「そもそも、この部会のあり方が不明だ」時期尚早の記者会見は「?」でいっぱい ~第1回「甲状腺検査評価部会」 2013.11.27

記事公開日:2013.11.27取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 「甲状腺の個別の症例に対し、この部会が因果関係を語ることはしない」──。

 2013年11月27日、福島市内にあるグランパークホテルエクセルで、「甲状腺検査評価部会」の初会合が、星北斗氏(検討委員会座長)をはじめとする委員会の面々に、加藤良平氏(山梨大大学院教授)、渋谷健司氏 (東京大大学院教授)、欅田尚樹氏(国立保健医療科学院部長)ら、外部有識者が加わって行われた。

 「甲状腺検査評価部会」は、東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の健康への影響を調べている、福島県の県民健康管理調査検討委員会が設置したもの。福島県と福島県立医大が実施する「甲状腺検査」への県民の関心度が高い上に、同検査は委員会内部でも主要議題になっているため、外部から有識者を招き、これに特化した専門的議論を深めることが目的である。

※14時からの会議の模様を、21時過ぎより配信しました。

■全編動画

  • 議事
    (1) 部会長選出、副部会長指名/(2) 甲状腺検査について/(3) その他
  • 記者会見
  • 日時 2013年11月27日(水)
  • 場所 グランパークホテルエクセル(福島県福島市)
  • 主催 福島県「県民健康管理調査」検討委員会

スタンスが曖昧なまま、部会がスタート

 冒頭、挨拶に立った星氏は、この部会の役割を「(甲状線検査の)結果が判明してきている中、多くの県民が不安に思っている、検査結果と放射性物質の拡散の因果関係などについて、専門的な立場からきちんと読み解いていきたい」と語り、これまでの検討委員会の活動では十分にカバーできなかった部分を、部会の活動で補っていきたいとの意向を示した。

 しかし、ほかの委員が星氏と同じ考えというわけではなく、この時点では、部会の「あり方」の統一的な認識は、委員の間になかったことが判明。会合終了後の記者会見では、何人もの記者が、この部会の「あり方」に関する質問を投げかけ、やはり何人もの委員がこれに応えているが、どれもまだ個人的な見解の域にあり、具体性に欠けるものとなった。

 福島県民にとって最大の関心事ともいえる「被曝と罹病の因果関係」については、部会側は、状況に応じてこれをテーマとして扱うこともあるとしながらも、「個別の症例に対し、部会が因果関係を語ることはしない」と言い切っている。ある記者は、先の挨拶でも示された星氏の考えを指摘しながら、「当初は、この部会の中にも個別の症例に踏み込む動きがあったのではないか」などと突っ込んだが、「部会が個別の症例を扱うのは特別なケース」と返されている。

 星氏のあいさつに続き、部会長選出と副部会長指名が行われ、部会長には検討委員会の清水一雄氏(日本甲状腺外科学会前理事長)が、副部会長には外部有識者の加藤氏が、それぞれ就任した。清水部会長は「原発事故後のチェルノブイリでの甲状腺調査から得た知見を、この部会に生かしたい」と抱負を口にした。

「福島だけが、悪い結果ではない」

 その後、甲状腺検査の実施状況の報告へと移行。2013年度の分は、去る4月22日にスタートし、34市町村の対象者、約15万8千人について検査を実施している。説明用DVDが再生され、「水分からなるのう胞は、良性と判断できるが、結節には、がんが含まれる」「結果の判定基準にはA、B、Cの3段階があり、BとCには2次検査が必要で、そのうちのCは急を要する」といったナレーションが会場に流れた。

 去る9月末までに明らかになった結果では、合計で約23万人の受診者(震災時18歳以下)のうち、要2次検査対象者は約1500人(全体の0.7パーセント、Cは1人でパーセント値は0)。福島県の担当者は「今年3月発表の全国調査(長崎、弘前、甲府の約4300人が対象)の結果でも、Bは1パーセント。対象年齢に違いがあるものの、福島だけが悪い結果ではない」と説明した。

 なお、福島で、穿刺吸引細胞診(2次検査)などの結果、悪性または悪性疑いが示されたのは59例。そのうち、当人の選択で手術(通常診療)に踏み切った27例については、良性結節が1例で、乳頭がんが26例との結果が出ている。

県も認める、将来の不安

 検査が進むにつれ、がんと診断される事例が増えているが、委員会や福島県立医大は、被曝との因果関係について、少なくとも現時点では否定的な立場だ。まだ、原発事故からの経過年数が短く、「チェルノブイリで小児の甲状腺がんが多発したのは、事故から4~5年後だから」というのが、その理由だ。

 福島県の担当者は、県民全体の甲状腺線量は中央値として10ミリシーベルト未満であり、比較的高線量の地域でも、甲状腺線量の90パーセンタイル値(下方から何パーセント目に当たるか)は30ミリシーベルト程度と推計されたデータを紹介。その上で、1. チェルノブイリに比べ、福島では放射性ヨウ素による被曝は少ないと想定されるため、甲状腺がんの増加は考えにくい、2. だが、将来的には子どもたちに甲状腺がんが増加するのではないか、という不安がある──との見解が示されていることを紹介した。

「検査の継続」をどう啓蒙するか

 出席した外部有識者からは、検査の「継続性」をどう担保するかが重要との意見が出された。「検査の意義を、県民が正しく理解することが大前提」と力説した欅田氏は、「学校の健康診断のように、個人単位で結果を開示していくのとは異なるだけに、県が油断すれば、(自分は心配ないからと)『検査』から離れていく県民が続出しかねない」とした。渋谷氏は「県民から信頼される検査にするには、受診者の不安に個別に対応していくことが大切だ」と強調した。

 「甲状腺検査」は2015年度に、事故発生から1年間に生まれた子どもも加えて本格検査に入る。20歳までは2年ごと、それ以降は5年ごとの継続検査だ。

 この部会の「あり方」に関する議論も、多少は交わされた。清水部会長が「県民から信頼される会合にするために、出席者の間で意見を取り交わしたい」と話すと、欅田氏は「この部会は、多方面の専門家が議論を交わし、県が進めている『甲状腺検査』に軌道修正が必要な箇所があれば、それを指摘し、逆に正しく運ばれている部分については評価し、それを住民に伝えていくことになる」との考えを示した。

 会合終了後に同会場で行われた記者会見では、この部会の「あり方」に関する質問が相次いだが、はっきりとした答えが得られたのは、「被曝と罹病の因果関係」に関するものだけであった。部会側は「がんが見つかった個々の患者に対し、被曝との因果関係を明確に示していくことはできない」と言明し、「個別の症例につき、その検査が正しく行われているかを、部会がチェックすることもない」とした。

「具体」は語られず

 一方で、「多方面から有識者を募ることで、検査結果の分析の精度を上げることが、この部会の役割」と部会側から示されており、「来夏には検査が一巡する。対象となる37万人の検診が終わったという全体像を見た上で、揃ったデータを第三者の立場で多角的に議論し、その結果を県や県民にメッセージとして伝えていく」との説明があった。

 これに対し、ある記者が「どのようなメッセージになるかイメージしにくい」と迫るも、返された言葉は、「専門家が、自分たちの世界の中で語るのではなく、一般人に対し、自分たちの理解をわかりやすく説明していくことがベースになる。ただ、メッセージの中身が具体的にどのようになるかは、今は想定できない」との要領を得ないものだった。

 検討委員会側からは清水修二氏が「本会である検討委員会がまとめた見解の正否を、部会がチェックしてフィードバックし、委員会が議論を深めるという図式もありではないか」と提言。同氏が「この部会は事前打ち合わせをしておらず、メンバーの間に部会のあり方に関する統一的認識は、まだない」と明かしており、この部会の真価を判断するためには、来年3月に予定されている第2回会合の開催を待つことになる。

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