中央政府を動かすために「この結果を大勢の人に伝えたい!」 ~原発事故による栃木県内への避難者・栃木県北の乳幼児保護者アンケート報告 2013.12.15

記事公開日:2013.12.15取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 安倍政権が進める経済政策「アベノミクス」の成果(=景気回復)が叫ばれる2013年の年の瀬だが、一昨年3月のフクシマショックの影響に苦しむ被災者の数は依然として多い。また、その姿が見られるのは、決して「福島」だけではない。

 2013年12月15日、栃木県の宇都宮大学峰キャンパス大学会館で、福島からの避難者やホットスポットが点在する栃木県北部の乳幼児保護者を対象にしたアンケート(「福島県乳幼児・妊産婦支援プロジェクト(FSP)」実施)の結果報告会が行われた。孤独、収入減、体調不良といった窮状の訴えとともに、被災者の間には、あえて被曝の不安を考えないようにする「諦め」ムードが広がっているなど、悩むべき実態の存在も示された。

 FSP代表の重田康博氏(宇都宮大教授)は「メディアの力も借りて、この現実を少しでも多くの日本人に知らせたい」と重ねて強調した。

 冒頭で挨拶に立った重田氏は「約1週間後にはクリスマスで、そのすぐ後にはお正月が控えている。今の日本は平穏無事な印象だが、福島はもとより、栃木など北関東では、家族そろってクリスマスや正月を迎えられない人たちが大勢いることを忘れないでほしい」と力を込め、「一昨年に起きた福島第一原発事故を受け、日本中に瞬く間に台頭した危機意識は、すでに風化しつつある」とつけ足した。

 集会の第1部はアンケート結果の報告会。最初に阪本公美子氏(宇都宮大准教授)と勾坂宏枝氏(FSPコーディネーター)が登壇し、「福島から栃木に避難中の被災者」を対象にしたアンケートに関する説明を行った。「われわれの目的は、避難者の窮状を把握し、彼・彼女らのニーズを市民団体や行政の支援につなぎ、その後は、国から必要な支援を引き出すことにある」。

■全編動画
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  • あいさつ 重田康博氏(宇都宮大学国際学部教授)ほか
  • アンケート報告
    県内避難者 阪本公美子氏(宇都宮大学国際学部准教授)/匂坂宏枝氏(福島乳幼児・妊産婦支援プロジェクト コーディネーター)
    栃木県北部 清水奈名子氏(宇都宮大学国際学部准教授)
  • パネル・ディスカッション「子ども・被災者支援法の行方」
    大山香氏(栃木避難者母の会 代表)/手塚真子氏(那須塩原放射能から子どもを守る会 代表)/森田省一氏(那須塩原放射能から子どもを守る会 副代表)/関谷暢之氏(栃木県議会議員)ほか

福島との二重生活は負担が重く難しい

 アンケート実施は今年8月で107件を回収した。「あの日以来、人と話すことで恐怖心が高まるようになった」(40代女性)、「私が住んでいた場所は避難解除地域だが放射線量は高い。でも、そういった事実は報道されない」(60代男性)といった声を、勾坂氏が紹介。約1割というアンケート回収率の低さを悔しがりつつも、「戻ってきた用紙からは、被災者の切なる思いが十分伝わってきた」と述べた。

 結果からは、まず、避難者の孤独が読み取れる。「現在住んでいる地域・自治会の人たちと交流があるか」には、約6割が「ない」としている。「福島との行き来(頻度)」については「ほとんどない」が約3割で、「3カ月に1~2回」と「1カ月に1~2回」がともに27パーセントで、これに次いだ。

 収入環境の悪化も鮮明。「主たる収入者の仕事復帰の見通し」は「ない」が3割余り、「経済状況は厳しくなったか」には約6割が「なった」と答えた(「楽になった」は2パーセント)。福島との二重生活(=移動費負担)を家計の圧迫要因に挙げる声も多かった。

 健康状態については「悪くなった」と「悪くなる不安がある」が、ともに37パーセント。「変わらない」は31パーセントだった。「疲れやすさや精神面の落ち込み、さらには胃や血圧の不調などが訴えられている」(勾坂氏)。

 子育て中の父母は、子どもの「友人関係」に不安を抱えていることも判明した。「夏休みなど長期の休みには、遊び相手がまったくいない」(40代女性)。また、「自主避難者は保育園の入園は受け付けられないと聞いた。家計を支えるため(子どもを預けて働けるように)、入園を受け付けてほしい」(30代女性)との声も届いている。

「東電の対応」に不満が噴出

 では、避難者は、国や行政からいかなる支援を受けているのか。「東電へ賠償請求をしたか」では、77パーセントが「した」と回答。請求内容は「精神的被害」が56人、「財物賠償」が28人だった。「請求方法」については72人が東電への直接請求、「紛争解決センターに申し立て」は8人だった。「専門家による相談・説明会への参加」では70パーセントが「参加していない」と答えた。

 実際の賠償への満足度では、財物では43パーセントが、精神では55パーセントが、それぞれ「低い」としている。寄せられた声には「避難元のローンもあり、もっと額を増やしてもらわないと、かつての生活水準は維持できない」(30代男性)、「東電の対応は、公平でも迅速でもない」(50代女性)、「国も東電も態度があいまいだ。言動の不一致が顕著」(70代女性)などがある。

先の見えない状況、募る不安

 今後については、「これからの状況次第」との回答が55パーセント。先が見えないことに81人が不安を感じている。「福島に戻りたいけれど、戻れない」(40代女性)、「戻る・戻らないで、夫婦間で意見が割れている。原発離婚になりそうで怖い」(60代女性)といった声が届いており、「借り上げ住宅制度が終了した時に、戻らざるを得ない」という答えも約1割あったという。

 借り上げ住宅制度について、阪本氏は「その長期化を望む声は多い」と指摘。「栃木県は『延長』を内定しており、今月中にはホームページで詳細が公表される」と、集まった市民らに情報を提供した。

 なお、回答者が「必要性が高い」とした具体的支援策には、「18歳以下の被曝測定と無料の継続検査」「住民票の有無を問わない、無料の検査・医療体制」などがある。

表土除去を「福島」以外にも

 続いては「栃木県北部」を対象にした、乳幼児保護者向けアンケートの結果報告で、清水奈名子氏(宇都宮大准教授)が登壇。「当初、われわれFSPは、福島から栃木に避難してきた妊産婦を支援するつもりだったが、その後、那須塩原など県北部に、福島と同水準の放射能汚染地帯があることがわかった」とし、原発事故から3年目を迎える県北は、県央・県南に比べ、「今も空間放射線量が高い」とした。また、佐野市、鹿沼市、日光市、大田原市など8つの市町が、国によって「汚染状況重点調査地域」に指定された、とも伝えた。

 「県北部には宇都宮市の10~100倍に相当する、毎時0.23ミリシーベルトという、年間で1ミリシーベルト以上になるホットスポットが点在している」と続けた清水氏は、その理由を「福島で行われている、もっとも効果がある『表土除去』が、栃木では行われないため」と説明した。

 そして、「栃木の放射能汚染の問題は、全国的に認知度が低い」と懸念を示し、県央の低い汚染度合いを取り上げて「県全体の汚染はたいしたことはない」との誤ったイメージが日本中に広まると、それが国の「対策意欲」の低下につながる、と危惧した。

 清水氏は、県北部には、放射能汚染の問題を日常生活で話題にしにくい雰囲気が横たわっている、と見ている。「その種の話を少しでも口にすると、『あなたは不安を煽るのか』と周囲から冷たい目で見られがち。であれば、無記名のアンケートで本音を言ってもらおうと、今回のアンケート実施に踏み切った」。

「リスク回避の動き」には衰えも

 今年度調査は、去る8~10月に行われ、2202件を回収(回収率は68パーセント)。那須塩原市と那須町にある合計38の保育・幼稚園に通園する子どもの父母を対象にした。

 回答では、「原発事故前と同じ仕事をしている」と「収入面に大きな変化はない」がともに約8割と、経済面では避難者ほどネガティブな結果は出なかった。しかし、「内部被曝が子どもの健康に与える影響」では「おおいに不安」が36パーセント、「やや不安」が48パーセントと、放射能汚染を巡っては避難者と同様に、多くの世帯が不安を抱えていることがわかった。「原発事故から3年目を迎え、その不安が変化したか」との質問には、「変わらない」が71パーセントで、「大きくなった」が8パーセントだった。

 「行政による母乳および尿の放射性物質簡易検査事業を利用したか」では、「した」がわずか5パーセント。利用しなかった理由のトップは「被曝について考えることがストレスになるため」で18パーセントだった。「外遊びでは線量の低い場所に出かけているか」では「以前はそうしていたが、今はしていない」が42パーセント。「放射性物質と健康被害に関する知識」については、51パーセントが「あまりない」と答えている。

「騒がれると、観光産業に響く」というクレーム

 アンケート結果の報告が終わると、集会は第2部のパネルディスカッションに移った。演題は「子ども・被災者支援法の行方」だったが、支援法に限定されない議論が繰り広げられた。

 大山香氏(栃木避難者母の会代表)は、福島から自主避難中の立場。昨年6月から実施している訪問支援で強く印象に残ったのは、「那須塩原で『市民グループにあまり騒がれると、自分たちの観光の仕事に響く』とクレームを受けたことだ」と述べた。大山氏は「すごく難しい問題」とした上で、自主避難という選択肢の残酷さを、次のように語った。

 「放射能が怖い、というあたりまえのことを、世間に向かって言えないもどかしさがあった。近所の人たちを残して自分だけ逃げることは、もしかしたら間違いではないかと思い悩んだ。孤立・孤独感でいっぱいの自主避難だった」。

 この発言を受け、清水氏は「福島から県外へと、自分の意思で避難した家族が、福島に帰還すると、地元の人たちに受け入れられにくい、という事情もある」と指摘。大山氏も「実際に戻った人からは、『こんなことまで言われるのなら、福島に帰ってこなければ良かった』という声が聞かれる」と明かした。

支援法基本方針に「栃木県の要望」は反映されず

 手塚真子氏(那須塩原放射能から子どもを守る会代表)は、被災者支援法について、栃木県が安倍首相や根本復興大臣に対し、「県の支援対象地域入り」を求める要望書を提出した件に言及。「残念ながら、努力は実を結ばず、国は10月に基本方針を閣議決定し、栃木県は『準支援対象地域』にされてしまった」。手塚氏は、「予算の面で、栃木は不利な立場に置かれると思うが、支援法には『被災者の声を聞く』という基本精神があるはず。それを実行する前に、こういった重大なことを決めてしまうのは、やり方がずいぶん荒っぽい」と批判した。

 「確かに、被災者の声にいちいち耳を傾けたら収拾がつかなくなる、という向こうの言い分も、わからないではない」と言葉を重ねた手塚氏は、「だが、住民の声を十分に聞かずに行政が始めるサービスには、税金の無駄使いにつながる可能性がある」と強調。国は、被災者支援法の取りまとめを通じて、市民の声に耳を傾ける術を学んでほしい、と訴えた。

 栃木県議会議員の立場で出席した関谷暢之氏は、「栃木県が、支援法で準支援対象地域に指定されたことが残念」としつつも、「今やれることは、今日説明されたアンケート結果や地元住民の声を、中央政府に届けることに尽きる」とし、まだ希望はあることを力説した。

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