「怨霊を鎮めるための神社に英霊を祀った靖国神社」 〜対談会 愛知学院大学 林淳教授・東京大学 安冨歩教授 2014.1.13

記事公開日:2014.1.13取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根/奥松)

 「日本の学問はヨーロッパの価値観の上に築かれてきた」──。安冨歩氏は「西洋のふりをして学問をする理由は、彼らに自己嫌悪があるから。横文字を見ると尊敬する。東大では、外国語ができるだけで地位が上がる」と、ヒエラルキーの強いアカデミックな世界を批判した。

 また、「日本人は感覚的に、責任があると不自由、責任がないことは自由だと解釈する。しかし、ヨーロッパでは、真逆。日本人は、多数決で決めることを、きわめて非民主主義的だと感じてしまうのだ」と述べ、現在、日本が置かれている混乱の原因を分析した。

 1月13日、京都市下京区の市民大学院文化政策・まちづくり大学校で、講師に愛知学院大学・林淳教授、東京大学・安冨歩教授を迎え、「仏教思想による学問のルネッサンス」をテーマにした対談会が行われた。対談は、安冨氏、林氏のほか、参加者たちも加わって、経済学、宗教学、仏教思想、大学機構、東大の内情、日本人の精神性など、多岐にわたって意見が交わされた。

記事目次

■ハイライト

学問は真剣に勉強すればするほど、わからない

 東京大学東洋文化研究所研究員で、司会の山本氏が「仏教をいかに社会に還元できるかについて、仏教の専門家と、分野の違う安冨教授との対話から、何か新しいビジョンが生まれたら面白い」と、この会を開催するに至った経緯を説明した。

 東京大学東洋文化研究所教授の安冨歩氏は、「学問を真剣に勉強すればするほど、わからなくなった。それで、一番最初に打ち当たったのが、選択という概念。選択を始めると選択肢が増えすぎ、考えすぎて、すべて不可能になる」と話し始めた。

 安冨氏は、経済学者ポール・サミュエルソンの「顕示選好理論」の説明から、「ヨーロッパの学問は、すべて選択が基盤になっている。人間にはより良い選択ができる能力がある、と説くカソリックと、それを否定し、人間の選択は神の意志によるという、プロテスタントの対立が根底にある」と言い、旧約聖書のエデンの園の筋書きに、その発端を探り出す。

 また、「なぜ、サミュエルソンの経済理論が人気かというと、入り口が選択説で、結果が予定説になっている。つまり、カソリックとプロテスタントをうまく統合しているから、説得力がある。同様に、ケインズ主義者とマネタリストの対立は、代理の神学論争だ。マルクスの計画経済も、神のご計画なのだ」と経済学者からの視点を述べた。

学問とはキリスト教から神を排除した奇妙なシステムで学ぶこと

 安冨氏は「東大では哲学は、存在論と認識論しか認められていない。それ以外をやると、現代思想と言われる。30年以上、大学で学んできたことは、キリスト教から神を排除した奇妙なシステムだった」とし、「今やっている学問のほとんどは、宗教論争のすり替えだった」と語った。

 「もちろん、学問も科学も否定はしない。むしろ尊敬するが、神学をやっていないのに、神学の延長をやっているというオカルティズムが許せない」と憤り、その解決法に及ぶと、次のように述べた。「まったく宗教的に違う伝統の上に立っている日本人は、西洋学問の体系を眺めて、組み替えればいい。そうすれば違った面があぶり出され、さらに発展できるのではないか、と考えるようになった」。

 「最初に、その探求を『論語』から入った。小人も君子になれる、という思想を見出すと、『歎異抄』に行き当った。阿弥陀如来の救いを信じないものが、救われる原因になる、という論理構造に衝撃を受けた」と本題に切り込んでいった。

稀世の天才・清沢満之「無責任でいることが責任をとること」

 安冨氏は、哲学者で宗教家の清沢満之(きよざわまんし)の東大在学中の超天才ぶりを示すエピソードから、片田舎の寺の隠者になって堕ちていった人生を語った。「彼は、実験という言葉をよく使っていて、人生は実験とみていた感がある」。

 「清沢は、選択の問題についても、すでに考察している。阿弥陀如来の導きに従え、それが他力だ、と言う。つまり、身体(感覚)を信じること。迷ったら、迷えばいいだけ。自分の行為に責任をとろうとすると、関連していくすべてに責任を取らなければならない。それはできない」。

 「ならば、無責任でいることが、責任をとることになる」と、清沢の責任無責任論を紹介。「清沢は、ヨーロッパとはまったく違う伝統を踏まえて、そこにヨーロッパの知識を組み替えて、新しい学問を作り出すことを試みた」と読み取り、「親鸞ルネッサンスは、その思想を踏襲している」とした。

 龍樹(ナーガールジュナ・大乗仏教中観の祖)に、ヴィトゲンシュタインを合わせて解釈した哲学者の黒崎宏氏についても語り、「この理念は仏教ルネッサンス、つまり、仏教によって、智の体系を再生すること。勉強すればするほど自由になることを、目指すことだ」と安冨氏は狙いを話した。

外国語ができるだけで地位が上がる東京大学

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