた。

 原発従事者からも「放射線管理区域の労働者に、放管手帳(放射線管理手帳)交付の義務があるなら、同様の汚染地帯に住む住民に、何もないのはおかしい」との声が上がった。

 米の生産業者は「産直農家は、放射能検査の経費や労力がたいへんだ。風評被害も甚大。福島という名前で受けるダメージは計り知れない」と話した。

 また、「行政の縦割り、学者同士の勢力争いばかりで、被害者は置き去りにされている。情報を共有できない弊害は大きい。和食が、ユネスコ無形文化遺産になったが、その食材は、われわれ農家が作ってきたものだ」という自営農家の声もあった。

 会津若松の教師は「中高生たちは、原発事故から3年たって、やっと気持ちの整理がつきはじめた。本当の自分の気持ちと、世間とのギャップも感じ始めている。大人は、こういう会合で気持ちを吐き出すことができるが、彼らにはそういう場がない」と述べ、生徒たちの心理状態を憂慮した。

 ほかにも、「福島の学校給食では10ベクレルまでOKで、福島県庁の食堂は1ベクレルだという。呆れた。子どもたちの意欲喪失、学力低下が著しい。国に、福島の農産物を買わせるべきだ」など、たくさんの意見が寄せられた。【IWJテキストスタッフ・関根/奥松】 

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